ポスト・コロナ経済の真実(15)中国政府はバブル崩壊の悲惨なデータを隠し始めた

いまや中国経済は不動産バブルが崩壊して、まさに分刻みで新たに明らかになった惨状が追加報道される状態だ。いつものことだが、不動産バブルは崩壊してしばらくしてから、そのおぞましい実態を見せる。それは、日本の1990年の証券バブル崩壊が不動産バブル崩壊に接続のに2年ほどかかり、アメリカの2007年のサブプライム問題が時間をおいて翌年の金融危機につながったように、兆しがあっても潜伏していて崩壊回避に失敗してしまうステルス型病巣だから恐ろしいのである。

英経済紙フィナンシャルタイムズ8月16日付は昼過ぎの速報で「7月には中国の新住宅価格が下落している」と伝えた。もうすでに同紙は何度も中国経済の惨状を伝えているので、特に目立った速報ではなかった。消費、製造業、融資が低迷しているのだから、これまで中国経済を引っ張ってきた不動産がさらに落ち込むのは当然で、若者の失業率も20%を超えた(以下のグラフはフィナンシャル紙より)。

あきれるのは、この若者の失業率の詳細な発表を中国政府がやめてしまったことだ。同紙8月15日付の「中国政府は経済の落ち込みが加速するなかで若者の失業率の発表をやめた」は次のように述べている。「若者の失業率の発表は2018年に始まったが、この7月には21.3%に達したが、このデータが載っている15日付のリリースには、詳細なデータが省略されていた。ただし、この報告では経済回復のエンジンとみなされている小売と製造の成長が、低迷していることは明らかになっていた」。

いまの中国経済の落ち込みを見て、これはかつての日本の不動産バブルとは違うなどという人がいる。いまは金融や財政の政策が発達しているから、何らかの対策が採られるはずだというわけである。しかし、それはあまりにも甘い見通しというべきだろう。中国の不動産バブルはもう数十年をかけて形成されてきた。そして、それが崩壊しかけるたびに、中国政府の「金融や財政の政策」が講じられて危機を回避してきた。今回はもうそれが「効かない」ということなのだ。

「8月15日、中国人民銀行は金融機関のローンに影響する中期貸出金利を2.5%下げた。そのことで2014年以来もっとも低い金利となる。また、中国政府は短期の刺激策を停止していたが、来週には企業や家計への融資を加速するための、さらなる貸出金利引き下げを打ち出すものと見られている」

INGのアジア太平洋地区主任ロバート・カーネルは「市場は中国人民銀行が9月まで再緩和を見合わせると予想していました。今回の前倒しの金利引き下げは、政治中央がいかに中国のマクロ経済について憂慮しているかを示したものといえます。そうでないとしても、けっして悪いニュースではありません」。効果はどうかは分からないが、何もやらないよりはずっと良いということだろう。

繰り返しになるが、日本の不動産バブル崩壊の直後に、不良債権の買い取りが政権によって示唆されたが、財界はこれを「金融優遇」と批判し、経済マスコミもさらに激しく非難した。そのため、日本の不良債権はそれから以降も急速に増殖した。アメリカの場合、この日本のケースを研究していたバーナンキFRB議長は、思い切った金融緩和で切り抜けられると踏んでいたが、実際に巨大な負債が姿をあらわすと、ただちに不良債権の買い上げに切り替え、かろうじておぞましい増殖をかなり抑えることができた。

中国の場合も金利や財政措置で対応したくらいでは、とても解決できない不良債権が金融システムや企業のバランスシートの中に増殖しつつある。財政支出がいくらでもできるという神話が、名前は違っていても、この国でも蔓延したことによる結果である。すでにこのシリーズの「ポスト・コロナ経済の真実(12)中国はデフレに向かって急速に萎縮中だ!」で紹介したが、中国の物価は下がり続けて、ついにはマイナスとなり、この傾向が続けばデフレ経済となることすら予測されている。

それは簡単には回避できない不動産バブル崩壊後の圧倒的傾向であり、不良債権の処理を間違えればデフレへと転落する危険度は高いと見てよい。もし、これらの恐るべき見えない巨大な躓きの石を排除できなければ、(そして、どうやら中国政府の不良債権買い上げは規模があまりに小さいようだ)おそらく日本と同じような「失われた10年」を迎え、さらには「失われた20年」「失われた30年」へと、ずるずるとすべり落ちていくことになるだろう(右グラフはジ・エコノミストより;すでに中国の消費者物価指数はマイナスを示している)。

【追記:19日午前】8月18日には恒大集団のアメリカにおける資産を保全するための破産15条申請が報道された。これは恒大集団の資産の一部にすぎないが、ともかく保全できるものはやろうという絶望的な抵抗だろう。すでに碧桂園集団(カントリー・ガーデン・グループ)のデフォルトも明らかになり、他の不動産コングロマリットの崩壊も伝えられている。それに対して、中国政府は株式の買上による株価維持をやっているようだが、いまやるべきは、そんな上っ面のまやかしではないはずである。ほとんど効果は期待できないだろう。

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