ポスト・コロナ経済の真実(9)信頼崩壊の中国経済をグラフで読み取る

中国経済が回復から失速したことはすでに伝えた。もちろん政府の刺激策が効いてくるという人もいる。いまどのような状況なのか、まずはデータで見てみよう。やはり大きいのは若い層の失業率の急伸と、「信頼」の喪失だと指摘する専門家たちは多い。その様子がグラフで報じられているので、改めてじっくりと見ていただきたい。

ゼロ・コロナ政策が事実上破綻して、北京政府は一転してオミクロン株が感染するのにまかせ、おそらくは150万人の死者がでたといわれる。その後、経済回復をめざして刺激策を次々と打ち出し、今年の第1四半期にはGDP伸び率4.5%を達成した。今年の目標5.0%には届かなかったが、どうやら回復は軌道に乗ったという楽観的観測が生まれた。

しかし、4月の経済データが発表されるとその楽観はむなしく悲観に転じる。とにかく、多くのデータが楽観をかき消すようなものだったのだ。小売も製造業も信用も不動産も、明らかに何かにぶちあたったとしか思えなかった。ここまでは前回ジ・エコノミストによるレポートで紹介しておいた。今回はフィナンシャル・タイムズ紙5月29日付の「『信頼が大きな問題だ』:中国経済の回復は勢いを失っている」から、グラフを見てもらうことにしよう。

「『信頼が大きな問題だ』とゴールドマンサックスの中国人エコノミスト、フイ・シャンは指摘している。『消費者にとって、将来に対する不安があるのです。そうなればモノを買わなくなりますね。個人的な投資もきわめて弱い。いま中国の起業家についていえば、新しいことに取り組むことに消極的なんです』」

こうした構図は、前回のリポートでも指摘されていたことで、フィナンシャル紙は単に後追いをしているといえないこともない。この信頼という言葉は経済学において数値化できるものではないので、かなり実感的な判断に過ぎないのだが、重要であることは間違いない。かつてフランシス・フクヤマが『信頼』を書いて経済において最も大切なものとして注目し、さらに遡ればケネス・アローが「経済において最も貴重な資源」と述べている。

こうした回復の失速に対して、北京政府は手をこまねいていたわけではない。フィナンシャル紙によれば、ゼロ・コロナ解除以後、信頼を高めるために政府は「融和的」な政策を打ち出し、経済のエンジンを始動させるために努力をしているという。しかし、最近の数週間を見る限り、見通しはますます悪くなっている。コロナ禍以前の2019年4月と比較して売上は63%まで下落しており、この3月と比べても95%にとどまっている。

特に憂慮されているのが、若い層における極端な失業率増加である。他の年齢層が5%くらいで推移しているなかで、16~24歳の失業率は一時的とはいえ20.4%にも達した。コロナ禍以前は3.1%だったことを考えれば、現在の全体の平均5.2%でも多いといえるが、若い層の失業率は未来への不安となって中国社会に暗い影を落としている。労働市場に新規参入しようとしている労働者が拒否されていることを意味するからだ。

「北京政府としても、目標の経済成長率5.0%以下になるようなことはしないとは思われるが、モルガン・スタンレーの中国人エコノミスト、ロビン・シンは『社会的安定というものは(経済にとって)大きな条件なのです』と語っている」

財政出動をいくらでもやれるという新説が登場したとき、日本のある経済学者は「国民の信頼が続けば可能だ」と述べて新説をおおむね支持した。同じ経済学者はインフレターゲット論が流行し始めたとき、「国民全体がこの説を信頼しなければ成立しない」といって否定的な立場を表明していた。

これは「信頼」という資源がいかに経済にとって大切かということを示していると同時に、この言葉を曖昧につかえば矛盾したことをいくらでも言えることを暗示している。しかし、信頼の維持は困難なものであり、国民の無限の信頼などというものは、この世に存在しないのだ。

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