当サイトで映画・ビデオを担当している映画評論家・内海陽子の最近の投稿をご紹介します。これから公開される作品だけでなく、過去に上映された作品も多くありますが、見どころを鋭く論じる映画評です。これからの鑑賞のために、また、DVDで楽しむさいにもお役立てください。それぞれの青太文字の部分をクリックしてください(サン・イースト企画)

最近の映画評から

役所広司の醸し出す「歴史」;『峠 最後のサムライ』のぬくもり 歴史映画と聞くと重苦しい物語を連想する人もいるでしょうが、この作品は主人公の河井継之助という人間を描き出すことに賭けています。内海さんは「ひとえに役所広司の醸し出すぬくもりが、この映画全体を支えている」とすら断言しています。もちろん、歴史好きな人にもひとつの解釈として、この時代を楽しんでいただけるはずです。

「打倒! まとも」が新しい世界を運んでくる;『まともじゃないのは君も一緒』の成田凌を深読みする この映画のなかで「まとも」というのは、「マニュアル通りと言い換えることができる」と内海さんは言っています。自分としっかり向き合いながら、高をくくらず、勇気をもって楽しく進むというのが、この映画なのだともおっしゃっています。ということは、ずいぶんと「まとも」ということになりますが、まずは内海さんの映画評を読んでください。

生きていると否応なく生じる隙間;『街の上で』若葉竜也の「素朴」さに注目! コロナ禍のため公開が延期されていましたが、4月9日より順次公開です。「今泉力哉一流の、男と女の❝心ころがし❞の腕がさえわたる」。と同時に、「素人さんの素朴な崇拝のまなざし、というのを若葉竜也はまことに感じよく演じる」。今泉ファンにとって待ちに待った作品であると同時に、自分の生き方を振り返ってみるきっかけにもなります。

最高の「嘘っぱち!」物語;『騙し絵の牙』の大泉洋は期待通りの全開 大泉洋が演じる主人公が、出版社を舞台にした物語のなかを、すいすい泳ぎ回る楽しいエンターテインメントです。ただし、この楽しさは、吉田大八監督の熟練の技があってこその仕上がりといえます。ひとりひとりの俳優のキャラクターを生かす、監督の気配りが随所に感じられる、見所の多い風格ある作品です。

感情を操ることのできる演技者・水川あさみ;ヨコハマ映画祭・主演女優賞受賞によせて 第41回ヨコハマ映画祭で、水川さんが主演女優賞を受賞しました。対象作は『喜劇 愛妻物語』と『滑走路』でした。水川さんはキネマ旬報ベストテンでも主演女優賞を受賞しています。「水川あさみは、演技者として、おのれの感情を自在に操ることのできる境地に至った」と内海陽子は称賛しています。『喜劇 愛妻物語』については、このページの紹介をクリックしてください。

娑婆は我慢の連続、でも空は広い;西川美和監督の『すばらしき世界』は温かく冷たい 殺人の罪で10数年入っていた刑務所から、刑期を終えて出てきた男が「まっとう」な生き方をしようとしたとき、何が起こるのか。元殺人犯の三上(役所広司)と、彼を取材して「ドキュメンタリー」にしようとする津野田(仲野大賀)および吉澤(長澤まさみ)のいずれが「まっとう」なのか。私たちはしだいに、「筋の通った」生き方をする三上を応援してしまう自分を見出していくのです。

小粋な女性のサッカー・チーム;『クイーンズ・オブ・フィールド』で愉快になれる 北フランスの町のサッカー・チームが乱闘騒ぎで全員出場停止になったとき、救いの手を差し伸べたのは主婦たちでした。とはいえ、ほとんどが素人の女性たち。そこで始まる大騒動ですが、悲壮感はまるでなしで、みんなが困難を楽しんでいるように思えるほど。なかなか粋なサッカー・チーム再建物語です。

内海陽子「誇り高き者の確執、愛憎」;佐野亨編『リドリー・スコット』に寄稿しました ともかく楽しませてくれるリドリー・スコット監督の作品のなかに、潜んでいる創作の核を鋭く論じています。このサイトではそのほんの一部を紹介しています。まず、読んでいただいて、それからムックを手に取ってみてください。

弱い人間への労りのまなざし;波瑠の『ホテルローヤル』 釧路の湿原にあるラブホテルの一人娘・雅代を波瑠が演じています。ホテルの客たちがみせる奇妙で寂しい人生の縮図を目撃した雅代の「わびしくてやさしい」物言いが好ましい。父親役の安田顕と従業員を演じる余貴美子の「丁寧な演技」が光っています。

老いてにぎやかな人生;田中裕子の『おらおらでひとりいぐも』 寂しさが忍び寄る孤独な老後。しかし、田中裕子が演じる主人公の老後は、なかなか華やかです。寂しさゆえに登場する「分身」たちがにぎやかにしてくれる。「老いるということは閉じることではない。生命のある限り、きっと人はやむを得ず進んでいく」。

挑戦をやめない家族;『ヒトラーに盗られたうさぎ』 ヒトラーが政権をとったことによって、ベルリンを逃れて亡命を繰り返す家族の物語。主人公の少女アンナは、つぎつぎと変わる環境のなかで、少しも臆することなく困難に立ち向かっていく。「そののびのびとした姿勢のひとつひとつが目に優しく飛び込んでくる」。

どことなく滑稽でどことなく怖い;『星の子』にみる芦田愛菜の包容力 少女からしだいに社会に目覚めていく年ごろの少女を描く。主人公のちひろの両親は、いっぷう変わった新興宗教団体に入っているために、普通の少女とは異なるさまざまな試練がやってくる。「不安や憂鬱を抱えるより希望をになうほうが辛いことがある」。それでもになうちひろを、芦田愛菜が見事に演じている。

刃の上を歩くような恋;『燃ゆる女の肖像』から匂い立つ輝き 18世紀の孤島で出会った、伯爵家の令嬢と女性画家の恋。はじめは激しく反発しあうが、ふたりのひたすらで激しい性格が互いを燃え上がらせることになる。「愛は禁じられてこそ完全燃焼するのである。誰からも祝福される輝かしい恋は、この恋に比べれば二流の恋である」。

幸運を呼ぶ赤パンツ;濱田岳と水川あさみの『喜劇 愛妻物語』 濱田が演じる「ダメ夫」と、水川が演じる「諦めない妻」との戦いの日々を描き出す。足立紳監督の自伝的小説をもとにした異色作。「がんばって、がんばって、がんばって、それでだめでもまたがんばる。そういう人間を信じる人間の粘り強さを、おおらかに見つめる喜劇である」。

内海陽子プロフィール

1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の近著はこちら

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幸運を呼ぶ赤パンツ;濱田岳と水川あさみの『喜劇 愛妻物語』

刃の上を歩くような恋;『燃ゆる女の肖像』から匂い立つ輝き

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『女優の肖像』全2巻 ご覧ください