受賞者の挨拶はスリリング;キネマ旬報ベスト・テン表彰式 続報!

映画評論家・内海陽子が語る「受賞者の挨拶」の面白さ

映画賞では受賞した俳優さんたちの挨拶が楽しい。しかし、俳優とは演技する人だから、なかなか奥が深い。長年、映画賞の受賞式に同席してきた映画評論家の内海陽子さんに、受賞者スピーチの面白さと、今回の受賞者たちのスピーチについて語っていただいた。

―― 今回も受賞された男優さん、女優さんの受賞の挨拶を聞いたわけですが、そうした挨拶が準備されたものなのか、それとも即興なのか、とても気になるわけです。というのも、皆さん、演じる人たちですからね。

そうですね、私も、皆さん「素」を出して話されるんだと思っていたんですが、そうでもない方もいるんですね。素直にそのときの気持ちを表現した、典型的な例は薬師丸ひろ子さんでした。『ALWAYS 三丁目の夕日』で多くの助演賞を受賞されたんですが、その受賞式での挨拶が、すべて違うんです。中身を全部変えて、情熱をこめて話された。そのたびごとに、薬師丸さんの頑張り屋さんである人柄を感じて感動しました。

―― 聞いている人たちは親しみを覚えますね。

それと対照的なのが、田中裕子さんでした。同じ年に、田中裕子さんが『いつか読書する日』で主演女優賞を軒並み受賞されたのですが、どの受賞式でも同じ挨拶をされたんです。内容はほぼ同じですが、どの授賞式でも聴衆を感動させてしまう。映画業界の人たちは、同じ内容を何度も聞くことになったわけですが、田中さんは少しの躊躇いもなく、堂々とやってのけた。しかも、繰り返し感動させてしまうんです。その表情といい、声の抑揚といい、その場その場で初めてであるかのように「演じる」のです。

―― 主演女優賞のかんろく十分といったところですね。

何度も聞けば、あれっと思うのですが、内容は素晴らしいもので、細部に多少の違いがあっても、基本的には同じだったのに、少しの迷いも感じられなかった(笑)。見事というしかないですね。考えてみれば、舞台などでは同じことを繰り返すわけです。訓練を積んだ女優さんというのは、そういうことが出来るんだなあと思いました。

―― そうした方たちと比較するというわけではないのですが、では、今回のキネマ旬報ベスト・テン表彰式での、受賞者の方々の印象はどうだったでしょうか。

主演男優賞を受賞された池松壮亮さんは、ヨコハマ映画祭でも主演男優賞をとっておられたわけですが、挨拶はまったく別でした。今回は、撮影現場とそれ以降のトラブルについてお話になったのが印象的でしたね。映画は現場での苦悩がつきまとっているけれど、これからもそれと闘っていかなくてはならないと、自分に言い聞かせるように語っていた。お祝いに集まった人たちの前での話としては、どうかなということはありますが、わたしとしては、とてもいい話を聞いたという気がしました。

―― 池松さんの挨拶では、観客席からの笑いは少なかったけれど、非常に真摯な感じを残しましたね。

ええ、「いまここにいる僕はこうなんだ」という強いメッセージになっていて、これから未来に向かって行こうという決意が感じられ、それはそれでよかったと思いました。

―― 助演女優賞の池脇千鶴さんの場合はいかがだったでしょうか。

池脇さんの場合は、もうベテラン中のベテランですが、今回は記念すべき受賞になった気がします。かつて、ある助演女優賞を受賞なさったさいに、「わたしの役は『もうけ役』なので」とおっしゃっていました。もうけ役なので嬉しいというより、戸惑っているという感じの挨拶だったんです。それが今回は、監督(阪本順治)への敬意が感じられました。

