ポスト・コロナ経済の真実(2)中国は脱ゼロコロナで経済を回せるか

中国は1016日の間、いわば「コロナ鎖国」を続けてきた。それがこの1月8日から全面的に「開国」するというのである。これで中国ビジネス再開だ、インバウンドも復活すると思った人もいるだろう。しかし、本当のところはどうなのか、冷静に観察したい。そしてまた、中国が急激に世界経済に復帰していくと何が起こるのか、これも注意深く推測する必要がある。

まず、中国の現状をもういちど確認しておこう。たしかに、中国経済は回り始めるだろうが、ゼロコロナから急にコロナ規制撤廃に転じた副作用は大きい。このまま規制撤廃を続けて行けば、おそらく数カ月で感染者は2億5000万人を超えて、死者も150万人に達するだろうと予測されている。もちろん、野放図な規制撤廃をそのままにはしないだろう。また、いくつかの規制撤廃の見直しも打ち出すことになるだろう。

さて、それからどうなるのか。英経済誌ジ・エコノミスト1月5日号は社説「どのようにして中国の開国は世界経済を阻害するのか」を掲載して、これから世界経済で起こる様々なトラブルを予測している。中国政府はヨーロッパから効果の高いワクチンを供与してもらい、経済的な開国を加速するつもりだろうが、それは思い通りにはいかないと同誌は指摘している。今年の第1四半期は、たとえ地方経済が順調に回復を続け、大都市がコロナ感染を抑えることができても、経済縮小は避けられないとも予測している。

ただし、経済というものはかなり複雑だ。これから景気を回復させていったとして、「ある経済学者が指摘しているのは、2023年の第1四半期に比べて2024年の第1四半期は、10分の1ほどの伸びを示すと予想している」。つまり、今年はだめでも来年は違ってくるという。では、これが良いことなのかといえば、世界にとって実はそうでもない。「そうした急激なリバウンドは、中国のような巨大な経済の場合には、世界経済において中国だけが突出するという、アンバランスな状態を生み出してしまう」。

とはいえ、こうしたアンバランスは、中国共産党にとっては望むところだろう。習近平の昨年末における演説では、ゼロコロナの失敗を少しも悩んででいない様子で、「われわれの前には、まさに希望の光が見えつつある」とすらぶち上げていたのである。つまり、習近平の中国共産党は、これから世界への悪影響や中国内の感染爆発などは気にかけずに、ひたすら経済の偉大な復活に、邁進しようとしているというわけである。

もちろん、ひたすら中国経済に依存してきた産業や地域にとっては、有難い時代が来たことになる。たとえば、同誌があげているのは、かつて中国観光客が押しかけたプーケット島や香港の商店街である。昨年暮れの12月27日には、観光旅行契約サイトでの契約がそれまでの平均より250%の急伸を見せた。また、香港のGDPについても、エコノミストたちは8%くらいの伸びはあると予想しているという。

しかし、中国と中国の恩恵を受ける地域以外においては、中国経済の急速な復活の副反応がモロに襲ってくることになる。中国の再開国が世界的な価格上昇を促し、それがある程度のレベルまで達すれば、欧米はいまの金融引き締め策をしばらくは続けざるをえなくなる。また、西側諸国の商品を輸入している国々の場合は、価格上昇が転嫁されてインフレが昂進し、かなりの打撃を受けることになるわけである。

たとえば、石油について考えてみよう。中国の需要が急拡大すれば、その分、ヨーロッパやアメリカでの石油が不足することになる。ゴールドマンサックスの予測によると、ブレント原油は4分の1(25%)ほど価格が上昇するという。エネルギーコストの上昇は、すでに進行中の世界的インフレーションに、さらなる大きな影響を与えることになる。

ヨーロッパでの住民への影響はどうかといえば、これもかなりなものになりそうだ。ゼロコロナ政策によって、生産そのものを低下させていた中国が、再開国によってさまざまな分野で生産を再開していけば、天然ガスの需要も急増していくと予測される。となれば、液化天然ガスの奪い合いが起こって価格が高騰し、ただでさえウクライナ戦争で天然ガスに欠乏しているヨーロッパは、いま以上の深刻なエネルギー危機に陥ってしまうだろう。

そもそも、中国自体が再開国によって元の通りに戻れるかといったら、これもかなり怪しい。ジ・エコノミストが指摘しているのは、中国の今回のゼロコロナ至上主義を続けた末に、何の準備もしないままに、突如、入国も出国もほとんど全面的に開放してしまうという、予想困難な中国政府の政策決定の問題である。今回、中国に「戻ってきてくださいと」いわれて海外の企業が中国に戻るかといえば、怖くてできないところが多いだろうと指摘している。中国に戻るよりも、他の要素でリスクがあっても、突然の契約変更よりはましということで、他の国を選ぶ企業が多くなるのではないかと同誌は見ているのだ。

「中国が現在進行中の再開国を、幸いにして成功させることを祈ってやまない。しかし、パンデミックの時期に見せた中国政府の(自国の政策に)偏執的な姿勢や(理由の分からない)外国人嫌いは、おそらくこれからも続くのではないかと思われる。したがって、新しい中国がこれからどのように開国してくのかは、しばらく様子を観察してからでないと判断できない」

こうしたジ・エコノミストの社説が出るいっぽうで、海外の経済誌のなかには「中国は再び開国した。パンデミックが続いているというのはSNSが書いているだけだ。いまのうちに中国ビジネスを再開したほうがいい」と煽る記事も見られるようになった。しかし、今回のあまりにも劇的で粗暴な政策転換を見れば、これからはさらに注意深くこの国と付き合っていく必要があると痛感させられる。水に流して新しい中国の開国を祝おうという、一部にある楽観的な寛容や、何がなんでもまず「経済を回せ」のアニマルスピリットは、しばらく発揮しないほうがよさそうだ。

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