新型コロナの第3波に備える(9)目で見るスウェーデンの現状

いまだにスウェーデンのコロナ対策がうまくいったと思い込んでいる人がいる。また、若者たちが活動すれば、集団免疫(感染した人たちが免疫をもち壁のようになってさらなる感染拡大を阻止するということ)が形成されるから、自粛なんか意味がなく、その実例がスウェーデンにあると信じている論者もいる。もう何度も繰り返したことなので、いまさら再説するのははばかられるのだが、スウェーデンのコロナ対策は失敗であり、集団免疫を目指す戦略がかろうじて有効なのは、コロナワクチンがかなりの割合に接種される見通しが立ってからのことである(この投稿には最新の追補があります。文末の追補4および追補5をどうぞ)。

今回はきわめて単純で見てわかる方法で、スウェーデンの現状とその説明をしたいと思う。まず、十分に若者たちが感染したから、スウェーデンのかなりの割合の人が抗体を持っていて、そのおかげで感染率が低く抑えられているというのは、まったくの幻想だということである。ごらんになって分かるように、7日平均(その日までの7日間の平均)で見ると、すでに第2波が襲来してから、毎日の感染は第1波のピークの5倍にまで達している(Our World in Dataより 以下同様)。

そうなっても、スウェーデンの死亡者は少ないはずだと思い込んでいる人もいるが、同じくこの話も幻想に近い。もちろん、第1波のさいに介護施設に群発的におこったクラスターの発生や、移民集落においての対策不足は改善が図られただろうが、感染数が増加すれば必然的に高齢者や健康弱者への感染経路が増える。それをこれまで必死に遮断してきたことは確かでも、完璧ということは不可能なのである。

すでにスウェーデンは第2波の襲来が分かったのちに、それまでの非ロックダウン、緩慢な感染、ソーシャルディスタンスの奨励、50人以上の集会の禁止などの規制を、たとえば50人を8人にするなどして強化していったが、それが必ずしも期待どおりの効果をあげていないことは、グラフをみれば歴然としている。スウェーデン当局は12月の中旬がピークだと予測しており、これから急進しないことを願うが、しかし、グラフの角度などを見ると、かならずしも楽観はゆるされないだろう。

規制強化の権限を地方公共団体に委譲したこともあって、「ローカル・ロックダウン」と呼ぶ人もいるが、そういう呼び方は(本来のスウェーデンの政策が失敗したと)誤解を生むというので「より強いガイドライン」と呼ぶべきだという論者もいる。しかし、失敗と呼ぶかどうかはともかく、かなり規制を強化し、同時に自粛を強く促しているのが現状なのである。国家免疫学者のテグネルは「集団免疫がいま効いているという証拠はない」と述べたし、首相ロベーンは「ルールを守らないでよい口実を見つけるな」と強く求め、「ジムに行くな。図書館にも行くな。パーティーもダメだ。これらは延期しろ」と国民に警告した。

さて、わたくしが何度もスウェーデンの話をするのは、すでに述べたようにスウェーデンが何らかの規制や自粛がいらないコロナ対策の成功例と、いまだに信じている人が多いからだ。さすがに新聞やテレビでは「対策の路線が異なるスウェーデンも規制強化」などと報道するようになったが、それはどちらかといえばスウェーデン・ファンの言い方である。スウェーデン方式は失敗したと断じなくとも、少なくとも集団免疫が感染を防いでいるとか、国民みんなが屋外で生活を楽しんでいる、という記述は間違いだと言わなくてはならない。

ましてや、日本が理想として手本にするようなコロナ対策でなかったことは、日本とスウェーデンのデータを比較して見れば明らかなのだ。まず、感染者数だが、ここに掲げたグラフは先ほどのスウェーデンの7日平均のグラフ(青)であり、日本(赤)はずっと低い数値を維持している。一時は日本が上回ったなどと思うのは、人口を加味して比較していないからだ。スウェーデンは人口約1000万人、日本は約1億2300万人だから、スウェーデンの数値は12.3倍してみて初めて比較したことになる。グラフにすればはるかに上の方に飛び出ることになるだろう。

