ポスト・コロナ経済の真実(10)目で見る今の中国経済の「惨状」

中国経済がなかなか回復しない。それどころか、ゼロコロナ脱却後のリバウンドも消えてしまった。なぜそうなったか。それを知るには、まず、中国経済の全体像を見てみよう。消費を回避する消費者が多くなり、不動産を買わない不動産業者が増え、海外のインフレが中国製品の需要を弱めるなかで、もうひとつのエンジンである輸出が萎縮してしまっている。

英経済紙フィナンシャルタイムズ6月17日付は「なぜ中国経済は宙ぶらりんの状態になっているのか」を掲載し、ゼロコロナ解除後のさまざまな経済データを、いくつかのグラフにして見せてくれている。あれこれ説明するより、これらのグラフを紹介するだけで、いまの深刻な中国経済の停滞がしっかりと見えてくるだろう。

なんといっても不動産部門が経済停滞の最大の原因だというのが、多くの経済アナリストの共通した認識といえる。たとえば、ゲイブカル・ドラゴノミクス中国調査部門のクリス・ベドールは「不動産の問題が、いまの中国経済全体の回復のネックになっているというのは、けっして言いすぎではない」と指摘している(グラフはすべてft.comより)。

不動産部門は中国経済の30%を占める経済の牽引車だった。しかし、長いスランプの後に、不動産部門は第1四半期に安定化に向かっている兆しを見せた。ところが、この数週間の間に、再びその好ましい兆候がずるずると消えてしまった。その結果、消費者はこのセクターに深い疑いをもってしまっている。

中国経済のエンジンといわれた輸出部門の後退も大きい。これについてはアメリカとの経済摩擦も関係していると思われるが、米ドルで計算して、4月に年間で8.5%の伸びを見せた後で、7.5%もの下落が見られた。これは海外の経済成長が鈍ったため需要を直撃し、パンデミックの間に、中国経済にとっての危険レベルにまで達したわけである。

小売はいったん上昇したが、その後、ずるずると勢いが低下している。パンデミックのための規制が取り去られたところ、浮ついた消費者が商店に帰ってきたが、最初の刺激の勢いが消えると、月を経るごとにずるずるとレベルは落ちてしまった。ケータリング・サービスも、自動車からの購入や、政策的な刺激やディスカウントで何とかもっているという状態だ。

インフラ投資は5月には一年前と比べて8.8%の伸びをみせたという。しかし、10%の伸びを見せていた当時と比べればやはり低下している。この分野での伸びだけでは、不動産や輸出での低下を埋め合わせることは無理だ。ソシエテ・ジェネラルの中国人エコノミスト、ミッシェル・ラムは「インフラ投資のモメンタムは落ちており、地方政府による土地使用権の販売はきわめて弱い」と指摘している。

かつては、中国政府が不動産部門に直接に投資を行ってこの部門の縮小を食い止めてきた。しかし、すでに長期にわたって「住宅は人が住むものであり、投機の対象ではない」との方針を明らかにし、この部門での成長を維持するため、買い支えをするだろうとの期待を潰してきた。イング社のアジア調査主任のロブ・カーネルは「バズーカ砲的な政府による支援がこれまでの不動産の成長を支えてきた。しかし、習近平はもうその方法は採らない」と語っている。

こうした問題が論じられる場合に、民間企業の投資による赤字と政府の財政支出による赤字は違うという「2分法」を採用する人たちがいる。しかし、少なくとも中国の場合には、政府の財政支出による資金が民間に回って、それが何倍にもレヴァレッジをかけられ、民間企業の危うい投資となって、膨大な民間の赤字となってきた。

つまり、政府の財政赤字は何倍にもなって民間企業の赤字を生み出してきており、それは表裏一体のものであるだけでなく、何倍もの威力で民間企業を破綻させ、同時に政府の政策に対する国民の信用を下落させてきた。このメカニズムのなかで、民間の信用だけでなく政府の信用が下落したときが、このマネーゲームの終わるときだろう。けして、いつまでも継続させることのできる政策ではないのである。

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