新型コロナの第4波に備える(1)ワクチン接種の利益と危険をグラフで比較する

いまや新型コロナ戦線の最前線からは、後退した感のあるアストラゼネカ製ワクチンだが、英国のメディアはいまもベネフィット(益)とハーム(害)の比較から、このワクチンを使うことも選択肢のなかにあると主張しているものが多い。その中でも、ザ・テレグラフ4月9日付やザ・タイムズ4月14日付は、ケンブリッジ大学の研究機関が発表した、ベネフィットとハーム(利益とリスク)の比較グラフを掲載している。

ところが両紙とも、どういうわけかこのグラフの解説が付いていないので、そのまま紹介するのは先延ばしにしてきた。しかし、なかなか興味深いものなので、この研究機関「リスク&エビデンス・コミュニケーション・ウイントン・センター」(ケンブリッジ大学)のグラフについて、同センターが公開している一般向け解説を、かいつまんで紹介しておきたい。

ざっと言ってしまうと、左側にアストラゼネカ製ワクチンを接種したときのベネフィットが年代別に並べられ、右側にはそのさいのハームが同じく年代別に並べられている。たとえば、第1番目のグラフでは、60歳から69歳までの人たちにとっては、10万人のうち14.1人が重症化して集中治療室に行かずに済むが、いっぽう、0.2人が血栓症を起こす。また、20歳から29歳の人たちにとっては、10万人のうち0.8人が集中治療室に行かずに済むが、いっぽう、1.1人が血栓症を起こすことになる。

このように、年齢別のベネフィットとハームを並べてみせることで、グラフから「年齢が高くなるほどハームに対してベネフィットが大きくなる」ことを読み取れるが、それだけではない。第2番目、第3番目はさらに多くの人が感染している場合の比較が行われ、そこから「感染者数が多ければ多いほど、ハームに対してベネフィットがずっと大きい」ことも読み取ることができる。つまり、これは感染者数が多い状態でも、ハームの方は一定なのだが、ベネフィットのほうはずっと大きくなることを示しているのである。

ここに描かれた3つのグラフは、第1が英国の2021年3月の状況、第2が同国の2021年2月の状況、第3が第2波における最悪の状況に相当しているのだが、もちろん、それぞれがすべて現実のデータというわけではなく、手に入る数値をもとに統計学を用いて推計している。ここらの手続きをいちいち説明していると繁雑なので、新聞では省略しているわけだろう。本稿でも、その詳細を紹介する気はないが、2020年7月のデータと2021年4月3日現在のデータをもとに計算していることだけは述べておきたい。

この一般向けでの解説で注目すべきことは、先ほど述べたように、単にアストラゼネカ製ワクチンを接種するときのハームと重症化を回避するベネフィットを比較するだけでなく、感染者の数が多い場合にはベネフィットがさらに大きくなることを指摘している点だろう。なぜそういうことが起こるのかといえば、ワクチン接種のハームの危険は「その時だけ」のものであるのに対し、重症化を防ぐことができるベネフィットは「その後も一定期間」継続するからである。したがって、表現されたものより現実の世界ではベネフィットがもっと大きいと予測してもよいわけである。

さらに、これまでの解説で、十分にベネフィットの数値が大きいことが理解できるが、ここにはワクチンを接種した人が、他の人への感染を引き起こさないという、もうひとつの大きなベネフィットが含まれていないことも忘れてはならない。そしてもうひとつ、年齢層が低い場合にはハームの対ベネフィットは大きいが、年齢層が高くなればベネフィットが大きくなることが分かっているのだから、同じ効用をもち血栓症を起こさないワクチンが使えるようになるまで、「つなぎ」としては十分に使えるということである。このさいには、そうしたワクチンが手に入るまで待つか、注意深い使い方で接種を継続するか、という判断が重要なものになる。これもハームをなるだけ回避して、ベネフィットをなるだけ多くする選択は可能になるわけだ。

もちろん、こうした統計学を用いたベネフィットとハームの比較だけで、これからのワクチン接種が抵抗なく遂行できると思うのは楽観的だろう。合理的な視点からすれば、十分にベネフィットが大きいと判断できても、ワクチン政策を遂行する政権や政治家、さらには専門家たちに対する国民の信頼が揺らいでは、挫折の危険が生じてくる。この解説でも、これですべて判断できるなどとは述べていない。「私たちが望んでいるのは、判断のさいの複雑さを、このグラフを使って、すこしでも明瞭にしていただくことなのである」。

【追記】ついにコロナ分科会の尾身会長が「第4波で差し支えない」と発言した。第3波で収束に向かうのかと漠然と楽観的に考えていたが、これからは第4波に備えなくてなならない。したがって、タイトルも「新型コロナの第4波に備える」に変更したい。この投稿はその第1回ということになる。

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