新型コロナの第3波に備える(17)英国のワクチン接種は成功したか

世界で最初に新型コロナ・ワクチンの接種を始めた英国での「成果」が、日本でも報道されている。配信されたのは共同通信の短いもので、「効果を実証する調査結果が相次いでいる。抗体が多くの人に確認されたほか感染そのものや感染後の重症化リスクが下がったことも判明」と述べ、変異株(変異種)への効果などはまだ分かっていないとしている。

「英国では昨年12月以降、日本でも接種が進む米ファイザー製や英アストラゼネカ製が使われ、人口の約3割の2千万人が接種を終えた。両ワクチンはともに1人2回の接種が原則。英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンによると、調査でウイルスと闘う抗体が約91%の人に確認された」

もちろん、ここにはこれからの日本でのワクチン接種にとって、きわめて貴重な情報が含まれているが、意外なことに日本でのマスコミの扱いは小さい。もちろん、英国ではもう少し前からさまざまな報道合戦が展開していて、ここで紹介するのは英経済誌ジ・エコノミストが2月22日号に掲載した「英国でのコロナ・ワクチン接種によるデータはきわめて効果的であることを示している」という記事につけられたグラフである。

このグラフでは0~64歳、65~84歳、85歳以上の3つの年齢層別にその効果が分かるようにしてある。このグラフはイングランドのもので、スコットランドについては後ほど少しだけ読んでいただくことになる(周知のように英国は正式名称がグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国で、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの「国」からなる連合国)。

それぞれの年齢層の曲線が重なっていて分かりにくいが、左図が新たな感染者のグラフでピークを100としたとき20にまで下落した。つまり、ワクチンで80%の下落が見られるというわけである。真ん中の図が入院数のグラフで約60%の減少が見られる。右図が新たな死者数でこれもピークから60%以上の減少があった。ここには現実の社会のなかで、どれほどの効果が表れたかが示されており、有効性だけの数値とは異なる、実感的なものとして受け止められる情報がある。

「1月22日に7日間平均で1164人という死者を出したが、それから死者は64%減少した。その減少は高齢者において大きかった。85歳以上の年齢層において66%下落、64~80歳において62%下落、それ以外の層では60%の下落が見られた。……イングランドでは80歳以上の層は感染者の6%にすぎないが、死者の割合は全体の60%を占めているのである」

以上がイングランドだが、スコットランドでも追跡調査がなされていて、2月22日に発表されている。それによれば、ファイザー=ビオンテックのワクチンは最初の接種から4週間で新しい入院者数を85%減らした。また、アストラゼネカ=オクスフォードのワクチンも新しい入院者数を94%減らしたという。

ジ・エコノミスト誌は2月3日号で「イスラエルのワクチン計画は世界に希望を与える」という記事を掲載し、同じようにグラフをつけて解説していたので、ここで参考のためにこのグラフもみることにしよう。イスラエルは安全保障の問題だけでなく選挙を控えていて、ナタニヤフ首相はファイザーの経営者と直接交渉したといわれる。

左図が感染者数で、40~59歳の層(空色)と60歳以上の層(青色)の2つに分けてグラフを描いている。それぞれのグラフにおいて接種が50%を超えた時点に印がしてある。この図で分かるように40~59歳の層では1回の接種のみで、60歳以上の層では接種が50%に達してからしばらくして2回目の接種を行っている。真ん中の図が入院者数で顕著な効果が見られるのは60歳以上の層。右図が重症化した感染者のグラフで、ここでもワクチンが効果をあげているのは、60歳以上の層であることが見て取れる。

「とくに効果で顕著なのは新たな入院者数の減少である。重症化した60歳以上の感染者は1月19日をピークとして26%の減少をみせている。そのいっぽう、40~59歳の年齢層では重症化の減少は13%にとどまっている」

イスラエルについては、2月24日ころに多くの報道機関が、研究機関や当局の発表を報じている。たとえば、ロイターは「イスラエルの研究チームは、日常診療の環境で集めたデータで、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したコロナ・ワクチンに94%の予防効果が示されたとの研究結果を発表した」と述べている。

日本はまだこうした「成果」を発表する段階には来ていないが、おそらくは同じような傾向が示されることが予想される。それがどのように日本のコロナ対策全体のなかで位置づけられるのか、ぜひとも知りたいものだと思う。その点、政治家が果たす役割は大きい。ジ・エコノミストは「失敗ばかりのジョンソン首相だったが、ワクチンの売り込みには成功したようだ」とちょっとだけ皮肉っている。

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