新型コロナの第2波に備える(6)給付金は本当に効果があるのか

これまでも何度か述べたが、日本の定額給付金やアメリカの景気刺激給付は、かなりの部分が預貯金に回ってしまうと予想してきた。これは何も安倍政権だからとか、トランプ政権だからというのではなく、いわゆる「ヘリコプター・マネー」の経済学的研究の多くが示唆してきた通りなのである。

それどころか、今回の給付金はかなりの部分が株式などの、投資に回っているのではないかとの推測も少なくなかった。コロナ禍のなかで実体経済が縮小しているのに、株式市場だけはますます拡大している。もちろん、その異常なブームの担い手は機関投資家だろうが、生活に余裕のあるデイトレーダーも、給付金のかなりの部分を株式市場に投げ込んでいるというのは考えられることだった。

すでにアメリカでは給付金が何に使われたかの研究がなされているが、たとえば、ナショナル・ビューロー・オブ・エコノミック・リサーチが8月に発表した「アメリカの消費者は給付金(スティミュラス・ペイメント)をどのようにつかったか」は、ほぼ予想通りの暫定的結論を導き出している。この論文によれば、「かなりの被給付者たちが預貯金や負債返済にまわし、給付金のほとんどを消費にまわしたのは約15%にすぎなかった」とのことである。

もちろん、これは被給付者たちの行動から見た割合で、金額でみればこれほど極端な差は出ていない。もう少し詳しく見ていくが、英経済誌『ジ・エコノミスト』9月2日号が、分かりやすいグラフにして、要領よくまとめているので、こちらから引用しよう。

まず、全体の構図だが「給付金の42%が消費され、27%が預貯金に回され、そして31%が負債返済にあてられた」。次は、アメリカ国民の行動だが、「アメリカ人の30%が給付金のほとんどをつかい切り、いっぽうで40%がまったくつかっていない」。「貧しい家庭ほど多くの金額を食費や生活必需品にあてている」。「驚くべきことには、現金に不自由している人たちが、自分たちの持っている現金以上に、給付金をつかおうとしないことである」。

同誌によれば、アメリカ議会ではすでに、次の経済刺激策について論争が始まっている。これも全体の構図でいえば、共和党は支出をなるだけ抑えようとし、民主党はもっと支出しようとする。共和党はまんべんなく配る方法は刺激にならないと警告し、民主党はそれに同意しようとしない。さて、もうひとつ、興味深い指摘がある。

「第1回目の給付金は労働市場をあまり刺激しなかった。給付が行われても仕事を持っている人たちの労働時間にそれほど影響を与えないのである。仕事をもっていない人たちの場合、その4%は給付金が出たので仕事を探そうと努力しなくなった。とはいえ、21%の人は給付金が、もっと一生懸命に仕事を探す刺激になったと答えている」

アメリカの例を紹介したのは、日本でも同じ問題がこれから再びテーマとなるからだ。日本ではまだ本格的なデータの整理とレポートが出ていないが、これまでもさまざまな報道機関や世論調査機関が、アンケート形式の予測調査を発表してきた。これらから推測すると、日本の場合もかなりアメリカと近い暫定的結果になるのではないだろうか。

朝日新聞6月21日付の記事で1000人アンケートを発表していたが、ここでも預貯金とローンの支払いは大きな割合をしめている。生活費も多いじゃないかという人がいるかもしれないが、そもそもの政策目標は消費を押し上げることなのだから、その割には少ないとみるべきだろう。しかも、このデータで残念なのは、重複選択が許されているので、最優先されている項目が分からない点である。

興味深いのは、同じ時期に毎日新聞6月18日付が報じたデータだが、これは家計簿アプリ「マネーフォワード」の利用者アンケートなので、母集団が明確でない点が問題かもしれない。しかし、注目していいのは、13%が投資資金に回すと答えていたことで、おそらくはデイトレーダーなどの個人投資家だと思われる。これはアメリカでも同傾向にあるが、残念ながら前出の論文では明示化されていない。

他にも地方紙が試みたデータやレポートが発表されているが、いずれも規模や母集団に難点があって、一般論や政策論には使えないかもしれない。しかし、もし日本での傾向も前出のアメリカと同じようなものであれば、これからの第2波あるいは第3波での定額給付金、あるいは同様の財政支出は疑問符がつくだろう。要するに、消費に向かう家計にそれほど給付されず、消費ではないところ(貯蓄とか投資)に向かってしまう家計に余分な収入をもたらしているのだ。前回のような単純で広く浅いバラマキは、好ましくないことだけは確かである。

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