新型コロナの第3波に備える(6)スウェーデンのロックダウン説を追う

インターネットで検索していたら、「スウェーデンがコロナ・ロックダウンとの報道」という見出しを目にして、さすがに驚いた。覗いてみれば米タイム誌電子版で、ただし、正式タイトルは「数カ月間におよぶ最小限のコロナ封じ込めから、スウェーデンは新しいアプローチを考えているらしい」となっていて、「ああ、あのことだな」と思った。

タイム誌の記事は同誌10月19日号に掲載された、これまでの経緯を含んだ短いもので、しかも、内容の中心部分が英紙ザ・テレグラフ10月17日付「スウェーデンはコロナ戦略を『ローカル・ロックダウン』にシフトさせようと考えている」という記事に基づいている。さらに、このザ・テレグラフはスウェーデン英文報道サイトであるザ・ローカル10月13日付を参考にしていることが明らかだ。

とはいえ、すでに「新型コロナの第3波に備える(4)スウェーデン方式からのリアルな教訓」でも触れたように、第2波は来ないとまで言われたスウェーデンにおいても感染者数が急伸している。同国は急遽なんらかの対策を打ち出さざるとをえなくなったことは間違いない。そして、それは日本のコロナ対策にも参考になることがある。ここでは、スウェーデンの「ローカル・ロックダウン」と呼ばれるものを、報道されている範囲で見ていくことにしよう。

まず、ザ・ローカルだが、9月以降の感染者の急進について、10月19日からコロナについての奨励対策の判断が、地方自治体に委譲される見通しであることを述べた後、スウェーデンの国家免疫学者アンジェス・テグネルのコメントを引用して、当局の考え方を紹介している。この国のコロナ対策でいま最も気になるのは、第1波のさいに多くの死者を出したケア・ホームの対策だろう。

「『再び高齢者のケア・ホームへの影響が始まっていることが、懸念されるところです』とテグネルは語った。さらに、ケア・ホームでの感染者の数が9月28日に始まる週と翌週のときの2倍のペースになっているともいう。ただし、いまのところ、春に比べればずっと低いレベルにとどまっているとも付け加えた」

このところ、スウェーデンでの感染者数の急進にもかかわらず、死者数はきわめて少ないのは(ゼロが続き、あっても1人か2人)、増加著しい20歳から50歳の感染者たちを、ケア・ホームには近づけないことを徹底してきたからだろう。しかし、その一方で孤立して孤独に苦しむ高齢者が多くなり、10月1日からはケア・ホームへの訪問を解禁したばかりである。そうなると、これも新しい懸念の材料で、これについてテグネルは次のように述べている。

「いまの感染者の拡大とケア・ホーム解禁との間には結びつきはありません。というのは、いまの感染拡大はもっと前から始まっていますから。しかし、いま大切なのは、ケア・ホームが注意を払うこと、また、ケア・ホームは頻繁に感染テストを行う必要があります。そうすれば、ホームのスタッフに感染者がいれば自宅待機させられますからね」

さて、10月19日からの新しい戦略というのは、どういうものだろうか。すでに触れたように、これらの適用判断の権限は地方自治体に委譲されることになっている。というのも、第1波のさいの失敗のひとつが、現場近くの地方自治体に権限がなかったことが挙げられているからだ。提示されているのは次の5つである。

①公的空間の移動を避ける

②不要不急な旅行を避ける

③高齢者や持病のある人たちへの訪問を避ける

④ショッピング・センター、ジム、プール、その他の屋内施設への訪問を避ける

⑤可能なら、家族以外の人への物理的接触を避ける

こうした基準は10月19日から自動的に適用されるのではなく、地域の感染症専門医や公的保健機関が必要と認めたときに実施されるものとなっているようだ。スウェーデンはこれまでも、意外に思う人が多いかもしれないが、かなり厳しいルールや推奨事項を国民に求めてきた。さらに、これらが適用されれば、かなりロックダウンに近くなるとみる専門家もいるわけである。とくに、70歳以上の高齢者には厳格な適用が考えられている。

さて、こうした新しい基準について、どのような評価が下されているのだろうか。もちろん、まだ長期に実施したわけではないので、具体的な効果は分からないが、ザ・テレグラフに登場するスウェーデンのウプサラで感染症局を指導しているヨハン・ノジッドによれば、「これはローカル・ロックダウンというより、ロックダウン状況だろう」と指摘している。

ノジッドは前出のテグネルと現場に役立つ処置について論じ合ったらしいが、彼の考えとしては「いまのところ、高齢者や持病をもつ人のところに行かないように、また、不要不急の旅行は差し控えて、とくに公的な交通手段は使わないようにすべきだと考えている」とのことである。こうした姿勢は、緊急事態宣言の時期の日本のような準ロックダウン状態を想定しているようにも思える。

