新型コロナの第3波に備える(18)日本人のワクチン接種率を知っていますか?

異様な遅れというべきだろう。最初はオリンピックにやってくる選手たちに、日本がワクチンを提供するようなことを言っていたが、そんな計画はなくなって、観客なしのオリンピックをやるという話になってしまった。そんなもの、いったい誰が喜ぶのだろうか。ワクチンをしっかりと接種して、それから世界のアスリートたちを迎えるのじゃなかったのか。だが、ワクチンがなくても観客なしなら開けるという、おかしな話に化けてしまった。

GOTOトラベルを一度やめたのだから、これはワクチンをしっかり接種して、感染の危険がなくなってから始めるのだとばかり思っていた。ところが、政府は6月から再開するとかいっている。いまのワクチンの接種速度で、とても6月に多くの人たちに免疫ができているはずがないから、前と同じような条件でまたやるというわけだろう。まさか、日本人にはすでに免疫ができているから大丈夫だとかいう、あの奇説を信じてしまったわけではあるまいね。

日本政府のコロナ対策とワクチン対策は、国会答弁を聞いていてもまったく分からない。菅総理は「われわれにはワクチンという武器があります」と言い切ったのだから、しっかりとワクチンを調達しているのかと思いきや、さっぱりワクチン接種が進んでいない。調達できていないからなのである。その責任を本気で追求する野党の議員もいないのは、もっと分からない。(左図:NHKが厚生労働省などに取材して報じたスケジュール。河野ワクチン担当相がツイッターで「デタラメ」と非難した。後に単なる「想定」だったと説明)

野党の議員たちは、まさか社会民主主義国のスウェーデンの真似をすれば、集団免疫がたちどころに達成できると思っているのではないだろう。この国は、一時はブラジルなみの惨憺たる状態で、いまも人口比の死者数はEU諸国とあまり変わりない。このところ、ワクチンの接種が11%を超えて、死者数の増加にブレーキがかかっているが、感染率からすると、依然、世界でトップクラスである(いちばん下のマップ参照)。

日本ではワクチンの接種がどれほど進展しているのか、ちゃんと国際比較で論じてくれないが、不思議なことに日本経済新聞は自分のところではやらないが、子会社のニッケイ・アジア紙では興味深いレポートを掲載している。「日本のスローなワクチン接種が、希望を不満に変えている」という記事は同紙3月23日付に載っている(右図を参照のこと)。

細かく紹介したいところだが、そこに掲載されているグラフを見てもらうだけで、いまの日本のコロナ対策が、あまりにも異常であることに気づくだろう。たしかに、感染者数や死亡者数は欧米の10分の1だが、欧米は必死になってワクチン接種を繰り広げている。アストラゼネカ製ワクチンをめぐる紛争は改めて述べることにするが、ともかく、ワクチンの取り合いや、他のワクチンの評判を下落させる陰湿な攻撃など、なさけないワクチン戦争が起こっている。しかし、そんなことは最初から分かっていたことだ。そのなかで、菅政権と自民党は本気で取り組んでこなかったのである。

たとえいま感染者や死者が少なくとも、これからワクチン接種が進んでいけば、世界では外国を訪れる資格としてワクチン接種が終わっていることが条件になるだろう。「わが国は感染も死者も少なかったので、ワクチンはいらなかった」などといっても通用しない。ましてや「日本人には特別の免疫があって、ワクチンはいらないのです」などといったら、ペテン師扱いされて、とても国内に入れてくれないだろう。その結果、日本は経済活動に支障をきたし、観客なしのオリンピックでも日本人への感染が拡大して、惨憺たることになるだろう。ちゃんとした戦略をもたずにコロナ禍を軽視した報いは大きなものになるのだ(イラストはNIKKEI Asiaより)。

いちど、自民党の政治家たちに、新型コロナとワクチンについて、基本的な認識をためす試験を実行してみるとよい。けっこう、日本人には独自の免疫があるとか、スウェーデン方式はいまも正しいとかいう、おめでたい政治家が多いのではないかと思う。もちろん、野党の人たちもこの試験を受けていただきたい。こっちもやはり、常識的な知識からはみ出した説を信じてきた、無責任な先生方が多いのではないだろうか(マップはOur World in Data)。