また、死者数のほうも同様で、ここにあるグラフをそのまま見て、最近はあんまり違わないなどと思っていただきたくない。スウェーデン(赤)の数値は同じように12.3倍して、初めて日本(青)と比較したことになる。こうした比較のための手続きを、日本の新聞ですら行わないで報道することがあるので(右も左も)、気をつけなくてはならない。スウェーデンは夏から秋にかけては、数値が下がったので、スウェーデン称賛が復活したときもあったが、現実をみればやはり成功しているとはとてもいえないだろう。

たしかに、スウェーデンの死者数をアメリカやイギリス、あるいはフランスやイタリアと比べればかなりましだといえる。しかし、条件の比較的似ている北欧諸国と比べれば、ロックダウンをして危機を乗り切った他の北欧諸国のほうが、数値上はずっと有効な対策をとったとしか言いようがない。少し大雑把な数字だが、10万人あたりの死者数は、デンマークが14人、フィンランドが7人、ノルウェーが6人、そしてスウェーデンは65人ということになる(12月1日現在で累計が6681人。日本と比較するさいには12.3倍して8万2176人とイメージすべきである)。

こういうと、必ずスウェーデン・ファンは北欧諸国と比べても意味がないと言い出す。アメリカが凄い、イギリスが悲惨だというのだ。テグネルも同じことをスウェーデン国内メディアのインタビューで語ったことがある。最近は「ほかの北欧諸国は埒外だ。西欧諸国と比べろ」といっているという。しかし、福祉大国とか医療大国とか言われたスウェーデンと、コロナ対策落第生のアメリカやイギリスと比べるほうがおかしい。フランスやイタリアの場合にも、あまりに社会構造や生活習慣が違いすぎて、比較の対象になるかどうか疑問だろう。イタリアの場合には感染が昨年11月ころから始まっていたという説があって、それが本当ならば別の視点が必要だが、この説についてもまだ感染学者たちの共通認識にはなっていないようだ。

では、なぜスウェーデンがいまのような状況になってしまったのか。これは多くの要素があると思われるが、ひとつは新型コロナウイルスの性質がまだよくわかっていなかった時点で、若者たちに感染させて高齢者との感染経路を断つという、危うい路線にのめり込んだことが挙げられる。そのことによって、国民の多くが(とくに若者が)、政府はコロナは恐れるに足らずと保証してくれたように思い込み、いまや状況が急激に変化しても、もはや生活態度を変えようとしなくなった。

また、国家免疫学者テグネルは「我が国は公式には一度も集団免疫を目指すといっていない」と述べたが、インタビューなどを追跡すると「第2波が来たとき、われわれは集団免疫においてずっと有利になっている」と述べているので、やはり、集団免疫が形成されるという期待が、スウェーデンのコロナ対策を支えていたことは否定できない。若者に緩慢に感染させることで集団免疫が形成されるという説は、すでに間違った認識だったことが明らかになっており、テグネルなども「感染させて集団免疫をつくるというやり方は、倫理的に許されない」とすら述べるようになったが、時すでに遅しである。

手遅れになったことで典型的なのが、いまだにスウェーデン当局はマスクの推奨をしていないことだ。テグネルによれば「マスクは効果を証明した研究がないだけでなく、これまでやってきたソーシャルディスタンスの意義を損なわせる」という。しかし、厳密なマスクの研究がないとしても、飛沫の動きをコンピューター分析した例や、ハムスターでの実験などが存在し、感染の防御としては効果が低くても、感染者が相手にうつさない効果はあるとされるようになった。

感染が広がった最初のころは、専門家がウイルスのサイズから推測して効果を否定していたが、いまでは世界的に「利他的」な使用、あるいは「ユニバーサルマスク」は推奨されている。日本でも最初否定した専門家たちも何食わぬ顔をしてマスクを推奨している。スウェーデンのコロナ対策をプラグマティズムと評したメディアがあったが、マスクに関しては奇妙な権威主義だけが横行しているように思われる。

日本においては、こうした例を見ていれば、プロの感染学者が「若者に感染させて高齢者を隔離すればいい」とか「死ななければ感染しても怖くない」などというバカな助言は行わないだろう。問題は自称プロの人たちの言うことを鵜呑みにし、はては自分が感染学者なみの知識を持っているとのぼせ上がって、マスコミを通じ、あるいは著作で誤った議論をばらまく人間がいることだ。しかも、そうした「面白い」だけでなく「思想がありそうにみえる」お話の「感染力」(もちろん比喩です)は強いので、政策決定にも少なからぬ悪影響を与える危険がある。まず、自分の目で事実とデータを見ていただきたいと思う。

