新型コロナの第3波に備える(3)トランプに投与された薬の副作用とは

トランプ大統領が退院してから、予想はされたことだが次々と問題発言をして、ホワイトハウスだけでなく、アメリカ全体を揺さぶっている。そのなかでも衝撃的なのは、またしてもコロナはインフルエンザよりも軽いかのような発言である。米民主党のペロシなどは、治療に使われたデキサメタゾンというアステロイドの副作用だとまで述べているらしい。

さて、このシリーズの前回でトランプの治療に使われた薬品を簡単に紹介しておいた。ちょっと簡単に過ぎたかもしれないが、要するに使えそうなものは使ったという、かなり荒い措置だったことは推測していただけたと思われる。ここでは英紙ザ・タイムズのサイエンスライターであるトム・ウイップルが、覚書のような記事(10月7日付)を書いているので、その一部を紹介するかたちで、少し補足しておくことにする。

ウイップルが最初に引用している言葉も、医師たちがトランプへの処方から感じられたそのままの表現で、「台所の流し台に投げ込むようなやり方」なのである。ともかく、やれることはやってしまおうという、トランプ医師団たちの姿勢が透けて見えるわけだ。

たとえば、イースト・アングリア大学教授のポール・ハンターなども「効果があるものは何でもやっておこう、ただし、それがまだ証明されてないのはやめたという感じ」と語っている。ウイップルによれば、この発言の後半部分は冗談で、トランプが愛用していたマラリア薬をあてこすっている皮肉ということらしい。

デキサメタゾン

まず、ペロシ議員が問題としているアステロイド薬デキサメタゾンだが、これは免疫システムが過剰に動きだしてしまい、かえって患者を悪化させるのを抑える薬である。新型コロナウイルスの場合、免疫系が暴走する、いわゆる「サイトカイン・ストーム」を抑えるために投与されるわけである。

では、その効果はどうか。ある。デキサメタゾンはいまのところ、こうした症状にはもっとも有効で効果のあるものとされている。英国でのデータによれば、人工呼吸器を使っている患者の死亡率の3分1、酸素吸入をしている患者は5分1引き下げることが分かっている。ただし、病状が重篤でない場合には、かえって患者の体の抵抗を邪魔することがありうるのだという。

ロンドン大学の専門医スティーヴン・エバンス教授によれば、「問題はかなり多い」という。たとえば、投与によって患者が心臓病や肥満である場合には、不安感、睡眠障害、そして認識不全を引き起こしてしまう危険があるというのだ。これが、ペロシ議員が指摘したことの根拠だが、もちろん、必ずそうなるというわけではない。

レムデシビル

ウイルスが感染するさいには人間の細胞を乗っ取って自分の複製を行う。ウイルスを何らかの方法で攻撃しようとすると、人間は自分の身体を攻撃することになってしまう。しかし、ウイルスの複製には細胞だけでなく、ウイルス自身で行うプロセスが含まれているので、ここに付け込むしかない。このレムデシビルという抗ウイルス剤は、ウイルスが複製を行う際に分泌する酵素をゴム状にくっつけてしまって、ウイルスが複製をつくるのを邪魔するわけである。

では、レムデシビルは効力を発揮するのか。これまでのところ、レムデシビルは前出のデキサメタゾンと併用しても効果を発揮する数少ない抗ウイスス薬だといわれている。ただし、その効果は新型コロナ感染によって生じる病状の初期にのみ働くといわれてきた。前出のエバンス教授は「デキサメタゾンは病状の初期には効かないし、レムデシビルはあまり遅いと効かなくなる。(トランプの医師団が)同時に使っているのは矛盾しているのではないか」と疑っていた。

リジェネロン抗体

たいがいの新型コロナの治療法というのは、薬によって病気そのものを打倒してしまうのではなく、患者自身の身体のなかに抗体が生じて病原体を排除できるようになるまでの間、患者の生命を維持するものである。しかし、このリジェネロン社の治療というのは、このプロセスを短縮するため、体外で人工的につくった抗体を患者の身体に入れるというものだ。

では、こうした方法は有効なのだろうか。初期の試みでは、まだ治療を受けていなかった患者が急速に回復したというが、それが生命維持につながるのかは、まだエビデンスが提示されていないという。前出のハンター教授は「正直に言って、もし私がトランプの担当医であって、もっとリジェネロン社の抗体について知ることができれば、あるいは試してみたかもしれない」と語っている。

以下、デキサメタゾン、レムデシビル、リジェネロン抗体についてもう少し詳しく述べて、その他投与されたものについての情報を紹介する予定です。

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