新型コロナの第6波に備える(3)新変異株オミクロンはすでに拡散している?

オミクロン株が登場してからの各国の対応は、これまでの教訓が効いているのか、実に素早いものだった。特に日本は岸田首相が新規入国を原則禁止にして、ほっとした国民も多かったに違いない。とはいえ、これはあくまでも応急処置であって、単なる「時間稼ぎ」だと指摘する説もある。その根拠をデータをもとに見てみたい。

まずは簡単にこれまでの経緯を、英経済紙ジ・エコノミスト11月2日号の「オミクロンは世界に拡散し始めている」を参考にして振り返ってみよう。南アフリカ政府が新しいコロナ変異株B.1.1529が発見されたと発表したのは11月25日だった。WHOはそれほどの時間をおかずに、この新変異株を「懸念すべき変異種」と宣言して「オミクロン」というギリシャ名を与えた。この頃には、英国やイスラエルは南アフリカからの渡航を禁止し、ワクチン製造業社はすでに新ワクチンの準備をしていた。

的確な措置といいたいところだが、憤懣やるかたないのは南アフリカ共和国で、こうした措置にたいしては「国を閉ざすのはその国の勝手だが、あまりにも性急すぎる」と非難した。これが単に名誉を傷つけられたためだと思うのは浅はかで、ジ・エコノミスト誌は、これまでアフリカ南部の国々が新型コロナの遺伝子配列の解析作業に、多大の貢献をしてきたことを忘れるわけにはいかないという。

同誌のデータによれば、2021年においてすでに520万ケースのコロナウイルス遺伝子配列が発表になっており、これは感染が確認された全ケースの3%に相当する。発表になった遺伝子配列の解析うち、15%をこの技術の先進国である英国が行ない、1%を感染拡大で苦しいなか南アフリカが行ってきた。したがって、今回の南アフリカからの渡航制限は、「われわれのコロナ対策への貢献を考えれば不当な仕打ちであり、遺伝子配列解析への意欲を失わせるものになりかねない」と南アフリカ政府が言うのも、無理はないと同誌は示唆している。(左図はThe Economistより:赤丸がすでにオミクロン株が発見された地域。青色がウイルス遺伝子配列の解析作業割合)。

とはいえ、この南アフリカへの「不当な仕打ち」も、一時的なものとされており、事態を詳細に見ていけば、単なる「時間稼ぎ」なってしまうかもしれないと、同誌は述べている。つまり、日本を含む先進国が入国を禁止したり制限したが、これは実はすでに手遅れだったのではないかというのである。「デルタ並みに国内への拡散が起こるとするなら、入国制限によって阻止できるオミクロンの感染は、ごくわずかにすぎないと思われる」。

具体的にはどういうことなのか。今年の11月に南アフリカから外国に飛び立った飛行機には、およそ45万人が乗っていたが、その約80%はアフリカの諸国に移動しただけで、7%の人たちがヨーロッパへ、5%が中東へと向かった。この夏に南アフリカからアムステルダムに着いたのは7000人、フランクフルトかパリに着いたのは4000人だった。しかも、この人たちの多くは、さらにヨーロッパの目的地に移動している。

ということは、今回のような厳しい規制を課す前にすでに、かなりの量のオミクロン株が密かにヨーロッパへと入ってしまっていると考えたほうがよいというわけである。「実際、11月28日のスコットランド政府の発表によれば、同国は6件のオミクロン株感染が確認され、そのうちの何人かはアフリカ南部からの旅行とは関係ないとのことである」。

なお、現在、オミクロン株など変異株について、リスクが高いとするさいの基準について、同誌が簡単に判断ポイントを紹介している。変異株が危険になるのはつぎの4つのうち、どれかひとつが観察されるときだという。1)感染力が強くなったとき、2)ワクチンによる免疫形成が弱いとき、3)テストをしても潜り抜けてしまうとき、4)症状がより激しくなっているとき。

これまでのデータでは、これらが十分なケース数で確認できたわけではなく、オミクロン株のスパイク(例の突起)のタンパク質に変異が32も見られ、その変異が「感染力の上昇と症状の激化に関係した部分のもの」だということにとどまるとのことである。

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