ポスト・コロナ経済の真実(12)中国はデフレに向かって急速に萎縮中だ!

中国経済が低迷を続け、すでにデフレの兆しを見せている。若者たちの失業率は25%を超えており、実は46.5%に達しているとの説もある。これはまるでアメリカの1929年の恐慌と1990年の日本の不動産バブル崩壊が一緒にやってきたようなものだ。独特の経済理論から、中国政府の継続的な財政支出を高く評価する論者もいたが、いま進行しているのは、これまでもあった大バブル崩壊後の大不況なのである。

米経済紙ウォールストリートジャーナル7月26日付は「中国の経済はどのように悪いのか? 数百万人もの若者が失業して絶望している」を掲載して、安徽省合肥市を中心に惨憺たる状況をレポートしている。「中国では若者の5人に1人以上が失業している。中国政府は仕事を探している若者たちに対して非難し、彼らは高望みが過ぎるのだと言っている」。

同レポートは、安徽省合肥市を中心に実例を取材しているが、それよりも手っ取り早く添付された2つのグラフを見てもらったほうが早い。まず、「仕事なき若者 中国の失業率」と題されたグラフは、都市全体では失業率は5%なのに、都市の若者たち(16~24歳)の失業率が20%を超えてしまった様子をストレートに反映している(グラフ右)。(ロイター7月20日付は若者の失業率はすでに46.5%に達したとした説を紹介している。註1=文末)

では、中国政府がいっている「若者たちの高望み」というのは何だろうか。この失業している若者たちの多くが、大学卒業者であるために、単純労働や安い給料を避けようとするために生じているというわけだ。ウォールストリート紙の「学歴ブーム 中国における大学卒業者」とのグラフ(下)は、中国社会が急激に高学歴化していることを示しているが、それでは中国政府はどうしろというのか? 同紙は皮肉交じりで次のようなことを述べている。

「若者たちは根性を発揮してツラいことにも立ち向かえと、若いころに文化大革命のために中国の田舎で働いた習近平主席は述べている。若者たちが自分の望む仕事が見つけられないなら、工場のラインで働くか、田舎の貧困に立ち向かえというわけだろうか」

中国経済の停滞については、英経済誌ジ・エコノミストも7月17日号で「中国の経済はどれくらいトラブルにはまっているのか」という記事を掲載している。ここで同誌は経済停滞について、基本的な数値とグラフによって「どれくらいトラブル」なのかを示している。まず、第2四半期は前年度と比べて年率6.3%だった。しかし、これは単純計算だ前期に比べてわずか0,8%の伸び、年率にしても3.2%に過ぎない(グラフ下1⃣)。

さらに問題なのは、単に経済成長率が下がっただけでなく、実は、デフレの兆候を見せ始めていることなのだ(グラフ右2⃣)。もちろん、ただのデフレなら景気刺激策で消えるだろう。しかし、それが大バブル崩壊後のデットデフレーションである可能性が高いので、中国当局は神経質にならざるをえないだろう。日本でも1990年代から今にいたるまで、「デフレのために経済成長が低下して、それがまたデフレを加速する」という悪魔のサイクルに陥るかもしれないのである。

もし、本当に若者の失業率が45,6%で、不動産バブルの後始末も進んでいないというのが現実ならば、これは1990年代の日本経済のような苦しみがやってくることは間違いない。それはたとえ、中国の官僚が日本の当時の官僚なんかよりずっと優秀だとしても、簡単に逃れるすべはないだろう。

1990年のバブル崩壊直前、カルル・ヴァン・ウォルフレンが『日本権力構造の謎』のなかで、他の国ならばすでに日本経済は崩壊しているはずなのに、いまも繁栄しているのは日本の官僚がズル賢いからだと書いたが、そんなことはあり得なかった。また、日本通のアメリカの評論家が、バブル崩壊が始まってから「日本の大蔵官僚がもっている秘密のカバンも、さすがにネタ切れになった」と書いたが、別に秘密のカバンがあったわけではない(写真:ウォールストリート紙)。

それはこれから中国でも展開するように、これまでのバブル加速政策が行き着く、逆バブル現象が連鎖的に起こっていくだけのことだった。ペットボトルにお湯を入れてぱんぱんに膨らませても、温度が下がればぺっしゃんこになる。今回の外務相の失踪だって、いま起こっている中国の急激な経済縮小と無縁だとはとても思えない。ひとつだめになると、バブル的社会は、ほかもすべてだめになるのである(写真:ウォールストリート紙)。

【註1】この説は、北京大学の張丹丹副教授が7月17日にオンライン上に投稿したもので、自宅で「寝そべって」いる若者や親に依存している非学生の160万人を統計に入れれば、失業率は46.5%の可能性があると述べていた。ところが、この投稿は削除され、ロイターが張副教授に連絡をとろうとしても返事がなかったという。(圧力があったことを思わせる展開といえる)

することがなく寝そべっていたり、非学生で無職の若者たちは、いわゆる「自発的失業」なのだから、統計に入れないのは当然と思う人がいるかもしれない。しかし、一見自発的に見えても、失業率が長期に高止まりすれば、彼らは中国版の「ロスジェネ」になる可能性がある。自立しなければならない時期がきても、生活するのに十分な収入が得られなくなるかもしれない。

日本の場合も、それまで就職難の年は繰り返しあったので、そのときは長期にわたる就職難が生じているは思わない人が多かった。それが対策へのモチーフを失わせ、あとあとまでたたるロスジェネ問題を生み出したわけで、今回の中国における若者たちの失業率急増が長引けば、将来においても大問題となることは間違いない。

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