あえてここで戦略論の言葉を用いて表現すれば、コロナ対策というのはワンアイディアの決戦主義は役に立たない。どうしても持久戦にならざるをえない。持久戦の特徴は「累積的である」ということである。小さなバトルで確実に勝利を得るような、毎日の積み重ねが大きくなって、たとえ決戦が行われるとしても、そうした累積的な営為の延長線上に位置付けられる。

コロナワクチンの接種も始まろうとしている。もちろん、日本は欧米の製薬会社と契約しているとはいえ、2番手、3番手の位置づけではある。しかし、これも考えようによっては日本にとって有難いことで、アメリカなどがまず自国民において接種を始めるので、その結果を同時進行で見ながら、自国の対応を考えるための時間がわずかながらあるということだ。これも累積的な結果が、私たちに多くの教訓を与えてくれる。その先にのみ、コロナからの脱出がある。

追補 12月8日付のウォールストリートジャーナルによれば、状況の悪化によりロベーン首相が介入して、国家疫学者テグネルを降格したという(これはガセネタだった。スウェーデン公衆衛生局は憲法で独立性が保証されているらしい。その上司に圧力が来ているとの報道もあり:追記)。ただ、権限の剥奪がどれほどか、また、国民の反応はどうなのか、最新のデータは分からない。とりあえず、新しいグラフを添えておくと、コロナ感染者は11月10現在で30万人を突破し、死者は7296人に達している。

同月8日には1日の感染者が1万8800人を超えて衝撃を与えた(上図)。もちろん、日本の感覚に合わせるには、12.3倍する必要がある。これまでは、死者が多いといわれてもアメリカと比べればそれほどでもないとか、1日の感染数も数千人の単位だとからイタリアと比べればおどろくほどではないなどといえないこともなかったが、もはやこうした言い方じたい意味がなくなってしまった。もう少し詳しいことが分かりしだい、お伝えしたい。

追補2 ついに12月18日にロベーン首相が国民に向かって「公共的交通機関を利用するさいにはマスクを推奨する」と述べたようだ。環境運動家のグレタ・トゥンベリ氏もインスタで若者たちのマスク使用を呼び掛けている。繰り返すが、マスクには100%の効果などはないが、感染者が他人に感染させない効果はかなりあり、また、防御効果もある程度ながらある。ただ、スウェーデンの場合、専門家たちがマスクに対する懐疑や侮蔑の念を表明してきただけに、これからマスクを定着させていくには、多くの困難が予想される。

追補3 1月13日に死者が1万人を超えた。日本に置き換えれば約12万3000人ということになる。同日には7日間平均も120人に達している。これも日本の感覚でいえば1476人である。人口密度などを考えれば、スウェーデンのほうがずっと3密回避には有利だと思われるのだが、やはり最初の方針が「症状が軽いかほとんどない若い人たちに感染させて、死亡率の高い高齢者との感染経路を断つ」という、実は「集団免疫」が達成されることを前提とした戦略が、完全に裏目にでたというしかない。いまも、長期的に見ればまだ分からないと書いているスウェーデン・ファンは、どうかしていると思う。

もっとも「日本人にはすでに免疫がある」とか「若者が感染して集団免疫を形成してくれる」とかの怪しげな説に悪影響を受け、願望を先行させて現状認識をあやまってしまい、せっかくの低感染率および低死亡者数というアドバンテージを失いつつある日本も、スウェーデンをみてほっとしていられない状況だ。欧米では日本とスウェーデンを並べて「アドバンテージを失いつつある国」として論じている論者たちもいる。数値からすればケタが違うと反論したいが、しかし、もうそんなことは言っていられない状況だろう。

追補4 国王が「我が国のコロナ対策は失敗」と述べたあたりから、ようやく日本のマスコミもスウェーデンのコロナ対策について、まともな報道をするようになってきた。それでも、ざっと言ってスウェーデン担当の記者というのは、たいがいがスウェーデン・ファンである。どこか、スウェーデンの政策に対して擁護的になる傾向は否定できない。

