今のバブルはいつ崩壊するか(1)犯人は「欲望」だけではない

アメリカの株価が連日最高値をつけるような状態になっている。それに比べて日本の東証は勢いがないものの、ずるずる引きずられている感がないわけではない。いずれにせよ、これまでのさまざまな経済指数からすれば、まちがいなく「バブル」と呼べる状態だ。たとえば、日米ともにGDPの伸びに対して株価の伸びが高すぎる(2番目のグラフ参照)

日経電子版より

このバブルの大きな要因あるいは条件は分かっている。世界的な低金利である。金利が低ければ借金をしても投資をしたほうがいい。したがって、アメリカなどでは企業の負債(借金)が急速に拡大して、すでにITバブルやリーマン・ショック時を超えてしまっている(左のグラフ参照)。

では、なぜバブルが崩壊しないのか。これも、この低金利がこれからも続くと見なされているからだ。なかには金利ゼロが当然だと主張する「新しい経済学」も台頭していて、これまでの経験など役にたたないという言い方が妥当であるかのような雰囲気が蔓延している。

しかし、これまでの経験を尊重する立場からすれば、これは間違いなく「バブルの心理」にほかならない。「これまでの例はもう役にたたない」「いま起きているのは、まったく新しい現象なのだ」という観念が膨らむときこそ、バブル崩壊の前夜である。

もちろん、このバブルがいつ崩壊するのか、それは正確には分からない。これまでも、崩壊時期を的中させてきた経済学者やエコノミストは存在するが、2度くらいまでは当たっても、3度、4度という人は見当たらない。いや、私が知らないだけなのかもしれないが、表にでてきている人でそこまで的中させた人はいない。もし、それほどの的中率をもっていれば、密かにバブル崩壊を利用して巨万の富を手にできるだろうから。

いまの時点で興味ぶかいのは、アメリカのノーベル賞受賞経済学者ロバート・シラーが、これほどの危機状態になってから、むしろ、バブル崩壊について語るのに注意深くなっていることだ。彼はITバブル崩壊を的中させ、また、リーマン・ショックの大きな原因になった住宅バブルを分析して、いずれ崩壊することを予告していた。

これから詳しく述べていくつもりだが、シラーは住宅価格についての「シラー指数」の考案・開発者であるだけでなく、株価については「シラーPER」を開発し、すでに数年前から高すぎるレベルを超えていることを指摘してきた。ところが、そのシラーが今年になってバブル崩壊についてあんまりはっきりしたことを言わなくなり、新たに刊行した本も『ナラティヴ・エコノミックス』という、面白いが、もっと包括的なテーマのものだった。

「崩壊の可能性は十分に高いが、いつ崩壊するかは分からない。前とは条件がいろいろ変わっているからね」

というのが、彼のスタンスなのだが、どうももっと含むところがあるような気がしてしまうのは私だけだろうか。シラーはビットコインについては「感染して高熱を発生させて、いつの間にか消えてしまう」との疫学的あるいは感染制御学的な見通しを述べていたが、いまの株価についてはこうした言い方はしていない。では、本当はどう考えているのか。

英国のバブルはフランスに飛び火した。Murphy 1997より

こうしたことも、これからの連載で考えていくが、いずれにせよ今回のバブルは中心が見定めにくいところがある。ITバブルはITの急激なブームがあり、住宅バブルにはモーゲージ・ローンの危うい証券化という現象を、崩壊以前に認識することができた。ところが、今回はそうした「分かりやすい」ものが見当たらない。あるいは金利が異様に低いという条件はわかっていても、バブルの種子そのものが見えていないのである。

そんなときには、やはり、歴史を振り返っておくのが一番いいと思う。まったく新しい経験というのは、あるとすれば、そもそも最初から十分に認識することは人間にはできないことであり、もし、何らかの人間の洞察というものが生きるとすれば、それは圧倒的に経験によって支えられているときなのである。

したがって、これまで歴史上に現れたバブルを振り返るということが多くなると思うが、このシリーズの特色としては、ロバート・シラーの「ストーリー理論」あるいは「ナラティブ理論」にかなり影響を受けていることを認めつつ、もうひとつは、バブルは必ず政治・行政が加担しているという視点を付け加えることである。

ロバート・シラーの「理論」については、他のバブル理論を紹介するなかで、おりおり触れていくが、後者のほうは簡単な話で、バブル理論の多くは「人間の欲望」を中心に置くような議論をするが、それは危険だということだ。もちろん、欲望がこの世にあるというのは間違っていないが、その欲望を解放するさいには、必ず政府や行政による「制度」「手法」「技術」の変更や解禁が見られるのである。

分かりやすい例でいうと、世界史で本格的なバブルの先駆けは18世紀英国の「サウス・シーバブル事件」だといわれているが、このバブルなどはほとんど英国政府の主導のもとに政治と行政がバブルの枠組とタネを提供し、それがもともと博打好きの英国人の欲望に火を付けたといってよいものだった。この官製バブルはすぐにフランスに飛び火する。「ミシシッピー・バブル事件」である。これも怪しげな人物がからんでいたが、まちがいなく官製バブルだった。そして、こうした事態は、これから述べていくように、近年の巨大バブルもまったく同じなのである。

ちょっと先回りしたかもしれない。ともかく、今の奇妙なバブルについて、しっかりと観察することが大事だ。そしてそれが人間のバブル史においてどこまで普遍的で、どこまで特殊で新奇なのかを見ていくことにしたいと思う。

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