新型コロナの第4波に備える(4)アストラゼネカとジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを救え!

ベクター型と呼ばれるアストラゼネカ社とジョンソン&ジョンソン社のコロナワクチンは、ごくまれに血栓症を引き起こすために、メッセンジャーRNA型のファイザーやモデルナに比べて信頼度が低いとされている。しかし、血栓症を起こす原因が突き止められて、その原因を「修正」することが可能だとすれば、世界的なワクチンの偏在や、途上国のワクチン接種遅滞を解消する手段として再び注目されるだろう。

すでに、ドイツでの先駆的な研究の動向を紹介したことがある(「ワクチン副反応研究の最前線から;原因は「ドラゴンが目覚めた」から)。今回紹介するのは、5月26日に発表された論文(まだ査読が済んでいないらしい)を基にした、フィナンシャル・タイムズ5月27日付の記事「コロナワクチンによる血栓症のパズルは解かれたと科学者たちは主張する」についてである。

ご存知のように、英国のアストラゼネカ社ワクチンと米国のジョンソン&ジョンソン社ワクチンは、アデノウイルスを用いたベクター型のワクチンで、簡便で安価だが血栓症という副反応が死者をもたらした。そのため、それまで接種を続けていたヨーロッパの国々でも、高齢者に制限するか完全に中止してしまうところが出てしまった。

5月27日現在で、英国においては、アストラゼネカ製ワクチンを受けた3300万人のうち56人の死者がでており、ヨーロッパでも1600万人が接種をうけて、少なくとも142人が血栓症を発症している。56人の死者といえば多いと感じるのが当然だが、接種した人の約0.00017%であり、数字上はきわめてまれな例ということになる。

こうした数値ならば、コロナ感染で十数万人の死者を出した英国の場合、十分にリスクよりメリットが大きいと判断してもおかしくはない。しかし、たとえば日本のように死者が約1万2700人のところで、アストラゼネカ製を積極的に接種できるかというと、かなり判断は難しいことになる。事実、厚生労働省はアストラゼネカ製を認可はしたが、公的な接種ではいまのところ採用されていない。

とはいえ、もしこうした死者を生み出す副反応を、さらに低確率にできるとすれば、ふたたびOECD参加国でも使われるようになるだろうし、また、他のワクチンが高価すぎるとして接種が進まないような非富裕国の場合には、ありがたい救世主的なワクチンに返り咲く可能性もでてくるわけである。

さて、前口上が長くなったが、今回紹介する研究もやはりドイツで、フランクフルトのゲーテ大学のロルフ・マーシャレック教授を中心としたグループによる。彼らはベクター型ワクチンの接種によって生じる血栓症のメカニズムを解明したと主張している。マーシャレックたちの研究をひとことで言えば、接種によって予想できなかった異質のプロテイン(タンパク質)が生成され、それが人体に入って血栓を引き起こしてしまうということである(以下、2つの段落を飛ばしても読めます)。

フィナンシャル・タイムズの記事をなぞると、次のようになる。まず、ベクター型のワクチンは、コロナウイルスの突起部分のプロテインを作り出すDNAの遺伝子配列を、人体の細胞内の液体に送りこむのだが、それが細胞液内にとどまらずに、細胞内の細胞核に入ってしまうというアクシデントが起こる(右図はマーシャレックたちの論文にある図版)。

さらに、遺伝子配列が細胞核に入ると、突起部プロテインの遺伝子配列が分裂して、その一部が変異したプロテインをつくり始めるが、それらは重要な免疫を作り上げる細胞膜と結合することができずに、細胞内から人体内に排出されるようになる。この人体内に排出された変異プロテインが、血栓症を引き起こしてしまうわけである。

要するに、DNAの遺伝子配列が細胞液内にとどまらず、細胞核に入り込んでしまって、そのためにプロテインの変異体が生まれて、それが人体内に流れていって、血液を凝固させて血栓症を引き起こしてしまう、ということらしい。では、こうしたメカニズムの分析が正しいとして、それを防ぐことはできるのだろうか(写真:ft.comより)。

「マーシャレック教授は、もしワクチン開発者たちが遺伝子配列を修正できれば、正面からの解決の道があると信じている。そうすれば、突起部のプロテインがばらばらになってしまうのを防ぐように、コード化ができるというわけである」

マーシャレックによれば、すでにジョンソン&ジョンソンとは接触していて、たとえばアストラゼネカ製と比べて、ジョンソン&ジョンソン製の接種でのほうが、プロテインの分裂が少なくなっていると述べている。アメリカにおけるジョンソン&ジョンソンの接種では、740万人に接種して副反応は8件だという。ジョンソン&ジョンソン社も「わが社はこのリサーチと分析を継続するのを支援している」とコメントしている。

とはいえ、何人かの科学者は、マーシャレックの理論は、「いま多くある仮説のひとつでしかない」と指摘する。「私たちは彼の主張を確認するためには、さらなるエビデンスが必要だと思っています」。ある研究者によれば、マーシャレックの仮説には、「まだまだ因果関係の鎖が欠落している」という。

ここで紹介したことについて、私は「これが正しい」とか「これで解決だ」とか言う気はない。その資格にかけているからだ。しかも、報道を読む限りでは、研究者たちが議論を煮詰めたとは、まだいいがたい。事実、以前にドイツでの別の研究を紹介したが、この場合には中心となる研究者がベクター型ワクチンで生まれる、ある種の物質が問題になっていた。つまり、まだアプローチの違いが大きく、絞り込まれていよいよ決定的なエビデンスを待つという段階ではないと思われる。

しかし、こうしたいくつもの研究が、単にアストラゼネカ製やジョンソン&ジョンソン製のワクチンを救うだけでなく、これからも対決する変異株に向けての手段を多くし、悲惨をなるだけ少なくする方法を手にする可能性をもっている。このくらいのスタンスで臨めば、ベクター型のワクチンもけっして無駄になることはないだろう。

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