もちろん、悪意に満ちた報道というのもないわけではないから、なるだけ公平に報じるという姿勢は大切だが、やはり何を報じるかという判断の基準は、いまの日本のコロナ対策に参考になるか、もっと言えば教訓になるかということだと思う。

しかし、たとえば現場からの声を伝えると称して報道したある新聞では、その現場の人が12月下旬の記事なのに「9月末まででみると」などと言い出し、「70歳以上の死亡者はほぼ平均並み」と解説し、「国全体では死亡者数は平年より増えていない」と述べている。これは「超過死亡」という統計上の数値によるもので、そのまま読めばコロナによる死亡がなかったかのように誤解されてしまう。

さらに、人口当たりの死者数は「診断確定後、30日以内に死亡した人をすべてカウントするので」「多めに集計されている傾向がある」と指摘し、呆れたことに「コロナが直接の死亡原因であったのは15%」だった例を取り上げている。これは例外中の例外であって、少なくとも集計誤差が何%くらいなのか言わなければ、全体がこの程度の割合だと受け止められてしまうだろう。ひょっとするとこの「現場」とインタビューした記者は、むしろ誤解させることを意図しているのではないのかと思わせるような記事である。

グラフを見てもらえば分かるが、いったん収束したように見えた昨年の「9月末まで」のデータで論じれは、大したことがないように言えるわけである。しかも、たとえばクラスターが群発的に生じた移民集落での死亡数については大問題だったのに何も触れていない。そして何より、肝心の秋になって死者数が急増した結果の膨大な死亡者数に触れていない。統計の数値がまだ確定していなくとも、概要くらいは言えるはずだろう。スウェーデンでは大勢死者が出たと言われているが、それを一定期間で均してみれば、高齢で死んでもおかしくない人たちが死んだのだと言いたいらしい。しかし「超過死亡」は死亡原因が曖昧な場合に死者数を統計的に割り出す方法ではあっても、政府の失策を隠すための印象操作の道具ではないはずである。

また、こうした類の報道では、スウェーデン・ファンは当局が目指したのは「集団免疫の獲得」ではないとお題目のように言うが、それは政府の表向きの政治的言辞であって、国家疫学者テグネルが何度も「第2波になったとき他の北欧諸国よりずっと免疫は多くなっているはず」と述べていたことと矛盾する。しかも、すでに「やはりスウェーデンは集団免疫を目標にしていた;テグネルのメールが暴露する悲惨な失敗」で指摘したように、テグネルは感染が拡大したころから、集団免疫の形成を前提としていたことが明らかなのである。

この「集団免疫」の話でいえば、日本でコロナ感染が始まったころ、大胆にも「若い人たちに対する自粛や規制をなくせば集団免疫の獲得につながり結果的に早く収束できる」と発言していた元厚労省官僚がいた。これはまさにスウェーデン方式で、まったく間違っていたわけである。この元官僚は、高齢者の同意を前提としないトリアージ(いわゆる「命の選択」)の提言もしていたが、これもまたスウェーデンがモデルだった。この方式のトリアージは、さすがに世界的な批判が高まって、いまは中止しているといわれる。

その同じ人物が、遅れがちな現在の日本のコロナ対策について、「国や医師会に憤りを感じる」などと言って注目されている。この人がいうには、いまの欧米に比べてコロナ感染者数や死者数が少ないのは「国民ひとりひとりが本当に頑張って感染防止に努めてきたおかげ」であり、もう「居酒屋崩壊」といってよい状態である。それなのに国と医師会はがんばっていないというわけだ。

ちょっと待ってくれよ、と言いたい。この人のいうとおり、若い人たちに感染させて集団免疫を目指していたら、それこそ欧米なみ、あるいはスウェーデンなみになっていたのではないか。トリアージの提言も、さまざまな検討を欠いたものだったといえる。いまの状況に憤りを感じるのは結構だが、しばらく発言をひかえるか、あるいは自分の決定的な誤りを認めて、謝罪してからにしてはどうだろうか。

どうも、ちょっと追補するつもりが、あまりの無責任で作為的な発言を改めて読んでいるうちに、けっこう長くなってしまった。さて、そもそもの目的は、最近のスウェーデンのコロナがらみの状況を付け加えることだった。話を本筋に戻そう。

