中国の不動産バブル崩壊!(8)政府の救済策36項目は本当に効くのか?

中国の今年のGDP伸び率は3.3%と予測されている。年初予想より1.8%もの下落をするわけで、気の毒に思う人もいるかもしれないが、日本にもそのマイナスの影響はすでに及んでいる。中国の不動産バブル崩壊に対する政策が発表になった11月中旬には、中国の株式は急上昇したが、これは持続するようなものではない。事実、冷静にこの発表になった政策を見ていけば、効果よりも限界が強く印象づけられるのである。

英経済誌ジ・エコノミスト11月14日号に掲載の「中国の不動産とパンデミックに対する政策が大きく変わった」は、「ゼロコロナ」政策とよばれるパンデミック対策がかなり柔軟なものになり、多くのデベロッパーをデフォルトに追い込んだ、不動産行政が改められることを歓迎している。「投資家は沸き立ったが、多くのことが不確かなままだ」。これから中国経済が縮んでいくことは避けられないだろう。

同誌によれば、中国当局の発表では、ゼロコロナ対策の変更は20項目におよび、また、中央銀行と政府の金融政策における変更も16項目あるという。同誌が注目しているのは発表直後の株式の上昇で、この中国政府の変化を好感した中国の株式市場は急騰をみせ、ハンセン指標は1カ月で21%も上昇し、また、デベロッパーの株式だけに限れば、11月14日で13%もの急騰をとげた(以下のグラフはすべてThe Economistより)。

たしかに、コロナ対策の変更には、中国に入国する人の隔離期間が短期化され、航空機の航路停止や感染旅行者の移動禁止などを行う「サーキット・ブレーカー」などは廃止されることなどが含まれている。また、感染者に接触した人を、隔離施設に足止めする措置が7日間から5日間に短くなる。こうした細かい措置変更が、おおむね緩和される方向で変えられるので、経済活動が急激に復活するのではないかと、期待を持つのは当然かもしれない。

しかし、こうした20項目の措置変更が、そのまま、ゼロコロナ政策の終焉を意味するわけではない。たとえば、広州市のような大都市にみられるように、感染が急拡大すればただちに、再び厳しいロックダウンを行なうことを視野においている。つまり、中国政府が20項目の変更というのは、コロナ感染が広がり始めたころに比べれば、パンデミックへのスタンスがかなり緩和されるから、その意味では大きな変化といえるということである。

同じことは16項目の金融緩和についてもいえる。昨年の夏に始まったタカ派的な住宅政策から比べれば、かなりの変化があることは確かだ。このタカ派的政策は、デベロッパーが借りられる金額や、銀行が貸せる金額に厳密な限界を課すというものであり、住宅市場の投機的な傾向を締め付け、この産業分野そのもののサイズを縮小させるのが狙いだった。

ところが、この住宅投資締め付け政策は「あまりに効果がありすぎた」。そこで昨年の金融引締めを、16項目の措置によって緩和するというのが今回の措置であって、主に貸し出しを加速して、デベロッパーや建築会社を刺激し、勢いを回復させようとしているわけである。そのためには、中国政府の指図にしたがう「政策銀行」が住宅プランを援助し、また、そうした政策に沿った融資を商業銀行にやらせようとしているわけだ。

ここまで読んできただけで、何だかカッタルくなった人もいるだろう。それはジ・エコノミストの記者も同様らしく、中国当局が発表した措置変更を見てゆけば、記事の後半では「こんなことでは成功を保証することからは程遠い」と言いだしている。最も注意すべきなのは、こうした16項目に書かれたような金融緩和は、「これまでもさんざんすでに行ってきたことにほかならない」という点だ。中国政府はまたしても、金融緩和で刺激を与えれば何とかなると考えているのではないだろうか。

たとえば、最近も8月には政策銀行が2000億元(280億ドル)を貸し出して、建設がストップしているプロジェクトを完成させると述べている。その1カ月後には6つの国営銀行が6000億元を融資すると言っていた。さらにその前にも中国当局は民間企業に2500億元の債券を発行させる援助を行うとも表明している。

こうした措置は、やり方が新しくても古くても、デベロッパーが当面の問題を乗りきるには助けになるかもしれない。「しかし、それでは彼らが新しい不動産を売ることができるのだろうか」。もちろん、景気が落ち込んだ経済においては、新しい不動産を買う企業も個人も、とおに姿を消してしまっている。不動産バブルの崩壊というのは、これまでも世界中で繰り返し起こっているので、こんな基本的なことは分かりそうなものだが、冷え切った市場に実際に直面するまで、政府というのは気がつかないのである。

何度も繰り返し指摘してきたことだが、金融緩和で新たな投資を行わせても、以前のような活気のある経済でなければ、その投資が収益を生むことは難しい。こんな当たり前のことでも、不動産バブルが崩壊した国の政府というのは、こさかしく当面の救済ばかり考えるので、もっと重大な現実に気がつかなくなってしまうのだ。その結果、新たな投資はほとんどが新たな不良債権に化けていく。日本の不動産バブル崩壊においても、現実を甘く見た対症療法によって不良債権は増えてしまった。

「投資家たちは、この合計36項目におよぶ措置変更を歓迎するかもしれない。(そして、株価の急騰を見れば歓迎したようである)しかし、多くのことが曖昧なままに放置されている」。いまも解決されていない事項で、最も大きいのはゼロコロナ政策をいったいどうするのかということだと同誌は指摘している。まず、コロナ対策の20項目が本当に効果があるのか。そのことが分からなければ、不動産バブル崩壊に対する16項目も、まるで効果を発揮できないことになるからだ。

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