コロナ恐慌からの脱出(16)家計の消費はいつ立ち上がるのか

6月11日のダウは1861ドルの下落で、これまでの急伸が単なる刺激政策による幻想だと気づかせてくれるのに十分な数値だった。翌12日の日経平均は一時600円以上の下落を記録したものの、結果的に160円台のマイナスに済んだので、ほっと胸をなでおろした投資家も多かっただろう。

とはいえ、12日に明るいニュースがなかったわけではない。厚生労働省が発表した今年春の大学就職率は98%に上り、これは過去最高で、コロナの影響がないかのような錯覚にとらわれた人もいただろう。しかも、内定取り消しがあった後の数字だというから、少なくとも日本の大企業は、これからの経営について積極的な姿勢を見せていると思われる。

こうなると気になるのは日本政府が実施している経済刺激策で、こうした流れとかみ合っていけば、日本経済の回復も早まるのではないかと思われるが、残念ながら安倍政権に敏捷性を求めるのは間違っている。たとえば、散々もめて決まった10万円の特別定額給付金は、6月5日現在でまだ全体の38.5%に達したばかりで、消費を押し上げる波になるまでには、まだまだ時間がかかりそうなのである。

そもそも、株式市場にお金が流れ込んで株価が乱高下しているほどなのだから、消費者にもお金を流せば買い物とかレストランなどに出かけていって乱費してもおかしくない。しかし、それは起こらない。先進国政府の刺激策が、手っ取り早く成果を上げようとするので、どうしても金融市場向けが先行してしまい、本当に効果のある中小企業対策や、普通の消費者の刺激策は後回しになってしまうというのも一因であろう。

なんといっても経済回復には、家計による消費の劇的回復が必要である。それが10万円の特別定額給付だというわけだが、では、この奇妙なノロさはいったい何だろうか。外注の外注の外注の……などとやっているからなのだろうが、そもそも首相のしがらみを優先させるような政権が、適切な政策を即断即決する政治に変容できるわけもないのである。

さて、ではこの10万円が国民に行きわたると、家計の消費が立ち上がってきて日本経済は回復するのだろうか。そう願いたいものだが、これがどうも決定打とはなりえないようである。それは麻生財務大臣が「こういうバラマキ政策はうまくいかない」といったからではなく、お金をばらまくだけの、いわゆる「ヘリコプターマネー」の効果はこれまで何度も議論されて、どうやら効き目は薄いという説のほうが優勢だったという経緯もある。

そしてこれが悲観的な見通しに最大の根拠を与えることになるのだが、実は先行してヘリコプターマネー政策を実行したアメリカやイギリスの結果があまり思わしくないのである。アメリカもイギリスも日本の安倍政権ほどのんびりしていないので、すでに国民に小切手の郵送や口座への振り込みを終えていて、その中間的な数値がすでに出ている。

英経済誌『ジ・エコノミスト』6月11日号掲載のグラフと数値を見てみよう(上図)。アメリカでは4月には消費刺激のための小切手が家庭のポストに届いて、国民の収入を10.5%上昇させた。しかし、アメリカ国民は増えた分の多くを貯金に回してしまって、その結果、可処分所得の30%以上に相当する預金残高増となっている。

また、イギリスでも162億ポンドが4月に国民の口座に振り込まれたが、2月の消費額と比べて50億ポンドほどの増加にとどまっているという。つまり、残りは消費されないで、しっかりと貯金されてしまったのである。

だから言わないこっちゃアない、というシャガレ声が財務省の方角から聞こえてきそうだが、たしかにこうした刺激策は、不況の度合いが厳しければ厳しいほど効かないというのが、多く経済学者たちが指摘したことだった。つまり、人びとは臨時的な収入があっても、不況がひどいと将来への不安から、そのかなりの部分を貯金に回してしまうのである。そのことを思えば、あまり失望してもしょうがない。むしろ、これからさらに激しくなる中小企業の資金ショートや倒産の対策を強化したほうが、ずっと景気浮揚効果は高いように思われる。

もちろん、日本がアメリカやイギリスと同じ結果を迎えるという確証はない。そんなことはあって欲しくないのだが、せいぜいイギリス程度の消費増加率が見込めれば上出来ではないのか。しかし、日本がアメリカと同じほどの物価下落を見せている(上右図)ことを考えれば、アメリカ並みという可能性はかなり高いだろう。

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