新型コロナの第3波に備える(14)世界全体で見た日本のワクチン事情

すでにコロナワクチンの接種は進んでいる。ニュースでは日本もファイザーのワクチンが2月14日に承認され、17日から医療従事者への接種が始まるという。それでも、3つほど知っておきたいことがある。世界規模で見たとき日本へのワクチン供給はどうなるか。日本人のなかにあるワクチン嫌悪は接種にどう影響するのか。そして、変異種(変異株)が蔓延した場合にはどうなるかである。

今回はワクチン供給が世界全体でみたときどのような状態にあるのかを、ざっと見ておきたい。ちょうど、英経済誌ジ・エコノミスト2月13日号が「ワクチンは全員に供給するのに十分である――ただし、富裕国がシェアすればだが」という記事を掲載しているので簡単に紹介しておきたい。この記事には分かりやすい図版がついているので、それを見るだけでも全体の構図はだいたい分かる。

まず、この2か月間の間に、少なくとも1億4800万回の接種が行われた。これはコロナ検査で陽性とされた人の数より多いという。いまのところ、毎週、3900万回の接種が行われている。

図版解説:2021年2月10日現在で、それぞれの国が成人人口の何回分のワクチンを契約しているかを、色分けしている。青が濃ければそれだけ多く、赤が濃ければそれだけ少ない。日本はそれなりに契約しているが、接種が始まるのは比較的遅かった。

世界中でいまも378種類のコロナワクチンが開発中でさまざまな段階に達している。そのなかで、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3つが接種基準を満たしており、また、ノヴァヴァックスとジョンソン&ジョンソンのワクチンがじきに接種できるようになる見通しである。さらに、中国の2種とロシアのワクチンが自国だけでなく、いくつかの国で認可のはこびとなっている。

これら8つのワクチン製造元は、すでに今年中に79億回分を供給できると述べているが、さらに43億回分の注文に応じることができるという。これらのワクチンは、製造している工場の遅れや輸送の問題を抱えてはいるが、少なくとも理論的には2021年末までに世界の成人人口58億人に2.1回の接種ができることになる。

図版解説:どの国(どの機関)が、どの製薬メーカーにワクチンを発注しているかを示す。日本はアストラゼネカ、ファイザー、ノヴァヴァックス、モデルナの各社に発注し、今のところ5億数千万回分を確保している。

しかし、ここには大きな問題が横たわっている。54の富裕国は世界の成人人口の18%なのに、全体のワクチン契約の40%を占めているのだ。もちろん、富裕国のなかでもいろいろで、ドイツのように自国製で賄うところもあれば、カナダのように1人につき11回の接種分を契約してしまったところもある。

他の非富裕国の多くは、コロナワクチン分配の世界組織COVAXに頼ることになるが、それは今年中に92の非富裕国に18億回分を提供するにとどまる。さらに、提供するさいの基準については問題が控えている。たとえば、その国の成人人口割合(子供人口割合)で、成人の比率が高いところは損をする可能性がある。例をあげると、ニジェールは50%が15歳以下であり、北朝鮮などは80%が成人なのだ。当然、成人の割合が多いところは一律の基準で提供された場合には損をすることになるわけだ。

図版解説:いまのところ成人に何回分のワクチン接種を確保しているかを示している。2回を超えればいちおう全員に確保、それを下回れば確保できてないということになる。カナダと英国はあまりに多くの回数を確保していて、国際的に批判されている。

以上がジ・エコノミストの記事の概要だが、コロナワクチンの契約はワクチンがまったく完成していない段階でなされている。しかも、まだコロナ禍の脅威は続いている。多少の不都合や障害はあるにしても、1人に11回分のワクチンなど不要である。シェアの仕組みを整え、輸送の方法を工夫することで解決していくべきだが、世界が冷静になるにはもう少し時間が必要かもしれない。

日本の場合、ワクチンの確保は十分なのに、他の先進国と比べると接種の始まるのが遅いように見える。これはいくつか理由が考えられる。ひとつは、他の先進国に比べてコロナ禍の切迫度が低いために状況を見てから取り組む傾向があったこと。ふたつめは、激しい購入競争になって、そのなかで欧米に買い負けるような事態が生まれたのではないかと思われる。みっつめは、いまのところ自国オリジナルのワクチンが完成していないので、それを投入することができなかったことで、製薬会社との交渉においても弱みがあり、ワクチン小国といわれる日本の弱さが出た格好である。

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