新型コロナの第2波に備える(7)コロナ規制批判が陰謀説化するとき

ヨーロッパ各地でコロナ規制に反対するデモが発生している。さる8月29日には、ドイツ、フランス、英国で、あたかも同時多発事件でもあるかのようにデモが繰り広げられた。ロックダウンが解除された5月にも頻発していたが、いまのデモには、苦しかったロックダウンが無意味だったのではという疑念と、いまも規制を行っている政府への失望が渦巻いている。

そうした抗議のなかには、政権が支配力を増大させるために、不必要な規制を悪用しているという、陰謀説と切り捨てるにはかなり微妙な説もあって、これを合理的に説明して否定するというのはかなり難しいだろう。この種の陰謀説は、反論すればするほど、その陰謀を信じてしまう人が出てくるからだ。

しかし、この秋冬の第2波あるいは第3波の来襲が目前に迫っていることから、このデモに見られる規制反対運動自体が、コロナウイルスの感染を拡大してしまう危険性をはらんでいる。当局としてはロックダウンの「コロナ封じ込め」という目標と、あまり達成できていない成果との矛盾を、どう説明するのか窮地に立たされている。

そのいっぽうで、アメリカでは「トランプ大統領は悪魔信仰の秘密結社と闘っている」と主張する陰謀論を支持する勢力が、コロナ禍が悪化するなかで拡大している。「Qアノン」と総称される陰謀論者たちは、この悪魔信仰の結社は児童性愛者の団体だと主張し、明らかに荒唐無稽な説であるにもかかわらず、支持する政治家を国政に押し上げるほどの勢力をもつにいたった。このなかには、コロナ規制やワクチンに対する激しい憎悪を示し、新型コロナウイルスそのものを虚偽だとするグループもあるといわれる。

社会の混乱期や大きな災害時には、まったく非合理的としか思えない流言蜚語が広まることは、歴史的にも多く記録されてきたし、また、心理学や社会学が研究の対象にしてきた。平常時には、とてもまともとは思えないような説が急激に流布し、場合によっては殺害を含めた暴力沙汰に発展することもある。さらには、巨大な政治勢力に成長して国家の安定を揺るがすことすら起こる。

たとえば、敗戦直後の日本では、つぎつぎと教義が奇妙な新興宗教が雨後のタケノコのように発生した。あまりに多くの教祖が生まれたので、アメリカの社会学者はこの現象を「神々のラッシュアワー」と呼んだほどだった。こうした現象は、敗戦によって焦土と化した日本において、やり場のない怒りや絶望を背景として生じたものだった(写真:Qアノンの運動家 jiji.comより)。

また、アメリカの1920年代には、経済を陰で仕切っている秘密の結社が存在し、この秘密結社が繁栄しているアメリカ経済の利益のほとんどを、独占しているという「プロフィティア伝説」が生まれた。空前の豊かさのなかで、取り残された人々の焦燥と嫉妬が、こうした陰謀説を醸成していったのである。

今回のコロナ陰謀説も、厳しい規制のなかで生活が崩壊する人が増えるいっぽう、政府の金融緩和でバブルとなった株価で大儲けした人間たちがいることも、コロナ陰謀説を生み出す土壌となっている。次は、英経済誌『ジ・エコノミスト』9月6日号に掲載された「反ロックダウン抗議運動が陰謀論者にハイジャックされている」の分析である。

「パンデミックは陰謀説を育ててきた。そうした陰謀説は2つの互いに重なる部分をもったカテゴリーに分類される。ひとつは『スキャムデミック』で、新型コロナウイルスは存在しないとか、存在していてもインフルエンザよりずっと軽い症状しかないというもの。もうひとつが『プランデミック』で、新型コロナは危険だが、それは邪悪な存在あるいは政府が、意図的に流行らしたというものと主張する」

陰謀説の特徴は、すべてが荒唐無稽な説に埋め尽くされているのではなく、部分的には正しいことが混じっている点である。これが陰謀説とそうでないものとの区別を困難にしている。しかもそうした陰謀説は、お互いに矛盾するような複数の話を、自分の主張を本当らしくみせるために、ちゃっかりと同居させていることが多い(写真:ドイツでのデモ cnn.co.jpより)。日本の場合は、いまのところ反コロナ規制デモが起こったり、陰謀説を掲げた政治運動が展開されているということはない。しかし、雑誌やインターネット、さらには最近刊行されはじめた本に、こうした特色を濃厚にもっているものが増えている。

こうした出版物では、日本ではコロナによる死亡者が比較的少ないこともあって、日本やその国民がどれほど特別で特殊なのかということを、やたらと強調する傾向がある。しかし、実は「日本人にはすでに免疫がある」ので「日本には第2波は来ない」という説も、「集団免疫が長期にわたって継続する」という理論も、さらには「日本人は民度が高い」のが本当かも、しっかりと疫学的、医学的、社会学的に証明されたわけではないのだ。

あっさりいえば、そこには「スキャムデミック」も「プランデミック」も満載といえる。それが誠実なあまり、説得力を強めようとしてそうなるのか、それとも最初からなりふりかまわず、読者を引き寄せようとするからなのか、それは分からない。しかし、そんな不確定な話にやすやすと日本中が乗ってしまえば、特別で特殊な死亡率も、あっという間にアメリカ、ブラジル、ヨーロッパ並みになってしまうかもしれない。

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