ポスト・コロナ経済の真実(5)なぜ中国経済にリバウンドが起こらないのか

いま中国の経済はどうなっているのだろうか? ゼロコロナ政策の失敗により、一説では150万人の死者が出たといわれる。その一方で、すでにリバウンドが起こって、着実に経済回復が進んでいると示唆する報道もある。しかし、残念ながら経済には不可欠のデータが伴っていない。そこで、コロナのときと同じように、さまざまな推計が行われる。

そもそも、中国のGDPからして政治的なものだから、信用できないと言われ続けてきた。そこで生まれた推計の方法が、港湾に注目することだった。コンテナの積載量などから、既存の数値と比較しつつ、中国の内側で動いている経済の現実を知るわけである。今回はその手法での推計もまだ報じられていないが、海運業のトップによるコメントから、だいたいの状態をうかがい知るという記事が登場した。

英経済紙フィナンシャルタイムズ3月27日付の「中国のリバウンドは思ったよりも弱いと、マースクが警告している」は、それほど長くないが、いちおう、巨大海運業のCEO、ヴィンセント・クレールの発言から、いまの中国経済の実態に迫っている。結論はタイトルそのまま「中国経済のリバウンドは思ったより弱い」というものだ。

このクレールという人物は、世界で第2位のコンテナ海運グループAPモラー・マースク(デンマーク)の新しいCEOらしい。彼が「中国経済関連の貿易量は、アメリカに主導される中国切り離し(デカップル)策にもかかわらず、マイナスの影響は受けずにすんでおり、強靭さを示してきた」と言うのだから回復は順調かと思いきや、当面は、どうもそうではない。

「私たちは、今年の初め、中国はコロナ禍を脱して力強いリバウンドがみられるだろうと期待していた。しかし、私はまだそれを目撃していない。中国の消費者は生じた事態にかなりショックを受けて、とてもいま積極的に消費しようというムードではないのだ」

中国政府は今年の経済成長目標を5%としたが、これは数十年間でもっとも低い目標値であり、習近平の厳しいゼロコロナ戦略の結果として、2022年の数値が低いものだったことから生じてきた予測といってよい。事実、3月27日に発表された公式の数値によれば、今年の1月と2月における中国産業グループの利益率は、22.9%というスランプぶりだった。

もっとも、多くのエコノミストは昨年12月に中国政府がゼロコロナを放棄したことによって、もっと強いパフォーマンスが実現すると期待している。また、IMFなども中国の今年の経済成長予測は5.2%と、中国政府の5%より高い数値を見込んでいるのである。しかし、前出のマークスCEOクレールは、同社の顧客のかなりの部分は、2003年のサーズ(Sars)の際に示したように、回復には時間がかかるとみている。

クレールは「狂騒の20年代(アメリカの1920年代のバブル期をこうよぶ)のような雰囲気になるのは、いまのこの(低調な)時期を通過した後だろう」と述べている。中国人の貯蓄の70%は不動産だったが、それが政府の取り締まりで価格が下落して、さらに中国の株式市場も低調になってしまっている。さらに、中国とアメリカとの地政学的な緊張のせいもあって、ネガティブなムードがますます醸成されているというわけだ。

「いま飛び交っているニュースなどを見ていたら、とてもじゃないが楽天的ではいられないだろう。それで、人びとの消費がノーマルな状態に戻るまでには、(ゼロコロナ放棄などのポジティヴな)効果にわずかの遅れが出てくるという現象がみられるわけだ」

つまり、クレールは本来現れてくるはずの中国のリバウンドが顕著にならないのは、ゼロコロナのネガティブな効果や、地政学的な見通しの悪さが邪魔をしているからで、それが薄らいでいけば、1920年代のアメリカのように「狂騒の20年代」が始まるはずだというわけだ。クレールは2021年に36億ドルで香港を基盤とするLFロジスティックスの買収を推進したが、これからの中国大陸で物流ビジネスを展開することを考えてのことだと言われている。

どうやら、クレールはアメリカが企てている中国経済とのデカップリングは、ハイテク分野だけにとどまると予測しており、それは中国全体の貿易からみれば一部にすぎないと見ているようだ。フィナンシャル紙によれば、マースク社は今年の基礎利益は、昨年のパンデミックによるブームで達成した310億ドルから20億~30億ドルに下落すると予想されている。つまり、クレールが述べている「わずかの遅れ」とは、少なくとも世界規模でみれば、今年1年は続くということなのだろう。

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