中国の不動産バブル崩壊!(12)債務デフォルトは個人レベルにまでおよんでいる【増補】

中国経済の停滞は不動産業の破綻で始まり、いまや一般市民にまで広がっている。854万人が住宅ローンやビジネスでの負債を払えなくなり、公的なブラック・リストに載せられる事態となった。いったんブラック・リストに記載されれば雇用から遠ざけられ、ますますローンや負債の返済が不可能になってしまう。もちろん、政府は打開策を模索しているが、これまでの不透明な制度では対応できない。【増補分の追記は文末にあります】

英経済紙フィナンシャル・タイムズ12月3日付は「中国の経済危機が深くなるにつれ、負債が返せなくなる個人が記録的数値に達している」との記事を掲載している。債務返済不履行者のなかで、公的ブラック・リストに掲載された者は854万人に上った。その多くが18歳から59歳の年齢層に分布しているが、彼らは住宅ローンの長期延滞やビジネス上での返済不履行に陥っているのだという。

この854万人という数値は中国の労働人口の約1%に相当し、ロックダウンの影響がピークとなった2020年の570万人を大きく上回っている。この急激な個人的デフォルトの理由として考えられるのは、もちろん、経済の停滞が続いていることによるが、さらに、個人向けの破産法が存在しないなど、中国の負債者にたいする保護的制度が十分でないことが挙げられると同紙は指摘している。

中国の法制度では、いったんブラック・リストに載ると、経済的行為がほとんど不可能になる。たとえば、航空チケットが買えなくなるし、モバイル・アプリによる交通機関も利用ができなくなる。このブラック・リストは、たとえば、債務者がローンの支払いが滞ってしまったために、銀行などの金融機関によって訴えられると、それが引き金になって簡単にリストアップされてしまうという。

「個人デフォルトの急激な上昇は、経済のサイクルによって生じているだけでなく、構造的な問題からも生じている。経済が回復する速度よりも、状況がますます悪くなっていく速度のほうが速い」と、中国ハンセン銀行のチーフ・エコノミストであるダン・ワンは指摘している。すでに報じられたが、とくに若年労働者の失業率が高く、2023年4月に21,3%にまで達した(引きこもり的無職を入れると45%を超えるともいわれる)。しかも、こうしたデータはすぐに当局によって発表されなくなってしまった。

中国商業銀行は12月に入るや、クレジット・カードを使った借金の返済90日以上延滞が、2022年に比べて26%の上昇を見せていると報告した。また、上海に拠点を置くコンサルタント会社である中国インデクスアカデミーは、2023年の行政執行は58万4000件と、前年に比べて33%もの上昇となりそうだと述べている。

もちろん、中国当局にもなんとかしたいと思って者もいるだろうが、そこに立ちはだかっているのが、旧態依然の破産に関する制度であり、個人の金融に関する不透明性がさまざまな措置を行うのを難しくしている。政治家たちは個人資産の公開について、制度を変えてしまうと多くの不都合が生じてしまうので、さまざまな措置を行う前提となる、個人資産の透明性を高めることに消極的なのである。

この記事は残念ながら何らかの対策は提示されていない。そのかわり、借金を返したいと思っても返せない債務不履行者のもっともな嘆きを引用している。「裁判所は、私が借金を払いさえすれば、生活はもとの状態に戻るといいます。でも、ブラック・リストに載ってしまって、多くの制限を受けるようになっているので、どうすればお金をつくれるのか、私には分からないんです」。

【付記:2024年1月4日】上記の投稿は2023年12月上旬のものだが、状況はますます悪化しているようだ。CNN電子版1月2日付の「中国の習近平主席、経済的苦境に言及」によれば、とうとう習近平が中国経済はいま苦しい状況にあることをみとめたというのである。

「習近平はテレビ演説で『一部の企業はいま苦境に立たされており、また、就職がきびしく日々の暮らしに困っている人もいる』と述べて、中国経済が困難に直面していることを認めた。そして『これらすべてのことを念頭に置いている』と付け加え、『これから経済回復の勢いを強くしていく』と断言した」

気分としてはそうだろうが、今回の中国経済の低迷はあくまで「構造的」なものであり、それが「心理的」な不況感をさらに掻き立て、さらに「構造的」なものにマイナスのフィードバックがかかるという状況と考えてよい。つまり、いまの蟻地獄のような状況から脱出するには、まず、構造的な問題を解決する方法を考え、同時に、国民の心理的な低迷感を払拭するように努め、プラスの上昇螺旋が生じるようにしなければならない。それがいかに難しいかは、熟年以上の日本人には周知のことである。

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