当サイトで映画・ビデオを担当している映画評論家・内海陽子の最近の投稿をご紹介します。これから公開される作品だけでなく、過去に上映された作品も多くありますが、見どころを鋭く論じる映画評です。これからの鑑賞のために、また、DVDで楽しむさいにもお役立てください。それぞれの青太文字の部分をクリックしてください(サン・イースト企画)

最近の映画評から

おどおどしつつも男の意気地が光る!;中谷美紀と田中圭の『総理の夫』 夫がバードウォッチングから帰ると、妻は内閣総理大臣になっていた。こんな信じられないような話から始まりますが、しだいにこの奇妙な夫婦の成り立ちが分かってくるとともに、総理大臣が妊娠したことが分かり、大きな騒動になります。

二人はともに優しい女房のよう;西島秀俊と内野聖陽の『劇場版 きのう何食べた?』 テレビで大好評だった西島と内野のカップルの物語が映画になりました。今回はふたりで京都にでかけたり、お互いの家族との問題がテーマになっていますが、新しい恋人と思われる相手が登場してヒヤリとする話もあります。

早すぎる時間の中での成長;『オールド』にみるシャラマン監督の新境地 リゾート地の砂浜に出かけたところ、家族が急激に年を取り始めた。この不思議な現象のなかで起こるかずかずの驚くべき事件。『シックスセンス』や『アンブレイカブル』などでファンを驚かしてきたシャマラン監督が、人間と時間との不思議な関係に挑戦しています。


底なし沼に足を踏み入れたヒロイン;『アンテベラム』の終わらない感情 アメリカ南部のプランテーションで働かされているエデンが目を覚ますと、有名な小説家でオピニオン・リーダーのセレブになっていた。歴史に潜在し続ける差別の深さを、大胆な構成で追求した作品です。

ジェイソン・ステイサムの暗く鈍い輝き;『キャッシュトラック』の「悪役」が魅せる 熱狂的なファンがいるジェイソン・ステイサムが、じっくりと魅力を発揮しています。ある警備会社の新入社員が、いきなり大手柄をたてててしまう。この男は、いったい何者? その謎ときがちょっと秘密めいた物語とともに同時進行していきます。

ムロツヨシの「愚直」な演技力;『マイ・ダディ』の聖なる滑稽さ 変な男を演じさせれば天下一品のムロツヨシが、シリアスな主役に挑戦しています。とはいえ、ムロツヨシの演じるシリアスさからは、独特のアイロニーがただよいます。「奇妙なもの、まっとうでないもの、はぐれてしまったもの、そういう存在を演じることのできる役者」の素晴らしい演技です。

未来についての勇気の物語;『愛のくだらない』の藤原麻希がみせる推進力 内海さんはこの作品の主演女優・藤原麻希さんがもっている不思議な「推進力」に注目。さらに、野本梢監督の「深謀遠慮」に注目するよう勧めています。もちろん、注意力を発揮しなくても、作品には独特の力があるので、自然に気づかざるをえないとも語っています。

漫画家夫婦の不倫ゲームを楽しむ;黒木華と柄本佑の『先生、私の隣に座っていただけませんか?』自分が不倫をしているというのに、妻に不倫の疑いがもちあがるや、とたんに落ち着かなくなりみっともない嫉妬の行動をとる。こうした「不倫ゲーム」を黒木華と柄本佑が演じるというだけでも、一見の価値あり。2人の微妙な演技をたのしんでください。

「君は世界を守れ、俺は君を守る」;初々しい『少年の君』のチョウ・ドンユイ 名門大学をめざす秀才の女高生と、チンピラの少年との出会い。ふたりを恋におちいらせたのは何だったのか。「二人を取り巻く状況は厳しさを増すが、すべては二人を結びつける強い絆になる」。かつて恋したことのある人は生き生きと昔を思い出し、いま恋をしている人には溢れるようなシンパシーを感じる、もうひとつの『泥だらけの純情』といえると内海さんは語っています。

王道を行く人情コメディ;やっぱり笑える『明日に向かって笑え!』 預金封鎖で混乱するアルゼンチンが舞台の銀行強盗、正確には「資産奪還」のストーリーです。ボレンズテイン監督は「これはコメディにしなかった」といっているそうですが、これがコメディじゃなけりゃ、いったい何をコメディというのか。老境を迎えたうらぶれた男たちが、いま果敢にも資産奪還に向かいます。

恋ゆえに渡る危ない橋『ファイナル・プラン』;リーアム・ニーソンからの「夢のギフト」 一匹狼の銀行強盗が恋におちいってしまったゆえの大騒動。これを機会に悪事から足を洗おうとするが、そうは問屋はおろしてくれないのは、予想がつきますが、意外な展開があって話は面白くなります。リベンジ・アクションでならしたリーアム・ニーソンからの素晴らしいプレゼントだと、内海さんはおっしゃっています。

