中国の不動産バブル崩壊!(10)医療腐敗撲滅キャンペーンは不況から目をそらすためか

外務大臣を更迭し、国防大臣を失脚させ、今度は医療機関の腐敗撲滅を始めた。習近平の中国は、不祥事を叩いているようにみせて、実は、激しい景気後退から国民の関心をそらそうとしている。どこの国でもバブル崩壊後には悪の根源撲滅キャンペーンが見られるが、中国の場合にはその分野の広がりと規模が巨大なものになっている。しかし、「腐ったリンゴを除去するのに、すべてのリンゴを捨てる必要はない」はずなのである。

英経済誌ジ・エコノミスト9月14日号に「中国政府は医療腐敗に対する撲滅キャンペーンを始めた」との記事が掲載されている。「キャンペーンに先立ち、中国政府は今年いっぱい、このキャンペーンは続くと予告した。政府系メディアは『嵐』と呼び、『ショックと恐怖』において前例のない試みだと称賛。21世紀ビジネス・ヘラルド紙はこの腐敗叩きは『深海の領域に高速で入りつつある』と述べている」。

同誌によれば、数日の間に、176病院の院長が取り調べを受けており、貴州省では公的な医療改革団体のトップが拘束されている。キャンペーンはビジネス界をも震撼させ、健康産業分野の株価が大幅に下落し、この業界のある企業の株式は数週間で13%以上の暴落を見せている。また、1ダース以上の薬品企業の株式公開が延期になった。

「しかし、何人かのこの分野の専門家は、政府のキャンペーンはあまりに表に出てきた現象のみに集中していて、肝心の腐敗の原因については無視していると指摘している。もともとこの分野の問題は、政府のサポートが少ないことから始まっており、また、一般の人たちの認識も貧弱なままにとどまっている。体調の悪い人は治療の十分でない医院に行くことになり、たいがいの場合、お札の入った赤い封筒を持参している。これは長く待たされないようにするためである」

順番が回ってきても、ほとんどの患者は過労気味の医師に、たった数分の処置を受けるだけで、しかも、不必要なお決まりの診断で、検査を受け薬の処方箋を渡される。政府による医療基金が不十分なために、公的病院でも患者による支払いへの依存度が高く、医師たちはみな請求書を水増ししてしまうインセンティブが働いるのである。

こうしたなかで腐敗は多くなり、公的機関においても、民間企業においても花盛りとなった。この分野を担当する役人は医療機器も管轄しているが、これがまた賄賂の温床となっている。あるリポートによれば、1500万元分の医療機器購入に、1600万元(220万ドル)の袖の下が払われているという。医療品メーカーの販売担当は、自社の製品を売り込むのに、医師を買収しているというのは周知のことなのだ。

腐敗に満ちたこの「システム」は、1980年代にサービス対価払いが導入されてから発達してきたものだが、利用者たちはなるだけ支払いに応じたサービスを受けたがる。しかし、しばしば、受けたサービスのレベルの低さに激して、暴れてしまう患者がでてくるようになった。「いまや病院に入ってくる人に対するセキュリティ・チェックは、ごく普通のことになってしまっている」。

このような悲惨な現実を考えれば、「ショックと恐怖」のキャンペーンは、本来、国民は賛同するはずだった。しかし、残念ながらこのキャンペーンは、ニューヨークにあるシンクタンクの観察によると、「まったく思っても見なかった、好ましくない結果を生んでいる」という。政府が熱心になればなるほど、常識的で誠意のあるキャンペーンは、おかしな方向へと転落していわけである。

たとえば、このキャンペーンのなかで医師たちは、自分たちが水増し請求の責任を追及される恐れから、必要な治療をやる気力を失くしてしまっている。また、医療分野を担当している役人たちも、同じような恐怖に直面している。この9月9日に上級の医療分野の官僚が、「腐れたリンゴを取り除くために、ほんらいすべきことをやらないで、生きのいいリンゴをダメにするべきではない」と発言して話題になった。

上海にあるヘルスケアを専門とするシンクタンクのジョン・カイは、キャンペーンが根の深い問題を解決するどころか、今年いっぱい続けられるかも疑わしいという。「この問題を本当に解決しようとしている、ガッツのある人がいるかどうかも分からない。というのも、この腐敗システムで利益を得ているグループが、政府内にいるからです」。彼はすでにこのキャンペーンは勢いを失ったと見ているという。

では、このキャンペーンは失敗して、関係した医療関係者と官僚たちが処罰されることになるのだろうか。同誌はそんな心配はいらないと述べている。「中国人民は医療システムについては、ほんとうに気の毒というしかない。非難されるべき病院のボスや薬品会社のCEOは生き残るし、北京政府の官僚たちは、おそらく、このキャンペーンが成功したことにしてしまうからである」。

官僚システムがうまく機能して繁栄した経済や文明というものは、いったん停滞してしまうと、ほとんどの場合が腐敗によってその没落を早めるというのが、これまでの経済史の鉄則といってよい。これからの日本経済を考えるさいにも、ふたたびエリートの指導する経済システムを構想する人が多くなってきた。おそらくは実現しないと思われるが、たとえ実現したとしても、かつてと同じ道を歩むことは、ほぼ間違いないだろう。

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