コロナ恐慌からの脱出(33)バイデンの大盤振舞いが行き着く先

アメリカおよび世界中の経済マスコミが、いっせいに明るい未来を描き始めた。無理もない、バイデン政権のコロナ対策への追加財政支出が1兆9000億ドル(約200兆円)だというのである。しかも、昨年までに行われたコロナ対策費と合計すると6兆ドル(約632兆円)にも達し、もうこれでコロナ禍による不況とはオサラバというわけだ。

ウォールストリート紙3月10日付は「コロナ対策の第3弾パッケージはアメリカの成長を急進させ、2021年にはインフレも復活」という記事を載せて、ほとんど手放しでバイデン政権の追加政策を称賛している。深刻なインフレになると憂慮しているサマーズ元財務長官の見解に対し、インフレが来てもそれは3%くらいのもので、抑制は可能だと主張する説をいくつか紹介している。

「昨年の数兆ドルのコロナ対策予算と、コロナワクチン接種割合の急激な上昇のなかで行われた追加対策予算の決定は、エコノミストたちを奮い立たせている。弊紙が先ごろ行ったエコノミストへの調査によれば、2021年の米国内総生産成長率予想は、10~12月期の前年比で5.95%で、先月調査の4.87%から急伸した。これは1983年の7.9%以来の高い数値である」

今回の対策パッケージには、経済の継続性についての総合的な視点があると同紙は指摘している。たとえば、大半のアメリカ国民に対する最大1400ドル(約15万円)の現金支給にとどまらず、失業保険上乗せ給付が9月まで延長された。学校再開やワクチン製造・配送への支援も忘れていない。子供を対象とする控除や家賃補助、低所得者向けの食料配給券(フードスタンプ)への追加予算もついている。

こうしてみれば、単なる消費のリバウンドだけでなく、その後の長期的なサステナビリティを配慮した巨大予算であるということが分かるというわけだ。ある経済学者は「今回の追加対策は保険付きなのだ」と述べているという。中国の脅威を感じる者にとって嬉しいのは、アメリカ経済の成長率が、中国と同等あるいは超える可能性がでてきたことだろう。

ともかく巨大すぎるといってもいいほどの対策費である。これはもちろん、バイデン政権が選挙前には「しみったれた経済政策案しかない大統領候補」といわれたことを大きく裏切るものだ。4年後には再立候補が噂されるトランプ元大統領が、ぶち上げて成功したかにみえる「トランポノミクス」の扇動的な経済政策に対抗して、もれなく惜しみなくばらまくことを目指した結果でもあるだろう(右写真:wsj.comより)。

しかし、この政策は経済全体のリバウンドを生み出すことは間違いないとしても、その後のアメリカ経済が、安定して繁栄していくようなものなのだろうか。確かに3%くらいのインフレなら制御できる。しかし、いまの天井知らずの株価バブルや、住宅バブルは継続可能なのだろうか。そもそも、実体経済が急激に燃え上がるなかで、金融経済はこれまでのような「コロナ特需」を享受できるのだろうか。

同じように、バイデン政権による追加政策の巨大さにたいしては驚嘆しつつも、英経済誌ジ・エコノミスト3月13日号の社説はややニュアンスが違う。同誌の「ジョー・バイデンの刺激政策はアメリカと世界にとって高い掛け金のギャンブルだ」は、もちろんこの政策がアメリカだけでなく、世界にとっても大きな刺激策になるだろうとは述べている。

たとえば、日本にとってもアメリカ経済がリバウンドすれば輸出が伸びるから、強い刺激となって国内の経済活動を促すだろう。また、それはアメリカ市場に多く異存している新興国の経済にとっても有難い「追加支援」となっていくだろう。しかし、インフレの予想は意外な結果を生み出すかもしれない。すでに、インフレ上昇予想が生まれて、米財務省証券の10年物金利が昨年夏より1%上がっただけで、米国内だけでなく世界中に動揺が走った。

たとえば、オーストラリアの中央銀行は、金利が急激に上がるのを阻止するために、国債の購入を加速しなければならなかった。また、ヨーロッパ中央銀行は同じような事態を回避するために介入の準備に入った。さらに、負債の大きいブラジルやドルに依存しているアルゼンチンといった新興国は、アメリカの金利政策が変わることに、大きな恐怖を感じ始めている。

いちばん分かりやすい例としてあげられているのは、インフレが3%程度のもので済まなくなったときで、当然、FRB(連邦準備制度理事会)は政策金利をあげることを考えるだろう。(MMT論者なら「金利は常にゼロだ」と言うかもしれないが、現実世界ではそんなことはありえない)パウエル議長はいまのところ金利をあげるつもりはないといっているが、はたして数兆ドルの規模の追加政策が生み出す事態にたいしても、そう言い切れるだろうか。

「バイデン氏の刺激策は巨大なギャンブルである。それが十分にペイするなら、アメリカは日本やヨーロッパが嵌り込んでいる惨めな低インフレ、低金利の罠を回避することになるだろう。景気後退に対して巨大な財政支出を行うのはありふれた政策ともいえる。とはいえ、アメリカは巨大な財政赤字、インフレの危険、そして中央銀行の信頼性の危機といった問題と直面することになるのだ」

ちなみに、奇妙に思うのは、同誌も巨大な財政支出の果てに、金融市場や住宅市場での巨大バブルが、今度こそ崩壊する危険については、どういうわけか言及していないことだ。こうしたリスクのある政策が、結局はアメリカのインフレ急上昇と世界の金融政策の急変につながったとすれば、いまのような異常なユーフォリア(楽観)はすっとんでしまうだろう。

では、どうしろというのか。ジ・エコノミストは別の社説「なぜバイデンの刺激策はあまりに巨大なのか」で、共和党のグループが提示していた、ほどほどの追加対策(約600億ドル)もあったかもしれないと示唆している。ちょっと、やり過ぎではないのかというわけだ。しかし、果たしてこれくらいの規模で、いったい何ができただろう。

とはいえ、「小出し」の追加対策が効かないことは日本がこれまで何度も証明してきた。そして、すでに述べたように、バイデン政権としては国内政治的にも、そして一足先に成長路線に戻ったように見える中国への対抗上も、米国民や世界市場が呆れるほど、巨額なかけ金を積んでみせるほかなかったということだろう。

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