コロナ恐慌からの脱出(21)コロナ・ワクチン完成がバブル崩壊の引き金だ

あわただしく報道されているように、コロナ・ワクチンの接種が早いところでは今年内に、先進諸国では来年1~3月には始まる可能性が出てきた。いま最終段階の試験に入っているのは6種ないし7種の候補ワクチンだが、これまでのワクチン製造から割り出すと、失敗率はそれぞれが20%とのことで、かなり高い確率でいくつかは成功することになる。

もちろん、2年はかかるといわれたワクチン開発を1年にまで縮小したのだから、その安全性や有効性には何らかの問題が出てくるかもしれない。しかし、いくつか成功したとなれば、これからのワクチン対策は大きく転換するだろうし、また、経済においてリスクの取り方も変わってくる。

しかし、ワクチンの成功と対策の進展は、いま巨大に膨れ上がった世界の証券市場にとっては、別の意味での大きな転換がまっているかもしれない。すでにアメリカの市場ではS&P500の平均はコロナ以前にまで回復しているが、株式市場の構図は大きく変わってしまった(左図The Economist  Aug 8th 2020参照)。

いうまでもなく、FAMAA(フェイスブック、アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット)といった情報技術関連銘柄が、いまの株価バブルを牽引しており、すでにこれらの銘柄でみれば株価はコロナ禍以前の140%に達しようとしている。情報技術関連銘柄なのだから、バブルではないという人がいるだろうが、これらの企業がこれからそれほどまでの実績をあげるかといえば、よほど楽観的でなければ「イエス」とはいえないだろう。

まず、今年1月1日を基準として、株式市場がほぼコロナ禍以前の100に戻ったということ自体が、前期マイナス32.9%と激しい後退をしている実体経済と比較して、バブル以外の何物でもない。また、株価全体とFAMAAとの差を見ても、40%もの差があるのだから、これはITバブルの再来といってよい。

したがって問題は、この明らかなバブルはいかにして形成され、そしていかにして崩壊するかである。バブルの一般論については、すでにこのサイトの「今のバブルはいつ崩壊するか」および「コロナ恐慌からの脱出」のシリーズで述べてきたとおりである。特に注意すべきは、バブルはインフレでなくとも起こるのであり、国民全体の飽和感がなくとも、資産バブルは膨れ上がってしまうということである。

「今のバブルはいつ崩壊するか」は16回ほど連載したが、最後のころには新型コロナ・ウイルスの感染が広がって、「コロナ恐慌からの脱出」に引き継いだ。この連載もすでに20回を超えたが、その間、新型コロナ・ウイルスは猛威を振るい、とくにアメリカにおいては16万人超の死者を出している。にもかかわらず、米政府およびFRBが必死に財政および金融によって経済崩壊を支えようとすればするほど、それはますます巨大なバブルを形成していったわけである。

そしていま、いよいよバブルは終焉に向かっていると言わざるを得ない。ひとつが、今年の秋に行われる大統領選挙であって、結果がどのようになっても、経済政策に大きな影響を与えることになるから、バブルがいまのままで続くというのはむしろ非現実的である。そしてもうひとつが、前述したコロナ・ワクチンの完成であって、それはまさにバブルの歯車が逆転を始める引き金となると思われる。今回は最後にこの「歯車逆転」のケースを簡単に述べておくことにしよう。

目の前にあるアメリカの異常なバブルは、何よりも政府からの財政支出とFRBによる金融緩和および債券買取によって支えられている。そして、投資家たちもそれは分かっていながら、「ほかにやり方がないから(there is no alternative)」いまのようにFAMAAを中心とする証券に投資している。政府が行ったさまざまな消費者支援の一部も、まわりまわって証券市場を支える資金となっているといわれる。

しかし、コロナ・ワクチンが成功したとなれば、インフルエンザとほぼ同列に考えることができる感染症となる。そうなれば、リスクに対する感覚が変わり、急速に以前のような経済活動へ向けての投資が再開されるようになり、これまでの証券市場に向かっての資金の流れは逆転していく。その過程で、どのくらいオーバーシュートするかは分からないが、FAMAA以外の株式も連れ落ちすることになると思われる。

もちろん、コロナ禍が意外なことをいくつも生じさせてきたことを考えれば、これほど単純に逆転していくと思わないほうがいいのかもしれない。そうした意外な罠や逸脱については、以降、詳しく考えていくことにしたい。ちなみに、日本の株式市場だが、このコロナ禍にあっても、ほとんどアメリカ株式市場に追随するかたちで推移してきた。おそらくは、同じパターンを踏むものとして考えてよいだろうが、なるだけアメリカとの比較でふれていくことにしたい。

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