恋ゆえに渡る危ない橋『ファイナル・プラン』;リーアム・ニーソンからの「夢のギフト」

『ファイナル・プラン』(2021・マーク・ウィリアムズ監督)

 映画評論家・内海陽子

 公序良俗を乱してはならないという掟があるせいか、銀行強盗サスペンスはエンディングが腰砕けになるものが多い。せっかく見事な計画を立て、仲間を集め、難題をクリアして大金を強奪しても、次に待っているのは仲間割れである。誰かが過剰な欲を出したり、一定期間、金を使ってはならないという約束をしたのに破る者が出たりして、そろって御用になる。わたしなどは、せっかく映画ならではの達成感を味わったのに、この期に及んで人間の弱さを見せつけられるのは願い下げである。

 では、仲間を募らず一人で銀行を襲撃し、奪い取った金に手を付けなかったとしたらどうなるだろう。リーアム・ニーソンが演じる主人公トム・カーターの場合、おそらく達成感のあとにやってくる虚無感に悩まされたのではないだろうか。虚無感から脱して生きる実感をつかみたい、そういう意識下の思いが高まったとき、彼は恋に落ちる。相手は「賢明で優しく前向きで愉快な女性」アニー(ケイト・ウォルシュ)だ。若くもなく妖艶でもなく金がかかるような女性でもない。ともに幸せになるために必要なのは、大金ではなく互いの誠意である。そう思ったカーターは自首することを決意する。

 本来なら、まずは自分の犯行をアニーに告白してからの話だと思うが、この映画は自首の過程そのものにサスペンスを盛り込む。“速攻強盗”と呼ばれた彼が電話で犯人だと訴えてもすでに15人が自首しており、まずは真犯人として認めてもらわなければならない。そこに隙が生まれたか、たちのわるいFBI捜査官の好餌となり、自分の命はもとよりアニーの身まで危険にさらすことになる。こうなると、リベンジ・アクション『96時間』シリーズで鳴らしたリーアム・ニーソンの独擅場だ。ここに持って来たかったのだろう。

 となると見るべきは悪徳捜査官ニベンス(ジェイ・コートニー)との対決だが、ジェイ・コートニーは『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(2013)でブルース・ウィリスの息子を演じ、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015)でも大活躍の若手肉体派。まともに相手にしたら勝負にならないとあって、そこは頭脳派のリーアム・リーソンの仕掛けが見どころになる。達成感を得たがゆえにしばらく休んでいた金庫爆破テクニックを、再びお見せしますと言わんばかりにカーターがプロフェッショナルな技を全開する。ニベンスの車に仕掛けられた爆弾がどうなるかも見てのお楽しみだ。

 ところで別の面からこの映画を考えてみると、“囮捜査官”ものの要素もあると思えてくる。8年間にわたって7つの州で12の銀行を襲撃し、900万ドルを強奪したカーターは、自首することで900万ドルを返還するわけだが、これに悪徳捜査官が引っ掛かったわけである。小規模な悪事を重ねていたニベンスと相棒モール(アンソニー・ラモス)は、大金に目がくらんで尻尾を出し、墓穴を掘った。「状況が違えば、FBI捜査官として勧誘したいよ」と善人の捜査官マイヤーズ(ジェフリー・ドノヴァン)がカーターに言い、カーターもまんざらではなさそうな答えを返す。

 恋ゆえに危ない橋を渡ったものの、行動が裏目に出ることなく男を上げ、たとえ刑務所に収監されることになっても、恋する相手は自分の出所を待っていてくれる。リーアム・ニーソンの気品があってこそ成立するサスペンスだが、明るい未来を信じたい中高年に向けた手ごろな夢のギフトになっている。

◎2021年7月16日公開

内海陽子プロフィール

1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の近著はこちら

 

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