ポスト・コロナ経済の真実(13)中国が米国に追いつくのはずっと先というのは本当?

中国経済が停滞しているので、GDPがアメリカを超える時期も、これまでの予想より先になりそうだが、アメリカは楽観していられない。生産性や通貨価値にまだまだ伸びシロがあるからだ。しかし、冷静に考えれば、そもそも、ドル換算で中国の「国力」を測ることに、どれほどの意味があるというのだろうか。

英経済誌ジ・エコノミスト8月3日号は「中国は人口が減り、より生産性が高くなり、そしてもっと物価が高くなる」という記事を掲載している。「GDPがアメリカと同等になるには、数十年先になりそうだ」というわけである。中国経済がいま停滞しているが、特に14歳から25歳までの失業率が46%を超えているとの指摘があるほどだ。しかも、長期的に見たとき、労働人口が下落していくので、中国の将来には暗雲が漂っているとの論説もある。

たしかに、労働人口は減っていくので、その観点からすれば中国経済は、良くて横ばい、悪くすればピークを過ぎて下降していくだろう(下のグラフ左)。しかし、では生産性はどうだろうか。ジ・エコノミストの関連会社EIUの調査およびシミュレーションによれば、中国の企業にはまだ伸びシロがある。つまり、労働投入によらなくても技術革新によって生産性は伸びる(グラフ中)。それは国営企業から技術を移植できる民間企業に可能性があるという。

そこで、生産性を向上させていけば、中国のGDPはアメリカのそれを凌駕できるのか。EIUによればアメリカを超えるには「それだけでは十分ではない」。そのためには、中国の通貨である元が高くなる必要だという。いまの時点で見ても、ドル換算で計算すると、中国経済のGDPは実はアメリカの60%に過ぎないのである。

そこで、中国の元がこれから高くなっていけば、ドル換算をしたとしても、中国のGDPはアメリカとのパリティを達成することができる(グラフ右)。ただし、労働力は低下していくので、これまで予想されていたよりずっと遅くなり、おそらく2040年代中ころと思われるというわけである。

これは朗報なのだろうか、それとも悲報なのか。アメリカにとっては朗報であるように見えるが、実は、喜んではいられない状況なのだ。ある国内での標準的な生活を想定して、それぞれの国でこの標準に達するレベルになるにはどれくらいかかるかを国際比較することを「購買力平価」による比較という。この購買力平価で中国とアメリカを比較すれば、すでに中国はアメリカを超えている(グラフは日本経済新聞より)。

世界はドルが基軸通貨なのだから、それが何の意味があるかと思う人がいるかもしれないが、購買力平価で考えれば、中国国内で何かをしようと思うさいには、同じことをアメリカで達成するよりも、ずっと安くすむということを意味する。ただし、これは中国全体、アメリカ全体での比較で、一人当たりではないので、まだまだ中国人はアメリカ人に比べてリッチだというわけではない。

しかし、たとえば、軍備について考える場合には、国家対国家で比較するわけだから、すでに中国はアメリカと同じ軍備を備えようとすれば、より安く達成できてしまうことになる。もちろん、技術レベルもかかわってくるから問題は単純ではないが、経済レベルではそれが可能だということである。つまり、GDPのパリティに達しなくても、軍事上での課題で、中国はすでに経済的に焦る必要はなくなっているということである。

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