異様な細部がすばらしい『ベルヴィル・ランデブー』;おばあちゃんの闘争は続く! フランス・アニメの傑作ですが、初めてご覧になったかたは、ちょっとショックを受けるかもしれません。そのディテールへのこだわりや人間へのシニックな視線。しかし、やがて独特の世界に巻き込まれて、もう一度観たくなる作品です。「強烈な懐かしさとリズム感に包まれており、それぞれの人や物の歴史が猛烈なうなり声をあげている」。

役所広司の醸し出す「歴史」;『峠 最後のサムライ』のぬくもり 歴史映画と聞くと重苦しい物語を連想する人もいるでしょうが、この作品は主人公の河井継之助という人間を描き出すことに賭けています。内海さんは「ひとえに役所広司の醸し出すぬくもりが、この映画全体を支えている」とすら断言しています。もちろん、歴史好きな人にもひとつの解釈として、この時代を楽しんでいただけるはずです。

「打倒! まとも」が新しい世界を運んでくる;『まともじゃないのは君も一緒』の成田凌を深読みする この映画のなかで「まとも」というのは、「マニュアル通りと言い換えることができる」と内海さんは言っています。自分としっかり向き合いながら、高をくくらず、勇気をもって楽しく進むというのが、この映画なのだともおっしゃっています。ということは、ずいぶんと「まとも」ということになりますが、まずは内海さんの映画評を読んでください。

生きていると否応なく生じる隙間;『街の上で』若葉竜也の「素朴」さに注目! コロナ禍のため公開が延期されていましたが、4月9日より順次公開です。「今泉力哉一流の、男と女の❝心ころがし❞の腕がさえわたる」。と同時に、「素人さんの素朴な崇拝のまなざし、というのを若葉竜也はまことに感じよく演じる」。今泉ファンにとって待ちに待った作品であると同時に、自分の生き方を振り返ってみるきっかけにもなります。

最高の「嘘っぱち!」物語;『騙し絵の牙』の大泉洋は期待通りの全開 大泉洋が演じる主人公が、出版社を舞台にした物語のなかを、すいすい泳ぎ回る楽しいエンターテインメントです。ただし、この楽しさは、吉田大八監督の熟練の技があってこその仕上がりといえます。ひとりひとりの俳優のキャラクターを生かす、監督の気配りが随所に感じられる、見所の多い風格ある作品です。

感情を操ることのできる演技者・水川あさみ;ヨコハマ映画祭・主演女優賞受賞によせて 第41回ヨコハマ映画祭で、水川さんが主演女優賞を受賞しました。対象作は『喜劇 愛妻物語』と『滑走路』でした。水川さんはキネマ旬報ベストテンでも主演女優賞を受賞しています。「水川あさみは、演技者として、おのれの感情を自在に操ることのできる境地に至った」と内海陽子は称賛しています。『喜劇 愛妻物語』については、このページの紹介をクリックしてください。

娑婆は我慢の連続、でも空は広い;西川美和監督の『すばらしき世界』は温かく冷たい 殺人の罪で10数年入っていた刑務所から、刑期を終えて出てきた男が「まっとう」な生き方をしようとしたとき、何が起こるのか。元殺人犯の三上(役所広司)と、彼を取材して「ドキュメンタリー」にしようとする津野田(仲野大賀)および吉澤(長澤まさみ)のいずれが「まっとう」なのか。私たちはしだいに、「筋の通った」生き方をする三上を応援してしまう自分を見出していくのです。

小粋な女性のサッカー・チーム;『クイーンズ・オブ・フィールド』で愉快になれる 北フランスの町のサッカー・チームが乱闘騒ぎで全員出場停止になったとき、救いの手を差し伸べたのは主婦たちでした。とはいえ、ほとんどが素人の女性たち。そこで始まる大騒動ですが、悲壮感はまるでなしで、みんなが困難を楽しんでいるように思えるほど。なかなか粋なサッカー・チーム再建物語です。

内海陽子「誇り高き者の確執、愛憎」;佐野亨編『リドリー・スコット』に寄稿しました ともかく楽しませてくれるリドリー・スコット監督の作品のなかに、潜んでいる創作の核を鋭く論じています。このサイトではそのほんの一部を紹介しています。まず、読んでいただいて、それからムックを手に取ってみてください。

弱い人間への労りのまなざし;波瑠の『ホテルローヤル』 釧路の湿原にあるラブホテルの一人娘・雅代を波瑠が演じています。ホテルの客たちがみせる奇妙で寂しい人生の縮図を目撃した雅代の「わびしくてやさしい」物言いが好ましい。父親役の安田顕と従業員を演じる余貴美子の「丁寧な演技」が光っています。

老いてにぎやかな人生;田中裕子の『おらおらでひとりいぐも』 寂しさが忍び寄る孤独な老後。しかし、田中裕子が演じる主人公の老後は、なかなか華やかです。寂しさゆえに登場する「分身」たちがにぎやかにしてくれる。「老いるということは閉じることではない。生命のある限り、きっと人はやむを得ず進んでいく」。

挑戦をやめない家族;『ヒトラーに盗られたうさぎ』 ヒトラーが政権をとったことによって、ベルリンを逃れて亡命を繰り返す家族の物語。主人公の少女アンナは、つぎつぎと変わる環境のなかで、少しも臆することなく困難に立ち向かっていく。「そののびのびとした姿勢のひとつひとつが目に優しく飛び込んでくる」。

