コロナ恐慌からの脱出(3)これまでの不況と何が違うのか

前回、新型コロナウイルスが招来しつつある不況は、実は、新しい現象なのだと述べた。その意味は、近代に入ってからの大きな景気後退はいくつもあるが、それが感染症流行によって生じたと言えるものは見当たらないという意味にすぎない。

たとえば、中世におけるペストの蔓延は、いくつもの大都市を壊滅状態に追いやったのだから、経済のみならず中世社会そのものも破綻させたといってよい。14世紀のペスト「黒死病」は、中央アジアで発生したものと言われるが、ヨーロッパを襲ってイタリアのシエナ市では人口の約80%が死亡し、英国全土では約50%の人口が減少した。

また、近現代においても、第一次世界大戦の最中、1918年にアメリカの陸軍キャンプから始まった「スペイン風邪」の流行は、当時、20億人といわれた世界人口の約25%である5億人が感染し、約4000万人の命を奪った(5000万人説も)。それが戦争の遂行のみならず経済の維持に巨大な影響を与えなかったわけがないのである。

さらにいえば、ごく最近、2011年の東日本大震災は800年に一度の大地震といわれ、巨大な災害をもたらしたことは記憶に新しい。このときも、リーマンショックより十分に回復していない日本経済は、さらに低迷するだろうといわれた。なかにはサプライ・チェーンの崩壊により、モノ不足による「デマンド・プル」型のインフレが起こると論じたエコノミストも何人か存在した。

これらは、すべて巨大な衝撃を経済に与えたことは確かである。しかし、ペストの全体破壊的な事態を別として、今回の不況が違うのは、感染症流行そのものが株式暴落や債券市場崩壊を招いて、経済の激しい停滞を生み出しているという点である。中世のペストのような事態にまでは至らないと思われるが、新型コロナの蔓延ゆえに、日常生活や社会活動の基盤を崩壊させて、大不況をも生み出しかねないのである。

もちろん、こうした見方は一面的かもしれない。新型コロナはあくまできっかけであって、いずれ景気後退はやってきただろう。なぜなら、今年の1月に中国の武漢で新型コロナの激しい流行とそれに続く都市封鎖を迎えるまえに、すでに世界経済はバブルの兆候を濃厚に見せていたからだ。この点については、いまも「バブルではない」と反論するエコノミストがいるが、このサイトで昨年11月から最近まで連載していた「今のバブルはいつ崩壊するか」をご覧いただきたい。

では、いまの状態をどのように見ればいいのか。いちばん生じやすい誤解は、この新型コロナ騒動が終わってしまえば、世界の経済も以前と同じ状態に戻るだろうという期待を多分に含んだ見通しである。新型コロナが引き起こしたのだから、それが終われば元にもどるというわけだ。しかし、それはまったくといってよいほどあり得ないだろう。

中世のペストが鎮静化した後、ヨーロッパは再び中世社会に戻ったかといえば、まったくそうではなく近代社会へと移行することになったというのが定説である。これほどの大転換は希だとしても、第一次大戦とスペイン風邪がもたらした破壊は世界を一変させてしまった(そのことが軽視される傾向があるが、これからの連載でもう少し詳しく見ていく)。また、東日本大震災からの「復興」はすでになされたという論者もいるが、日本の社会や経済は、実は大きく変わってしまっている。

これから考えなくてはならないのは、ポスト新型コロナ恐慌であって、ただ単に財政出動と金融緩和を行い、あるいは証券と債券を買い上げただけでは問題を解決したことにはならない。たとえば、この新型コロナ不況を脱するために採用される経済政策によって、日本経済だけでなく日本社会も変わってしまうというのは大いにありうることなのだ。

そのためには、逆説的になるがこれまでの巨大な不況や災害によって生じた混乱のあとに、何が起こったかを見ておかなくてはならない。次回は、経済テーマとしてはあまり注目されなかったスペイン風邪と第一次世界大戦が「複合」することで、その後の世界に何を生み出したかについて考えてみたい。

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