コロナ恐慌からの脱出(15)米国ではバブルの「第2波」が生じている

6月5日に米労働統計局から発表された失業率が、予想に反して13.3%にまで下がったので、アメリカの株価は「ロケット発進のように」(トランプ大統領)急上昇した。しかし、この数字は予想の19%に比べれば朗報で、前回の14.7%からは下がったとはいえ、まだまだ雇用不況は続いてサプライチェーンは寸断されたままだ。株価と実体経済の亀裂はますます拡大している。

これはアメリカだけの問題ではない。足元の日本を見ても、コロナの死亡者が少ないおかげでアメリカほど極端ではないが、やはり「株価上昇、実体経済低迷」の現象が続いている。これは明らかにコロナ恐慌からの脱出策が生み出しているなかでの「バブル」なのだ。いうまでもなく、バブルはインフレを伴わなくても生じる。いや、それどころかインフレが伴わないいまの経済だから生じる、歪んだバブルなのである。

今回の「ロケット発進のような」株価急伸の立役者は、まちがいなくGAFAとかFAMAAとか呼ばれるIT系あるいはICT系企業である。新型コロナウイルスの蔓延は、こうしたインターネットを通じてビジネスを行う企業への期待を高めたことは確かで、その意味では投資がこの分野に向かうのは当然である。

しかし、問題は、コロナ蔓延によって危機に陥っているレジャー産業や航空業などから資金が剥がされて、こうしたGAFAやFAMAAに資金が集中していることである。つまり、財政出動を繰り返し、金融市場から国債をはじめとする債券や証券を買い上げる、コロナ対策としての財政・金融政策によって、本来、いま資金を必要とされる分野から、すでにバブルの気配を見せていた分野に殺到しているということなのだ。

しかも、こうした政策によって生まれた資金は、さらなるアメリカ社会のゆがみを加速させている。シンクタンクIPS(政策研究所)によれば、コロナ対策としてのロックダウンが始まった3月18日から11週間で、アメリカの億万長者の資産総計が5650億ドル強(約60兆円)拡大した。そのいっぽうで、同期間に約4240万人が失業保険を申請している。経済だけではない、アメリカ社会そのものも激しく分断されている。

おそらく、こうした富裕層の資金運用アドバイザーは、これから株価が急落に向かう兆しがあれば(実体経済が低迷しているのだから必至だと思うが)、株式資産の空売りを行うように助言することだろう。その結果として、富裕層の資産はさらに膨らむだけでなく、株価下落を加速させ、資金不足にあえぐ企業の株価を連れ落ちさせることになる。

いまのような状況のなかでは、すべての人たち、すべての階層、すべての企業が苦しんでいると思うのは間違いである。ゼロ金利、資金潤沢という驚くべきチャンスのなかで、アドバンテージをもっている人間、階層、企業は嬉々として勝負に出ている。

いや、余裕のない企業でも、たとえば航空業や建築業界などでも、金利ゼロを利用して自社株買いが横行していることはよく知られている。こうした動きは企業にとって防衛的で合理的だが、将来の経済にとっては技術革新力を損なわせるので、必ずしも褒められたことではない。日本でも大企業の「内部留保がいま生きてきた」という説があるが、無意味な企業減税が変なところで、技術革新力のなくなった企業をサポートすることになっている。

アメリカ経済に戻ろう。アメリカは間違いなくバブル経済の「第2波」である。これまでは「トランポノミクス」が生み出した「第1波」だった。そしていまは、トランポノミクスと新型コロナウイルス対策が招いた膨大な金余りによる、きわめて脆弱な資金の巨大風船が、危険な分裂と熱狂を生み出している。金融市場はすでにバブル状態の企業にさらなる投資を促し、資金不足になった企業から資金を剥がし、そして貧困層から富裕層への所得移転が進行している。

おそらく、ポスト・コロナ経済にあっても、金利を低く抑えて、財政出動と債券買取の政策は続くことになる。これを経済のMMT化だといって喜ぶ向きもあるが、何のことはない、それは単なる発火点の低いバブル経済であり、バブル形成とその崩壊を激しく繰り返す、「ミンスキー・モーメント」が連鎖するバルーン経済なのである。

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