どことなく滑稽でどことなく怖い;『星の子』にみる芦田愛菜の包容力 少女からしだいに社会に目覚めていく年ごろの少女を描く。主人公のちひろの両親は、いっぷう変わった新興宗教団体に入っているために、普通の少女とは異なるさまざまな試練がやってくる。「不安や憂鬱を抱えるより希望をになうほうが辛いことがある」。それでもになうちひろを、芦田愛菜が見事に演じている。

刃の上を歩くような恋;『燃ゆる女の肖像』から匂い立つ輝き 18世紀の孤島で出会った、伯爵家の令嬢と女性画家の恋。はじめは激しく反発しあうが、ふたりのひたすらで激しい性格が互いを燃え上がらせることになる。「愛は禁じられてこそ完全燃焼するのである。誰からも祝福される輝かしい恋は、この恋に比べれば二流の恋である」。

幸運を呼ぶ赤パンツ;濱田岳と水川あさみの『喜劇 愛妻物語』 濱田が演じる「ダメ夫」と、水川が演じる「諦めない妻」との戦いの日々を描き出す。足立紳監督の自伝的小説をもとにした異色作。「がんばって、がんばって、がんばって、それでだめでもまたがんばる。そういう人間を信じる人間の粘り強さを、おおらかに見つめる喜劇である」。

内海陽子プロフィール

1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の近著はこちら

内海陽子のほかのページもどうぞ

『愛がなんだ』:悲しみとおかしみを包み込む上質なコートのような仕上がり

『バースデー・ワンダーランド』:情感とスピード感に満ちた贅沢なひととき

『家族にサルーテ! イスキア島は大騒動』:けっして自分の生き方を諦めない大人たちを描きぬく

『町田くんの世界』:熱風がユーモアにつつまれて吹き続ける

『エリカ38』:浅田美代子が醸し出す途方に暮れた少女のおもかげ

『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』:本作が断然お薦め! 頑固一徹闘うジジイ

『DANCE WITH ME ダンス ウィズ ミー』:正常モードから異常モードへの転換センスのよさ

『記憶にございません!』:笑いのお座敷列車 中井貴一の演技が素敵!

熱い血を感じさせる「男の子」の西部劇

RBGがまだ世間知らずだったとき:ルース・B・ギンズバーグの闘い

『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』常に新鮮で的確な田中圭のリアクション

俺はまだ夢の途中だぁ~!:草彅剛の持ち味満喫

相手を「発見」し続ける喜び:アイネクライネナハトムジーク

僕の人生は喜劇だ!;ホアキン・フェニックスの可憐な熱演

カトリーヌ・ドヌーヴの物語を生む力

悲しみと愚かさと大胆さ;恋を発酵させるもうひとりのヒロイン

獲れたての魚のような映画;フィッシャーマンズ・ソング

肩肘張らない詐欺ゲーム;『嘘八百 京町ロワイヤル』

あったかく鼻の奥がつんとする;『星屑の町』の懐かしさ

高級もなかの深い味わい;『初恋』の三池崇史節に酔う

千葉雄大の孤軍奮闘にハラハラ;『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』

成田凌から飛び出す得体のしれないもの;ヨコハマ映画祭・助演男優賞受賞に寄せて

関水渚のふてくされた顔がいい;キネマ旬報新人女優賞受賞

情熱あふれる歌・踊り・群舞;『ヲタクに恋は難しい』の高畑充希になり切る

受賞者の挨拶はスリリング;キネマ旬報ベスト・テン 続報!

年を取るってすばらしいこと;波瑠と成田凌の『弥生、三月』

洗練された泥臭さに乾杯!;『最高の花婿 アンコール』

生きていると否応なく生じる隙間;『街の上で』若葉竜也の「素朴」さに注目!

ヒロインを再現出させる魔術;ゼルウィガーの『ジュディ 虹の彼方に』

わたしはオオカミになった;『ペトルーニャに祝福を』

心が晴れ晴れとする作品;『五億円のじんせい』の気性のよさ

「境目」を超え続けた人;大杉漣さんの現場

老いた眼差しの向こう;『ぶあいそうな手紙』が開く夢

オフビートの笑いが楽しい;『デッド・ドント・ダイ』のビル・マーレイを見よ

現代によみがえる四人姉妹;『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

夜にたたずむ男の見果てぬ夢;『一度も撃ってません』の石橋蓮司に映画館で会おう

長澤まさみの艶姿を見よ!;『コンフィデンスマン JP プリンセス編』は快作中の快作

幸運を呼ぶ赤パンツ;濱田岳と水川あさみの『喜劇 愛妻物語』

刃の上を歩くような恋;『燃ゆる女の肖像』から匂い立つ輝き

どことなく滑稽でどことなく怖い;『星の子』にみる芦田愛菜の包容力

挑戦をやめない家族;『ヒトラーに盗られたうさぎ』でリフレッシュ


『女優の肖像』全2巻 ご覧ください