―― 挨拶をしている間も、非常に表情がゆたかに変化して、写真を撮った者が「たいへんだった」といっていました。

阪本監督は池脇千鶴さんの演技を見ながら、どんどん池脇さんの中から新しいものを引き出していったと思うんですね。映画そのものは男3人の物語なんですが、終盤で池脇さんが輝くばかりの表情を見せる。これは監督の「この映画に出演してくれてありがとう」という計らいであると同時に、そうした表情を引き出した監督の腕の見せ所ですね。彼女は素朴な美少女という役どころで出発されたんですが、今度の作品では力を十分につけた女優の演技をみせてくれたという気がします。

―― では、助演男優賞の成田凌さんは、どのようにお感じになりましたか。内海さんは成田さんについて、何度も論じていらっしゃいますが。

俳優になってまだ5年でしかないのに賞をいただいて申し訳ないと、いちおうは控えめなことをいっていましたが、挨拶でも非常に図太い神経をもっていると思いました。たしかに、「素」で語っているんですが、完璧に「演じる」こともできる。むしろ、自分が「演じる」ことを見せないようにしたのではないかと思いますね(笑)。

―― 話しているときには感じなかったけれど、内容は実はかなり大胆でしたよね。

ほかの映画祭での授賞式では、まわりをうかがっている感じがありましたが、今回は助演男優賞受賞式も3度めで、すでに、受賞式の雰囲気は飲み込んだということでしょう。キネマ旬報の集計表を見ると、助演男優賞では断トツで支持をいただいて、それはうれしかったけれど、主演男優賞ではかなりの差をつけられて2位だったのが、とても悔しいと語った。うしろに主演男優賞をもらった池松さんがいるのに、ぬけぬけと言ってみせたんです(笑)。冒頭では「賞をもらって申し訳ない」といっていたのに、まったく矛盾しているわけで、なかなかのタマだと思いますね。

―― 新人女優賞を受賞した関水渚さんの挨拶はいかがですか。まだ、若いですけれど。

わたしは『キネマ旬報』でインタビューしたんですが、そのときの印象では、新人にしては実に素直に語る女優さんだと感じました。新人の場合には事務所がいろいろ配慮するので、なかなか自分を出すということができないんですが、彼女の場合にはそれがでてくるんですね。自意識がはっきりしているので、言葉の選び方にそれが出てしまうから、気をつけているという感じがしました。

―― 挨拶では、非常に丁寧に話している印象があったんですが、逆にいえば関水さんの活力みたいなものが、すこし控えめになっていた……。

ええ、インタビューのときには、彼女は映画を見てくださる方に夢をもたせたい、楽しませたいと語っていた。それは、結局、そのままでは文章にできなかったのですが、まだ新人なのだから、そのくらい語ってもいいのではないかと、わたしは思いましたね。もちろん、上から目線だと言われないようにとの配慮かもしれませんが、若い時の発言は数十年後に「あのとき、私も若かった」と思い出すくらいでちょうどいいわけです。

―― 最後に新人男優賞の鈴鹿央士さんですが、出だしがボソボソで分かりにくかったんですが、途中から場内が笑いの渦になった。あれは「演じる」ことを意図したんですか。

そうではないと思います。鈴鹿さんの場合は、ほんとうに「素」でボソボソ話しているうちに、話が面白くなった。あのキャラクターは『蜜蜂と遠雷』の役柄そのもので、逆に監督が鈴鹿さんのキャラクターを映画のなかで生かしたということだと思います。映画のなかの不思議な性格は彼のもっているものなので、なるほど、新人男優賞がふさわしいと思いました。関水さんとは逆で、事務所の制約もなしでしゃべっていたら、けっこういっぱいしゃべっちゃった(笑)。

―― 今日は電車で帰ります、なんて話しているので、かなり意図的かと思いました。

そうじゃないですね。電車で帰りますが、写真撮影はだめで、サインはまだ準備していませんが、握手ならいいですと語った。そこに特に演出のようなものはないでしょう。でも、あのキャラクターは俳優に向いているということはいえます。
(文責・サンイースト企画)

●第93回 キネマ旬報ベスト・テン受賞者はこちらのページをお読みください。
速報! 第93回キネマ旬報ベスト・テン表彰式

内海陽子プロフィール

1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の新刊が出ました

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