本作が断然お薦め! 頑固一徹闘うジジイ

『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』(2014・ハンス・ペテル・モランド監督)

 映画評論家・内海陽子

 二十代の初めから「あんたはジジイ(の俳優)好きだね」とからかわれてきた。その後どんどん年を取ったが「ジジイ好き」はまったく変わらない。ジジイといっても、それは特別なジジイでなければならないわけで、好みは深化している気がする。単に年を取っているだけでなく、孤高でシンプルで命知らずなジジイが好きだ。

 ステラン・スカルスガルドというスウェーデン人俳優はかねてから有名で『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)や『宮廷画家ゴヤは見た』(2006)、『マンマ・ミーア!』シリーズなど数々の話題作に出演している。あるときにわかに興味を抱き、彼の出演作のDVDラインナップを調べたら『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』があるのを知ったが、即座に見てみようという気にはならず、いつしか忘れていた。

 ところがリーアム・ニーソン主演『スノー・ロワイヤル』(2019・ハンス・ペテル・モランド監督)を見た後、この映画のオリジナルが、ノルウェー・スウェーデン・デンマーク合作映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』であることがわかり、即座に鑑賞した。アイルランド出身の名優であるリーアム・ニーソンにはたいへん申し訳ないが、本作のほうが断然すばらしい。わたしはこういうジジイに胸がときめくのである。

『スノー・ロワイヤル』を見始めたとき、「雪が多くてけっこう夏向きだな」という能天気な感想を抱いた。ところが『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』の場合は、DVDでの鑑賞にもかかわらず、極寒の地ということがひしひしと伝わる。寒さの質がまったく違うように感じられる。都会へ向かう道路が何度も映し出されるが、そこに独特の異世界の雰囲気が漂う。そしてなによりも、ステラン・スカルスガルドには除雪車との強固な一体感がある。この男はなにかしでかすぞ、もっといえば、その機会を待っているぞ、という気配が濃厚である。物語は、組織と人種問題に違いはあるもののほぼ同じなのに、リーアム・ニーソンとステラン・スカルスガルドとでは、醸し出す空気が全然違うのだ。

 そもそもリーアム・ニーソンにはジジイの雰囲気はない。近年、復讐の鬼と化す役柄が評判を呼んで「闘うオヤジ」としても引っ張りだこだが、彼の本来のイメージは苦悩する貴公子、知的なキングであり、ハードボイルドヒーローである。鍛え上げたプロの殺し屋、元殺し屋なら似あうが、猪突猛進、思い込んだら命懸け、というタイプにはどんぴしゃりではない。『スノー・ロワイヤル』の主役も、やむなく引き受け、苦悩を抱えて演じているように見えないでもない。

 ところが、ステラン・スカルスガルドはそうではない。いやみな金持ちや銀行家、組織のボスといった役を難なくこなせるし、セクシーな演技もいける。そしてふてぶてしく荒っぽいユーモアの持ち主である。本作は、この道一筋、除雪作業員として働き、模範市民になった男が息子の復讐に取りつかれるという設定がユーモラスなわけで、女房に捨てられる展開にも、その情けなさにも、彼の演技なら非常に納得がいくのである。純な熱い血、というのがしっかり感じ取れる。

 舞台はノルウェーの地方都市。主人公ニルス・ディックマンの復讐が、にらみあっていた二つの組織の関係を悪化させ、警察がからみ、ことがむやみに大きくなる。ニルスは兄の忠告で殺し屋を雇うが、その男はハズレで、思わぬ悲劇を招く。元凶である犯罪組織のボス“伯爵”と対決するため、ニルスは彼の息子を誘拐するが、それがまたいっぽうの組織によるものという誤解を生み、ついに、組織同士の血で血を洗う決戦に突入する。

『スノー・ロワイヤル』で最もチャーミングなシーンは、誘拐された少年が主人公に心を寄せ、彼の家で食事をして寝る前に、本を読んでくれとねだるところだ。困った主人公は除雪車の解説書を読み上げ、おとなしく聴いていた少年は「ストックホルム症候群って、知ってる?」というのである。リーアム・ニーソンは何も答えないが、これは知っているから答えない、少年の気持ちを冷静に受け止めたというふうに感じられる。

『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』に同じシーンが出てくるのを楽しみに待っていたら、ちゃんと出て来た。『スノー・ロワイヤル』よりも端整な顔立ちの少年が「ストックホルム症候群って?」とニルスに言うと、どことなくアブナイ気配が漂う。彼が少年の肩に手を回すしぐさが、父が子を思うという気持ちを超えたものに見える。熱い血のたかぶりが感じられる。わたしの勝手な思い込みに過ぎないと思うが、こういう思考を弄べるのも映画を観る楽しみのひとつである。

 わたしにとって眼福というべきなのは、エンディングでニルスと心を通わせるセルビア人組織のボス“パパ”を演じるのが、この春に亡くなったブルーノ・ガンツだということである。『スノー・ロワイヤル』では、先住民の長という設定になっており、こちらもいい俳優が演じているのだが、ジジイ同士が肩を並べてどちらが絵になるかといえば、本作の方が断然上等なのである。とにかく格が釣りあっている。日本映画に例えるなら、老いた高倉健と池部良が肩を並べている図である。まさか、こんな風に遠回りして『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』にめぐりあうとは思っていなかった。ここに導いてくれたという一点において『スノー・ロワイヤル』に深く感謝する。

内海陽子プロフィール

1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の新刊が出ました

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