肩肘張らない詐欺ゲーム;『嘘八百 京町ロワイヤル』

『嘘八百 京町ロワイヤル』(2019・武正晴監督)

 映画評論家・内海陽子

 コンゲーム映画と聞けば、やはり『スティング』(1973・ジョージ・ロイ・ヒル監督)で、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの粋な姿がすぐに思い浮かぶ。のちに『スティング2』(1983・ジェレミー・ケーガン監督)も作られたが監督も俳優も交代し、興味を引いたのはコケティッシュな女優テリー・ガーが加わったことくらいだった。

 日本情緒のあるコンゲーム映画『嘘八百 京町ロワイヤル』は、第一作『嘘八百』(2018)と監督も主演俳優も同じである。これだけでもわくわくするが、謎めいたマドンナ役で広末涼子が加わり、シリーズ化の基礎が固まったというかんじだ。このマドンナを次々に変えていけば、『男はつらいよ』シリーズや『トラック野郎』シリーズに迫る、名物シリーズに発展させるのも夢ではない。わたし好みの“オヤジ”として申し分ない中井貴一と佐々木蔵之介が古美術商と陶芸家に扮して、“悪代官と越後屋”ならぬ有名鑑定家と有名古美術店にひとあわ吹かせる。前作同様の結構もシリーズならではの余裕のパターンで、お屠蘇気分の抜けない善男善女に初笑いをお届けします、という肩肘張らぬ姿勢がまことに好ましい。

 肩肘張らぬと言ったが、そこにゆるい手抜きの気配はない。第一作の最後、大金を持ち逃げしようとして空港で捕まった、小池則夫(中井貴一)の娘・いまり(森川葵)は女占い師として京都に一戸を構え、父親と仲よく同居している。贋作作りから脱しようとする陶芸家の野田佐輔(佐々木蔵之介)は、妻・康子(友近)に支えられて個展を開催中。そこへ登場するのがしとやかな和服姿の志野(広末涼子)で、老いた母が古物商にだまし取られた茶器を取り戻したいという相談だ。テンポよく観客を巻きこんでいく勢いは十分で、役どころをすっかり飲みこんだ中井貴一も佐々木蔵之介も男っぷりを上げている。

 わたしは、志野が最も悪知恵に長けた詐欺師で、純情を装って則夫と佐輔をさんざん振り回した後、最後に正体がばれるのだろうと予測したが、これはややはずれた。ただし、彼女が嘘つきなのは確かで、早々に今の職業がホステスであると明かす。広末涼子はしとやかな和服美人よりも、はすっぱな現代っ子ホステスが似合うのは明らかで、オヤジ二人と楽しげに遊び出す。胸元の露出度も脚線美の見せ方も堂に入っていて、オヤジがそろって鼻の下を伸ばす様子は、かつての人気シリーズ、森繁久彌主演の『社長』シリーズや『駅前』シリーズをもほうふつさせる。本シリーズの目標はかなり高いところにありそうだ。

 第一作では利休の茶器が扱われたが、このたびメインに登場するのは、古田織部の幻の茶器「はたかけ」。欠けたところに銀を入れた、全体に歪みのある茶器で、そこに人間たちの歪んだ欲望や生きかたを重ね、むろん、主人公二人の心情をも肯定的に重ねられる。佐輔は、権威ある鑑定家・億野万蔵(竜雷太)と人気古美術店の二代目・嵐山直矢(加藤雅也)の悪徳ビジネスを暴くために「はたかけ」の贋作を作るが、その製法過程は工夫を要し、第一作の利休の茶器の贋作作りよりも興味深い。“悪代官と越後屋”役、竜雷太と加藤雅也は茶目っ気十分なワルぶりで、特に加藤雅也の立ち居振る舞いには気合いとサービス精神が横溢し、主演二人への敬意と愛情を感じさせる。

 肩の凝らないコメディ・シリーズを継続させるためには、よく練られた物語もさることながら、出演陣のすぐれたチームワークが肝要であることは言うまでもない。居酒屋「土竜」のマスターで、筆跡偽造の達人(木下ほうか)、常連客で紙偽造の達人(坂田利夫)、同じく常連で指物偽造の達人(宇野祥平)の面々は、ちょっと隙があって、それがまたこの手のコメディにふさわしい。彼らと一緒に勝利の美酒を飲んだら、どんなに気分がいいだろうと思わせる。第一作に引き続き、ちょっとした儲けの入った封筒からチームのひとりひとりが一万円ずつ抜きとるシーンがあるが、欲得ずくではない意気地がにじむのである。登場人物の皆さん、どうか長生きしてください。

内海陽子プロフィール

1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の新刊が出ました

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