うまくいかなくなった政府が行き着くところは、スウェーデンのような高福祉の医療大国といわれたところでも同じだ。その象徴が、市民緊急事態庁のダン・エリアソン長官が、1月6日に辞任に追い込まれたことだろう。彼はアフリカ沖にうかぶ観光地カナリ―諸島に出かけて行って、バカ騒ぎをして楽しいクリスマス休暇を送ったらしい。国民に厳しい移動規制をかけておきながら、なんという奴だということになった。これは正月には報道されていたが、あんまりくだらないので紹介しなかった。

しかし、コロナ対策に「失敗」した現在のロベーン政権も、これまではそこそこの支持が得られていたが、さすがにここにきて低下が目立つようになった。スウェーデンの大衆紙アフトンブラデッド1月13日付が発表した世論調査では、与党の社会民主党の支持率が30%から23%に下落し、23.2%を獲得した穏健党の後塵を拝した。同紙は25万部くらいだから、日本でいえば週刊誌くらいの規模だが、十分に政権交代の可能性がある数字であって、このショックは大きいとネットマガジン『ポリティコ』1月14日号は論じている(下のグラフ)。

規制が強化されて「ローカル・ロックダウン」あるいは「パーシャル・ロックダウン」と言われるスウェーデンの飲食店も、ますます苦しい状況にい追い込まれている。以前にも大衆紙エクスプレッセンなどが、マスクを強制される居酒屋のアルバイターの苦しみを報じていたものだが、こんどはそれどころではなくなった。AFP1月15日配信の「フライパンや鍋打ち鳴らして営業規制に抗議」は、時短営業を強制されていることに抗議しているというのだが、その見返りに補助金が出ているのかどうかは、残念ながら記載がない。

日本では「医療崩壊」がいよいよ始まったというので、その対策について、ようやく議論が本格化している。気になるのは、政権の周辺に怪しげな人物がアクセスしているようで、安倍政権時代にも「日本人にはすでに免疫がある」との説の主張者が、当時の加藤厚労大臣に助言したとの噂があった。いま日本で展開している医療崩壊阻止の議論の共通項は、民間病院にどこまで協力を得られるかで、おそらく法制の変更を考えなくてはならない。

実は、この話題でもスウェーデンを理想として論じる論者がいるが、はたして世界トップクラスの死亡率に達成しているこの国の制度が参考になるかは、かなり疑問である。そもそも、スウェーデンの病院はほとんどが国立である。日本が真似するとしても、今回のことでは無理だろう。現実をちゃんと調べておかないと、実は、まったく違っていて参考にならないということになりかねない。すでに昨年のことになるが、ビジネス・インサイダー誌12月16日号が「ICU病床はほぼ満杯? スウェーデンに近隣諸国は緊急支援を用意」との記事が登場して注目された。

それ以前にもニューズウィーク12月10日号が「コロナ『独自路線』のスウェーデン首都、ICU占有率99%」が掲載され、また、同月12日にはブルーグバーグがスウェーデンから医療従事者が逃げているという内容の記事を載せていた。さらにフィナンシャル・タイムズ紙12月13日付などは、北欧諸国が支援の準備をしているとも報じた。次はニューズウィークの記事から。

「スウェーデンの首都ストックホルムでは、新型コロナウイルス感染症のための集中治療室(ICU)の占有率が99%に達した。同国のアフトンブッラデッド紙によれば、12月9日には、ストックホルム地方にある計160のICU病床のうち、空いているのはわずか5~7床になった」。

もちろん、スウェーデン当局は、ICUはまだ満杯でもないし、また、近隣諸国への援助も求めていないと否定している。「スウェーデン社会庁のヨハンナ・サンドバル氏は、政府はまだ近隣諸国に支援を求めておらず、ICU病床もまだ満杯ではないと現地英字紙ザ・ローカルに語った。『そのような計画は、現時点ではありません。いま医療に必要な十分な能力がありますから』」(ビジネス・インサイダー)。しかし、感染者数が急伸し、死者も急増している状況では、医療体制が一時的にせよ動揺するほうが当然なのではないだろうか。

いまもスウェーデン医療は素晴らしいと称賛する人は、こんな報道は欧米ジャーナリズムの悪意によるスウェーデン叩きだというかもしれない。しかし、欧米ジャーナリズムは日本ジャーナリズムほどやさしくはないが何の根拠もなしに騒ぐほどバカではない。次はビジネス・インサイダーの記事から。「『私たちは支援を必要としています』と、ストックホルム地域の医療担当責任者ビョルン・エリクソンは12月上旬に語った。そして、ICU病床に83人の患者がいるとしたうえで付け加えた。『これは私たちが通常確保しているICU病床の数とほぼ同じです』」。

