新型コロナの第3波に備える(7)1日の感染者数が夏のピークの2倍に達したスウェーデン

スウェーデンのコロナ対策については、すでに何度も述べてきたが、繰り返し注意を喚起しているのは、この国のコロナ対策を語るさいには、何よりも日本にとってどこまで参考になるか、ということが中心だということである。欧米の論調の激しい評価のブレに引きずられるとか、データを真剣に読まないというのは論外で、独特のスウェーデン・ファン心理や自分の立場によるバイアスも、可能な限り排除すべきだろう。

いまのスウェーデンの状況は、「危険な局面に近づいている」と国家免疫学者のテグネルですら述べているように、危機的な状況にある。それは、何よりここに示した感染者の急増に示されているが、日本での最近の報道は相も変わらず「方針を変えず」とか、「信念に基づく」というものであり、なかには人口が12分の1以下のこの国の感染者数についても、実数を提示して「日本より多い」などと書いている奇妙な新聞があるほどなのである。

報道するにしても、何か論評するにしても、ともかく、客観的な状況をなるだけ正確におさえて、データの比較のさいには初歩的な手続きを守り、それからにしないと、ご都合主義的な評論家たちはともかく、そうしたいいかげんな論評を政治家たちがもち出すと、とんでもないことになる。その実例は、イギリスとアメリカによって示されている。そして、スウェーデンについても、次第に似たような状況になりつつあることを述べておきたい。

まず、いまの状況だが、先ほどあげておいた感染者数のグラフに加えて、同じ感染者数のグラフをもうひとつあげておきたい。さらに、英語によるスウェーデン報道で知られるザ・ローカル10月27日付から、概要を紹介したい。さすがに、素朴なスウェーデン・ファンによる炎上的な現象はなくなってきたが、社会的状況や歴史的経緯がまったく異なるのに、いまだに範例としているのは不思議でならない。

さて、すでに10月27日の段階でも、スウェーデンのコロナ感染者数は、春のピークより70%も上回った。数日後に発表された数値では、10月28日には3396人に達している。これはグラフで見ただけで明らかなように、春のピークの2倍である。ここまで来てしまったことを、テグネルは次のように述べている。

「(27日のデータについて)この数値は私たちが経験してきたもので最大だ。その原因の一部は、集中的な調査と検査によるものだが、感染が急激に拡大していることもまったく間違いがない」。そして、おそらく他のヨーロッパ諸国を念頭において、「ここスウェーデンにおいても、私たちは危険な局面に近づこうとしている」。

スウェーデンの公衆衛生局によると、14日間における10万人あたりの新しい感染者数は、平均で146人。南部のスコーネ地方では149人、ウプラサでは194人、そしてストックホルムでは197人となっている。いうまでもなく、人口密度が高いところは感染者数も急進している。

すでに、「新型コロナの第3波に備える(6)スウェーデンのロックダウン説を追う」で述べたように、スウェーデンもすでに「ローカル・ロックダウン」というべき状況に突入しつつあるといってよい。論者によっては「ロックダウン状況と呼ぶべき」というほどだ。それなのに、日本でのスウェーデン報道では、いまでもスウェーデンが信念に基づいて、以前と同じような対策で、感染を放置し集団免疫を信じて頑張っているかのような印象を与えている。

しかし、すでにテグネルはストックホルムですら抗体の持ち主は20%程度であることを認めている。それでは、いわゆる「集団免疫」で戦略を練ることはできない。20%程度でも集団免疫に達するという説もあるが、それはまだ証明されていない。感染が蔓延しているブラジルのマナウス市での調査でも、いちおうの収束には50%が必要だったという情報があるが、これはまだ科学的に証明されたものではない。

集団免疫の議論は、もともとはワクチンの普及を試みるさいに、国民の何%に接種すれば感染をとめられるかという問題意識から生まれたものだ。ところが、新型コロナがパンデミックとなるや、いつのまにか、逆に感染を放置して何%の国民に抗体を持たせれば、コロナの感染が収まるかという議論にすり替えられてしまった。実は、そもそもが、きわめて危険な思考実験だったのである。

もちろん、スウェーデンが変えようとしない点は存在する。数日前に報道されたが、それはマスクを推奨していないということである。テグネルは「マスクの使用は、せっかくのソーシャルディスタンスの意義を損なわせてしまい、マスクをかけていれば大丈夫だという間違った安心感をもたらしてしまう」などと述べている。さらに「スウェーデン人にはマスクの習慣がない」とも付け加えている。

しかし、そのいっぽうで太陽を求めてスペインの観光地に出かけていくスウェーデン人たちは、「郷に入っては郷に従え」なのか、それほどの抵抗をもたずに、現地に合わせてマスクをかけているというレポートが、スウェーデンの大衆紙などに掲載されている。もちろん、新しい習慣を無理に押し付けるのは大変な労力がいるだろう。しかし、方針の変更が自分たちの沽券にかかわると思っているのなら、とんでもない国民への裏切りとなるだろう。

しかし、すでに世界的に「感染に気がつかない人もマスクをかけることで、無自覚に周囲に感染させないですむ」という、「ユニバーサルマスク」あるいは「マスクの利他主義」は共通の認識になっている。けっして完全などではないが、確率論的に効果はあるのだ。さらに、「新型コロナの第3波に備える(4)スウェーデン式から得られリアルな教訓」で紹介しておいたように、経済誌ジ・エコノミストが指摘する「スウェーデンのプラグマティズム」を発揮すれば、得られるものは大きいはずである。

さらに、もうひとつ。これが肝心だが、日本においては、いつまでもスウェーデンなど外国に範例を探すのをやめて、いまこそじっくりと自分たちの国の現状を分析し、自国にとって有効で生活の活力もなるだけ削がない方法を見出していくべきだ。いままでの膨大なデータや経験は、けっして無料で得られたものではないのである。

【11月22日以降に読んだ方への追記】その後もスウェーデンの感染者数と死者数は急進し、感染者数は夏のピークに比べて7日平均値で4倍をゆうに超え、11月13日には6737人を記録した。死者数も1日25.29人の日もあった。同月5日から18日までの感染者は5万9060人だ。(人口を考えると日本の感覚ではこれらを12.3倍してほしい)その後、少し収まったかと思われたが、続伸の気配は濃厚である。同国政府の首相および国家免疫学者は「方針の変更はない」と強弁しているが、事実上の規制強化と準ロックダウン化は明白だ。首相は国民に「ルールを無視する口実をさがすな」と警告して、「ジムに行くな、図書館に行くな、パーティをやめろ、これらはみな延期しろ」と呼びかけたが、これまでのようにマスクをせずに人々が集まる状況は、なかなか制御できないとの報道もある。

【付記】日本の免疫学者による「集団免疫」の誤解に対する警告は、次の文章をお読みください。

宮坂昌之 大阪大学免疫学フロンティア研究センタ招へい教授

「えっ! 集団免疫では新型コロナ封じ込めが難しいって本当?」

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76887

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76887?page=2

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76887?page=3

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