ポスト・コロナ経済の真実(8)中国の経済回復が失速したのは「信頼」を失ったから

ウクライナ情勢が混迷を深めるなかで、ますます不気味な動きを見せているのが中国だ。すでにロシアへの武器供与は実は行われていて、アメリカとの対立が急伸するにつれ、さらにロシアへの接近に拍車がかかっているともいわれる。そのいっぽう、百万人を超える犠牲を払って、ポスト・コロナへと大きく舵を切ったはずの経済の回復が、期待されていたレベルにはほど遠いことが明らかになりつつある。

英経済誌ジ・エコノミスト5月18日付は「中国の経済回復は失速しようとしているのか」との記事を掲載して、期待されたほどではないどころか、人口動態的な要素や若者たちの非労働率を見れば、実は、近未来も遠未来も暗くなりつつあると、深刻な疑問を投げかけている。「この国はいまや信頼の罠にはまってしまったように見える」というわけである。

この「信頼の罠」とは何かについては、いまの中国経済について具体的に見ていくなかで紹介していこう。まず、失業率だが「先月(4月)、全体の中国の失業率は5.3%から5.2%に低下している」というのだから、よくなっているんじゃないかと思いがちだが、いっぽう「この改善ぶりは若い層での失業率が20.4%で、2018年以来の最高に達したという大きな陰りのためにかすんでしまう」。

こうした若い層に顕著な失業率が異常に高いために、中国の経済回復が「信用の罠」が生じて、逆に停滞してしまっていると、シティグループのシンヤン・ユウおよび同僚が指摘している。つまり、たしかに、今年の第1四半期時の経済は予想よりも回復の兆しを示したものの、投資家たちは平均的な数値で判断しているのではなく、若い層の失業率拡大などの「最も弱い環」に注目してしまうので、とても積極的になれないというわけである。

これはかならずしも、投資家たちの錯覚や思い込みにすぎないわけではない。中国の株式市場がそれほど活況を呈していないし、また、中国の国債のイールドがわずかながら上昇しているものの、期待しているほどには回復を示していない。さらに、去年の消費信頼指数が、去年より健全に見えていても、2019年のレベルと比べるとかなり低いままにとどまっている。

もっとはっきりと停滞を示す数値もある。たとえば、4月のデータでみると、信用貸しの拡大はおどろくほどスローだ。また、小売は上海などの大都市が(ロックダウンを行った昨年の4月と比べれば)強含みだが、業界のプロたちの期待と比べればとてもじゃないが満足できる数値ではない。製造業の生産もまた、実際のデータを見れば、アナリストたちが抱いた期待からずっと低い成績しか達成していないのである(右図The Economistより:経済指標の予想より実際のほうが低いケースが多くなっている)。

中国経済の回復が弱いという根拠はまだいくつもある。たとえば、国営企業の投資はそれなりに強いのだが、しかし、調査会社のオクスフォード・エコノミクスによれば、民間企業の投資は今年4月の伸びは第1四半期と比べるとわずか0.4%上昇にとどまっている。国営企業が必要のない生産を行って、GDPが拡大しているように見せかけるのはこの国の常套だが、それが民間に波及しなければツケをあとで払うだけのことだ。

こうした慢性的な低迷ぶりは、中国の不動産産業でも認めることができる。要するに、政府がいくらデベロッパーを煽っても、実際に優先されているのは途中で建設が中止されていた物件ばかりなのである。数字で見れば、敷地面積の19%が工事を完了したものの、同時に新しい住宅の建設は20%も下落してしまっている。これでは2歩前進3歩後退みたいなものだろう。

不動産市場の弱さは、何人ものエコノミストの経済成長予測率を引き下げさせている。たとえば、野村研究所のティン・ルーなどは、今年の中国の経済成長予測を5.9%から5.5%に下げた。「中国の回復は停滞しています。それは部分的には中国政府の刺激策が不安定なために、消費者や投資者たちが警戒しているためです」。

中国は何もしていないわけがないどころか、しゃかりきになって回復を煽り、市場の信頼性を復活させようとしている。しかし、4月のインフレ率はわずか0.1%にとどまり、さらなる刺激策が必要であることを示している。「外国の投資家も国内の消費者も、ほとんど中国政府を信頼していない。そして、政府が5月に行った経済予測を見れば、政府関係者もまた信頼感をもっていないことが明らかなのである」。

ゼロ・コロナを中止して経済を刺激すれば、中国経済はたちまち復活するという幻想がふっとんだわけだが、それは当然のことのように思われる。正確なゼロ・コロナ中止にともなう膨大な死者数が発表されることもなく、当然、それまでのゼロ・コロナ政策の失敗の責任をとることもなく、勝利宣言をすれば経済が昔に戻るという考えそのものが、あまりに粗暴でインヒューマンなやり方といえる。

弾圧によって表向きは国民の抗議行動を封じたとしても、中国全土で火葬所の延々と続いた煙が思い出され、安心して消費や投資ができないのだ。日本でも中国に似た発想が自民党の一部やいわゆる評論家にも見られた。何事でもマッチョで臨めば問題が乗り切れるという、正気を失った連中の犯罪的な言動だった。

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