中国の不動産バブル崩壊!(7)連鎖的な金融機関の破綻がとまらない

中国の不動産バブル崩壊の実態が、数字となって現れ始めている。これまで日本や米国がすでに体験した事態とはいえ、この国のバブル崩壊がもっと悲惨になりうるとすれば、政府が現実を真正面から認めない、きわめて硬直した独裁体制にあるからだ。そこでは、目の前の事実を柔軟に受け止め、最も有効な対策を考案するより、事実を捻じ曲げて、解決済みだと決めつけているうちに、有効な対策を打つべきチャンスを失うことになる。

中国南部の中規模都市、欽州市に住むファン・ホンさんは、長年、包装用品工場を経営してきた企業家である。彼女は中国でも富裕層に属していて、同じような人たちと同様に「低リスク」の金融商品を買い続けていた。ところが、その「低リスク」の金融商品が紙屑になってしまい、何百万元もの損失をこうむった。いま情報を集めて地方政府に陳情に出かけ、他の顧客と一緒に銀行に押しかけて、お金を返すように掛け合っているという。

英経済誌ジ・エコノミスト11月1日号は「習近平は金融の安定化を約束しているが、彼はそれを実行していない」を掲載して、前述のファン・ホンさんが金融商品で大損した話を紹介している。しかし、それは彼女だけ、欽州市だけの事態ではなく、中国全土の中間層に同様の大きな損失が広がっている。5年にもおよぶ、中国政府によるシャドー・バンキング(銀行ではない貸し手)の取り締まりもあって、バルーンのように膨らんだ中国の金融経済が急速に縮んでいる。

「その結果、2017年から現在までの間に、株式市場の資産価値は15%縮小したが、それは銀行システム全体の資産の7分の1にも相当する。そしていま、中国経済は失速していくなかで、低いリスクだとされていた多くの金融商品が、実は高いリスクであったことが明らかになっているのである」

習近平は中国共産党大会で第3期目の総書記に就任したさい、金融の安定化を政策目標のひとつに数えていた。しかし、最も問題なのは、いまや中国で安全な投資をすること自体が、ますます困難になっていることなのだ。金融データ会社イースト・マネーによれば、地方ファンドのわずか1%のみが、今年利益を得ていて、他の地方ファンドはすべて損失を出してしまっている。

特に投資が焦げ付いているのは、いうまでもなく住宅産業であり、政府の取り締まりによって急速に委縮し、住宅価格は多くの都市で下落してしまった。この部門での混乱はそのまま金融市場にもたらされた。富裕層をターゲットにした金融商品は、ふつう100万元以上の場合に許可されていたが、預金やファンドよりも高いリターンを約束していたので、不動産デベロッパーが出資を求めて、この金融商品の販売元に群がった

ある時期までデフォルトはまれだった。しかし、不動産デベロッパーが不調になると、借りた資金の金利も払えなくなることが多くなった。そのため、金融商品の販売元も危機に陥っている。こうした金融商品は40~60%が、民生、万向、華晨の3つの信託銀行によるものだったが、いまは3つとも停滞してしまっている。今年の最初の7カ月で570億元の債券がデフォルトしたが、その約80%は不動産ローンとリンクされていたといわれる。

前出のファン・ホンさんのような抗議活動は中国全土に広がっている。ジ・エコノミストが取り上げている例は、この5月に河南省の鄭州市で開催された抗議行動で、6つのヴィレッジ・バンク(小規模の地方銀行)に預金した400億元が凍結されていることに対するものだった。これらの銀行は、ひとりの大物が支配しているのが普通で、高い金利を約束するオンラインの窓口を通じて預金を集めていた。ところが危機に陥ると大物たちは遁走してしまい、一部の預金者に対しては、地方政府が支払うことも検討中だということである。

また、8月には怒った住宅の購入者たちが、上海にある渤海銀行の支店に、住宅ローンに関する詳しい情報を求めて押しかけている。彼らは住宅を買ったものの、その住宅の建築が止まってしまっているので、入居することができない。にもかかわらず住宅ローンを払うのは理不尽だというわけだ。さらに、9月には、ネットで預金引き出しの噂が流れたため、江蘇省の最大の銀行で取り付け騒ぎが起こっているという。

ジ・エコノミストの見るところ「状況はさらに悪化しつつつある」。中央銀行(中国人民銀行)はすでに都市郊外にあるヴィレッジ・バンク1651行のうち、122行がすでに「高リスク」つまり経営的に危険な状態に陥っていると見ている。こうした危機に陥った銀行は、すでに信用が失われており、利用者たちは自分たちの預金を、もっと信頼できる金融機関に移そうと試みている。

「シンクタンク国際関係評議会のゾンギュアン・ゾー・リューは、いくつかのヴィレッジ・バンクはこうした取り付け騒ぎを避けるために、引き出し上限を強制し、営業時間を短縮し、口座の凍結すら行っていると述べている。しかし、こうした措置は短期的な解決にすぎず、そのためかえって新しいパニックや、追加的な取り付け騒ぎを引き起こすかもしれないという」

政府のトップでは習近平を中心とする幹部たちが声高に「金融の安定化」をとなえていても、中国全土では金融産業の末端がガタガタになってしまい、政府が前提としている秩序を破壊し続けているという矛盾がますます大きくなっている。「ファンさんのような抗議行動を始めた人びとは、中国の金融システムがおかしくなるなどとは、これまで思ってもみなかったのだ」。

おそらく中国の金融当局は、1990年の日本や2008年のアメリカの金融危機とその解決法を研究していたと思われる。しかし、不動産市場の急激な拡大が反転したときには、信じられないほどの破壊力を経済システムだけでなく、社会システムや社会心理に及ぼすため、崩壊のスピードについていけなくなる。なかには政府の資金はいくらでも支出できるのだから、そうすれば経済問題は解決すると考えている人もいるだろう。しかし、中国の不動産バブル崩壊と金融危機は、まさに政府支出を数十年続けてきたことによって準備された危機なのである。

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