【12月以降に読んだ方はこちらもどうぞ】

新型コロナの第3波に備える(7)1日の感染者が春のピークの2倍を超えたスウェーデン
新型コロナの第3波に備える(9)目で見るスウェーデンの現状
やはりスウェーデンは集団免疫を目標にしていた;テグネルのメールが暴露する悲惨な失敗
いまもマスクを否定するスウェーデン;むしろ危険とする根拠の論文72%はマスク支持だった
人の移動は感染を拡大しないだって?;まったく転倒した説が流行る背景

追補5 2021年1月以降については、つぎの投稿をご覧ください

新型コロナ第4波に備える(2)集団免疫を阻止する5つの難関とは
新型コロナの第3波に備える(15)独自路線を売物にしたスウェーデンの陥穽
新型コロナの第3波に備える(13)「他山の石」スウェーデンのマスク政策
新型コロナの第3波に備える(12)マナウスの集団免疫は幻想
コロナ・パンデミックは自殺を増加させない;医学専門誌ランセットが主張している
ワクチン副反応研究の最前線からの報告;原因は「ドラゴンが目覚めた」だって?
やはりスウェーデンは集団免疫を目指していた;テグネルのメールが暴く悲惨な失敗
いまもマスクを否定するスウェーデン;むしろ危険とする根拠の論文72%は実はマスク支持だった

●こちらもご覧ください

いまもマスクを否定するスウェーデン;むしろ危険とする根拠の論文72%は実はマスク支持だった

新型コロナの第2波に備える(1)スペイン風邪の「前流行」と「後流行」
新型コロナの第2波に備える(2)誰を優先治療するかという「トリアージ」の難問
新型コロナの第2波に備える(3)ワクチンを制する者がポスト・コロナ世界を制する
新型コロナの第2波に備える(4)ロシア製ワクチンはスパイ行為の賜物?
新型コロナの第2波に備える(5)コロナワクチン陰謀説を検証する
新型コロナの第2波に備える(6)給付金は本当に効果があるのか
新型コロナの第2波に備える(7)コロナ規制批判が陰謀説化するとき

新型コロナの第3波に備える(1)英国版ファクターXを読んでみる
新型コロナの第3波に備える(2)トランプ大統領に投与された新薬とは何か
新型コロナの第3波に備える(3)トランプに投与された薬の副作用とは
新型コロナの第3波に備える(4)スウェーデン方式からのリアルな教訓
新型コロナの第3波に備える(5)ロンドンは再びロックダウンに突入!
新型コロナの第3波に備える(6)スウェーデンのロックダウン説を追う
新型コロナの第3波に備える(7)1日の感染者が春のピークの2倍を超えたスウェーデン
新型コロナの第3波に備える(8)ファイザーのワクチンを検証する
新型コロナの第3波に備える(9)目で見るスウェーデンの現状
新型コロナの第3波に備える(10)ワクチンへの幻滅が生み出す危機
新型コロナ対策でスウェーデンが失敗らしい;生命至上主義を批判しつつスウェーデン方式を推奨した人たちの奇妙さ
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コロナ恐慌からの脱出(4)パンデミックと戦争がもたらしたもの
コロナ恐慌からの脱出(5)ケインズ経済学の皮肉な運命
コロナ恐慌からの脱出(6)世界金融危機とバーナンキの苦闘
コロナ恐慌からの脱出(7)「失われた30年」の苦い教訓
コロナ恐慌からの脱出(8)ルーズベルトの「未知との遭遇」
コロナ恐慌からの脱出(9)巨大な財政支出だけでは元に戻らない
コロナ恐慌からの脱出(10)どの国が何時どこから先に回復するか
コロナ恐慌からの脱出(11)高橋是清財政への誤解と神話
コロナ恐慌からの脱出(12)グローバリゼーションは終焉するか
コロナ恐慌からの脱出(13)日米の株高は経済復活を意味していない
コロナ恐慌からの脱出(14)巨額の財政出動を断行する根拠は何か
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