新型コロナの第6波に備える(4)中国が1300万人の西安をロックダウンする裏事情

中国が12月23日から陝西省西安市のロックダウンを実施して、いまさらながら同国のコロナ対策「ゼロ・コロナ」の峻烈さを印象づけている。西安市の人口は1300万人で、これは新型コロナが最初に発見された湖北省武漢市の1108万人を超える規模ということになる。しかし、いまの状況のなかでこれからも厳密な政策が継続できるのだろうか。

新型コロナの感染者が少数でも発見されると、ただちにその地域をロックダウンにするか、住民のほとんどを隔離してしまうというのは、これまでも何度も行われてきている。比較的最近では10月に甘粛省蘭州市をロックダウンした。蘭州市は400万人の住民を抱える大都市で、このときも海外メディアが驚きとともに報道している。

ニューヨーク・タイムズ紙10月26日付は、甘粛省の担当者の発言を紹介していた。「甘粛省はビッグデータを使って、個人の家から家の訪問を厳しく管理し、感染に関係しそうな住民と場所もしっかりと把握しています。郊外の住居地域においても人の流れは、厳しくコントロールされているのです」。これは中国において、大きな都市では当然とされている措置なのである。

西安市がロックダウンされる前にも、12月上旬に浙江省の紹興市、寧波市、杭州市などで感染が明らかとなり、同月17日に寧波市と紹興市の一部でロックダウンが行われた。また、北京に隣接する天津市でオミクロン株の感染が発見された後に、強い規制が課されている(フィナンシャル・タイムズ紙12月23日付)。さらに。、ベトナム国境に接している広西チワン自治区の東興市で、12月21日に定期検査で症状のある感染者が1人見つかった。20万人の住民をもつ同市は、すぐに当日から旅行者と貨物の通関を制限しはじめ、22日から全住民を対象に、不要不急の外出禁止も発令した(ブルームバーグ12月21日付)

1人の感染者でも事実上のロックダウンに移行したことに対して、たとえばワシントンポスト紙12月23日付は驚きをもって報道している。「たった1人だけの感染に対する措置として、中国当局は20万人の住民がいる南部国境の町をロックダウンしてしまった。すべての物品や人間の移入を禁止したのだ。ところが、その後、中国当局は西北部の町で感染クラスターがひとつ見つかったというので、こんどは1300万人の町の住人に家にとどまるよう命令した」。

この1300万人の町とは西安市に他ならないが、これまでは北京などで感染が確認されたときには、その地域だけのパーシャル・ロックダウンで済ませていた。それなのになぜ、今回は巨大な規模の封鎖に踏み切ったのか。ワシントンポスト紙が紹介しているのは、西安市の場合には他の感染が同時期に始まるという「二重の脅威」だという当局の説明である。まず、新型コロナは9日から21日までに142人の感染が確認された。さらに、ネズミを介して伝染する「腎症候性出血熱」が市内で流行しているというのだ。

いまの西安市の新型コロナはオミクロン株なのかという疑問が生じるが、ウォールストリート紙12月23日付によると「西安当局によれば同市の感染者はデルタ株だった」という。もちろん、オミクロン株もすでに複数の都市で旅行者から見つかっている。

また、21日に全国から報告された感染者57件のうち52件が西安市であり(前出のフィナンシャル・タイムズ紙によると全体が73人、そのうち西安市が63人を占める)、最近、あらたに見つかった北京市や東莞市のケースも西安からの旅行者だったという。つまり、旅行者が大きな脅威で、西安市は要注意都市となっていたわけである。そして、おそらくは2022年2月に予定されている冬季オリンピック対策として、いまの「ゼロ・コロナ」をなんとしても続けたいという、中央政府(習近平)の強い圧力があると思われる。

こうした中国の「ゼロ・コロナ」モデルは、日本でも一部の感染学者にとって羨望の的になっていた。ただし、現実の「ゼロ・コロナ」は、本当に新型コロナウイルスを消滅させるということではなく、ともかくモグラたたきのようなゲームを、政府が毅然とした態度で延々と続けるというものである。その壮大な国家的情熱は習近平の政治的野望を背景にしていたわけだが、はたしてこれからも可能なのだろうか。

すでにブログの「中国の『ゼロ・コロナ』は維持できない;オミクロン株がもたらした新しい条件」で述べたように、たとえオミクロン株がデルタ株より軽症であっても、あるいは軽症であるがゆえに、「ゼロ・コロナ」はどんどん「高くつく」ようになっていくのではないだろうか。つまり、ゼロ・コロナを続けることによって得られるメリットが、他の国で採用している感染をある程度伴うのを是認する「ウイズ・コロナ」が生み出すデメリットを超えてしまう局面が来るのではないか。

もちろん、このメリットとデメリットの比較衡量は、実は、なかなか困難な作業である。したがって、たとえば先進諸国の場合にはこうした比較衡量を明示的には回避し続けようとしている。では、中国の場合にはどうなのか。いまの時点では習近平のパワーがこうした比較衡量のバランスを大きく変えているから、北京政府が「封じ込めよ」と命令すればその通りにやってきた。

しかし、オミクロン株の場合には感染者は多くとも比較的軽症であるがゆえに(それはけっしてオミクロン株が脅威ではないという意味ではない)、この習近平のパワーとゼロ・コロナのメリットを合計したモーメントが、ウイズ・コロナのデメリットによるモーメントを下回る可能性が生まれるのではないだろうか。また、同じことだがウイズ・コロナの(たとえば経済的な)メリットが急激に大きく評価されることもありうる。そのとき習近平の政治的パワーが維持されていれば、これまでのゼロ・コロナで押し切るかもしれない。しかし、不動産バブル崩壊などで弱体化していれば、ゼロ・コロナの危ういバランスは、危機を迎えるのではないだろうか。

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