また、スウェーデンのウメア大学で感染症学教授をつとめるヨアキム・ロックロブ博士は、「これは明々白々に新しい戦略だといえる」と断言している。「4月とか5月ころに、スウェーデンは免疫に依存できると強く主張していた人たちにとって、これは大きなショックだったと私は思いますね。彼らも免疫戦略は現実的じゃないと気がついたのでしょう」。

ここでいう「免疫戦略」とは、いうまでもなく「集団免疫」のことで、テグネルなども「目指しているのは医療崩壊の回避」だと語りながら、免疫について聞かれれば「スウェーデンはほかのスカンジナビア諸国より、免疫においては有利になっているはず」と答えてきた。ちなみに、日本ではいまも専門家でも「集団免疫だけが解決策」と述べている人がいるし、なかには「すでに日本人にはコロナへの免疫が出来上がっている」などという自称専門家すらいる。しかし、スウェーデンにおいても、こうした認識は怪しいものと言われるようになっているのである。

では、その国家免疫学者テグネルは、いま、免疫についてどう語っているのか。ザ・テレグラフによれば、テグネルは、秋になってからの急速な感染拡大は、自分たち当局の理解への挑戦となっていることを認めているという。「スウェーデンの大都市における免疫のレベルは、私たちやほかの何人かが思っていたようなレベルにはまったく達していない、というのが明白な結論だと考えています」。

「私は、こうした状態は、コロナの感染拡大がマダラ状に広がった結果だと考えています。そのため、大都市ではかなり多くの人が感染していると感じられても、まったく感染していない人たちがいる空き地のようなところが、まだ多くあるということです」

こうしたスウェーデンの状況から、私たちは何を得られるだろうか。前回の投稿も含めて、スウェーデンの状況が分かっても、そのまま日本の教訓とすることはできないが、第2波、第3波の現実からして、新型コロナは予想以上に手ごわい相手だということは明らかなのではないのだろうか。しかも、トランプ大統領の出鱈目な選挙向け演説を除けば、コロナ・ワクチンの完成はしだいに先へ先へと退いてしまっている。

しかし、幸いなのは、感染数が急伸していても、それに対する死亡者数が急激に伸びてはいないことだ。これはまさに、若い感染者から高齢者への「感染経路」の遮断が、いまのところは効いているということだろう。この感染経路の遮断という手段が有難いのは、特別の新薬とか特別の免疫とかは不要で、その国の努力で可能だということだ。こういうと、すぐに再ロックダウンは経済を殺すとか絶叫する人がいるが、そうならないために多くの工夫によって感染経路を遮断するのであって、別に春にヨーロッパで見られた、拙劣で全面的なロックダウンをやれということではない。

さて、最後にもうひとつ、スウェーデンからの教訓を考えたい。あいかわらず、スウェーデンではマスクの評価は低いようだが、しかし、この国はすでに今年の7月20日ころに、再び感染が拡大したときのシミュレーションを発表している。その予測の死者数の最高値は5800人(後に4400人程度と訂正された)、中間値が3200人程度、最低値は1000人程度だった。

私が何を言いたいかというと、こんなシミュレーションを発表してしまう感覚は、日本人には信じられないかもしれないが、それでも冷酷にシミュレーションだけはやってしまうという姿勢がこの国にあるということだ。そうして、もし、今回の「戦略変更」が本格的なものだとすれば(かなり確度が高いと思うが)、これからの対応には有効になっていくのではないかということである。相変わらず現実と直面するのを回避して、「日本人は違うはずだ」という妄想を持ち続けようとしているのに比べれば、はるかにましだろう。

【11月22日以降に読んだ方への追記】その後もスウェーデンの感染者数と死者数は急進し、感染者数は夏のピークに比べて7日平均値で4倍をゆうに超え、11月13日には6737人を記録した。死者数も1日25.29人の日もあった。同月5日から18日までの感染者は5万9060人だ。(人口を考えると日本の感覚ではこれらを12.3倍してほしい)その後、少し収まったかと思われたが、続伸の気配は濃厚である。同国政府の首相および国家免疫学者は「方針の変更はない」と強弁しているが、事実上の規制強化と準ロックダウン化は明白だ。首相は国民に「ルールを無視する口実をさがすな」と警告して、「ジムに行くな、図書館に行くな、パーティをやめろ、これらはみな延期しろ」と呼びかけたが、これまでのようにマスクをせずに人々が集まる状況は、なかなか制御できないとの報道もある。

【12月以降に読んだ方はこちらもどうぞ】

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