●こちらもご覧ください

新型コロナの第4波に備える(1)ワクチン接種の利益と危険をグラフで比較する

いまもマスクを否定するスウェーデン;むしろ危険とする根拠の論文72%は実は支持だった

ワクチンを有効にするのは何か;先頭を切って接種する英国の騒動から読む

新型コロナの第2波に備える(1)スペイン風邪の「前流行」と「後流行」
新型コロナの第2波に備える(2)誰を優先治療するかという「トリアージ」の難問
新型コロナの第2波に備える(3)ワクチンを制する者がポスト・コロナ世界を制する
新型コロナの第2波に備える(4)ロシア製ワクチンはスパイ行為の賜物?
新型コロナの第2波に備える(5)コロナワクチン陰謀説を検証する
新型コロナの第2波に備える(6)給付金は本当に効果があるのか
新型コロナの第2波に備える(7)コロナ規制批判が陰謀説化するとき

新型コロナの第3波に備える(1)英国版ファクターXを読んでみる
新型コロナの第3波に備える(2)トランプ大統領に投与された新薬とは何か
新型コロナの第3波に備える(3)トランプに投与された薬の副作用とは
新型コロナの第3波に備える(4)スウェーデン方式からのリアルな教訓
新型コロナの第3波に備える(5)ロンドンは再びロックダウンに突入!
新型コロナの第3波に備える(6)スウェーデンのロックダウン説を追う
新型コロナの第3波に備える(7)1日の感染者が春のピークの2倍を超えたスウェーデン
新型コロナの第3波に備える(8)ファイザーのワクチンを検証する
新型コロナの第3波に備える(9)目で見るスウェーデンの現状
新型コロナの第3波に備える(10)ワクチンへの幻滅が生み出す危機
新型コロナの第3波に備える(11)封じ込めたはずだった中国の感染拡大
新型コロナの第3波に備える(12)マナウスの集団免疫は幻想だった
新型コロナの第3波に備える(13)「他山の石」スウェーデンのマスク政策
新型コロナの第3波に備える(14)世界全体で見た日本のワクチン事情
新型コロナの第3波に備える(15)独自路線を売物にしたスウェーデンの陥穽
新型コロナの第3波に備える(16)独自に変異したウイルスに親戚が生まれる理由
新型コロナの第3波に備える(17)英国のワクチン接種は成功したか
新型コロナの第3波に備える(18)日本人のワクチン接種率を知っていますか?
新型コロナ対策でスウェーデンが失敗らしい;生命至上主義を批判しつつスウェーデン方式を推奨した人たちの奇妙さ
スウェーデンは経済も悲惨らしい;この国を根拠とするコロナ論は破綻した
いまスウェーデン方式を推奨する人の不思議;テグネルは「政治家」であることをお忘れなく

コロナ恐慌からの脱出(1)いまこそパニックの歴史に目を向けよう
コロナ恐慌からの脱出(2)日本のバブル崩壊を振り返る
コロナ恐慌からの脱出(3)これまでの不況と何が違うのか
コロナ恐慌からの脱出(4)パンデミックと戦争がもたらしたもの
コロナ恐慌からの脱出(5)ケインズ経済学の皮肉な運命
コロナ恐慌からの脱出(6)世界金融危機とバーナンキの苦闘
コロナ恐慌からの脱出(7)「失われた30年」の苦い教訓
コロナ恐慌からの脱出(8)ルーズベルトの「未知との遭遇」
コロナ恐慌からの脱出(9)巨大な財政支出だけでは元に戻らない
コロナ恐慌からの脱出(10)どの国が何時どこから先に回復するか
コロナ恐慌からの脱出(11)高橋是清財政への誤解と神話
コロナ恐慌からの脱出(12)グローバリゼーションは終焉するか
コロナ恐慌からの脱出(13)日米の株高は経済復活を意味していない
コロナ恐慌からの脱出(14)巨額の財政出動を断行する根拠は何か
コロナ恐慌からの脱出(15)米国ではバブルの「第2波」が生じている
コロナ恐慌からの脱出(16)家計の消費はいつ立ち上がるのか
ポスト・コロナ社会はどうなる(1)仕事と娯楽の「あり方」は大きく変わらない
ポスト・コロナ社会はどうなる(2)テレワークのデータを見直す
ポスト・コロナ社会はどうなる(3)世界を「戦後」経済がまっている
ポスト・コロナ社会はどうなる(4)貿易も安心もなかなか元に戻らない
ポスト・コロナ社会はどうなる(5)封じ込めの「空気」がオーバーシュートするとき
流言蜚語が「歴史」をつくる;いま情報には冷たく接してちょうどいい
複合エピデミックには間口の広い戦略が有効だ;新型コロナとバブル崩壊との闘い
流言蜚語が「歴史」をつくる;いま情報には冷たく接してちょうどいい
複合エピデミックには間口の広い戦略が有効だ;新型コロナとバブル崩壊との闘い

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください