新型コロナの第5波に備える(3)世界のコロナ死は公式発表の3倍の1500万人だ?

いまの新型コロナによる死者は世界で455万人といわれる。アメリカだけでも65万に近づいているし、ブラジルが58万人、インドは44万人、さらにロシアは18万人強となり、英国は13万人を超えている(9月4日現在)。100年ほど前の「スペイン風邪」には及ばないが、少なくともこれを「普通の風邪」と形容するのは不可能である。

しかも、ここに並べた数値というのは、それぞれの国の公式発表によるもので、実際にはもっと多いといわれる。英経済誌ジ・エコノミストは何度か推計を発表しているが、9月2日号では「パンデミックの本当の死者数」という殺伐としたタイトルの記事を掲載し、すでに1500万人以上が亡くなっている可能性があるという。

「公式発表によるコロナ死者数はいま450万人に達しており、われわれの推計では実際には1520万人であると思われる。われわれは、正確な値が930万人から1810万人のあいだにある確率は95%の確率と見ている」

さまざまな原因で、あるウイルスのパンデミックによる死者数が正確に分からない時に、統計学で使われるのが「超過死亡」と言われる数値である。これは、亡くなった人全体の公表数と、それまでの統計から割り出した死亡者予測数との「差の値」を意味する。パンデミックが起これば、公表数が予測数を上回ることになるから、普通はプラスの値になる。

ただし、このさい同地域と同期間において、他の自然災害や流行病が起こっていないことが前提であり、さらに、パンデミックが起こったことにより、人びとの行動に変化が生まれて、既存の病気による死亡者数が減る場合がある。このときには超過死亡はマイナスの値をとることもありえるわけである。

「パンデミック最中の死亡率が、パンデミック前のそれより低くなる場合がある。たとえば、インフルエンザの死者数が、(マスクをかけるとか手を頻繁に洗うなどの)ライフスタイルの変化によって、パンデミック前より減ってしまうような場合、このとき超過死亡の数値はマイナスになる」

すでに、「新型コロナに備える(3)世界のコロナ死者数は3倍の1千万人である」で、ジ・エコノミストが5月15日号で発表した推計数と超過死亡の説明は紹介してあるので、ぜひご覧いただきたい。この超過死亡という統計上の概念が、どれほど扱いにくいものであるかは、よく知られている。こんどの最新報告の記事も、そのほとんどが超過死亡という概念の説明といってよい。

たとえば、使えるデータがより少ない国の場合には、それだけ、超過死亡がどれほどの数値になるかは推計しにくくなる。また、コロナの場合には高齢化している社会では、そうでない社会に比べて、超過死亡の値は低くなる傾向がみられる。これは、コロナの感染者の場合、他の原因で亡くなる可能性のあった高齢者の死亡率がずっと高いからで、超過死亡について論じようとするときには、こうした人口動態上の構造をしっかりと踏まえておかなくてはならない。

さらには、ワクチン接種によって多くの国で感染後の致死率を劇的に低下させているが、この超過死亡による推計という方法は、ワクチン接種についてのデータを盛り込んでいない。また、新型コロナウイルスの最初の株とは毒性の異なる、アルファ株やデルタ株といった変異種の情報はまだ十分でない。こうした「ただし書き」は必要だが、この方法はどれほど多くの人たちがコロナの犠牲になるかを推測する出発点にはなるのだという。

このジ・エコノミストのデータとグラフは、読者がある程度操作できるので、自分の関心に基づいて、いろいろ比較してみることが可能だ。ためしに、ここで日本、英国、スウェーデンについて、それぞれの公式発表の死者数と同誌推計の超過死亡を比較してみることにしよう。以下は、同誌の記事内容には含まれていない。

すぐに分かるのは、日本の死者数も超過死亡も、ほかの2カ国と比べてきわめて低いことで(上図と下図を見てください)、もうひとつが、英国はかなり強いロックダウンを採用し、スウェーデンは比較的強い規制をとったがロックダウンは採用しなかったのに、結果的にはきわめて似たような結果となっていることである。

もちろん、違いも明らかになる。スウェーデンは2度目の死者数の増加の途中から、急激な超過死亡の下落が起こっているのに、英国は2度目の死亡者の増加から超過死亡の下落が起こるまでに、やや時間が経過している。同じ下落においても、英国はワクチンを先行させており、いっぽう、スウェーデンはワクチンも用いたが、さらに規制を強化することで、他の疾病による病死についても急落が起こったと想像することが可能かもしれない。

さて、日本はどうだろうか。日本はほとんど全般を通じて死亡者も超過死亡も低いかマイナスで推移していた。しかし、オリンピック開催の時期から急激にいずれも増えており、これから超過死亡が急激に上昇する危険がありそうだ。いわば、これまでの「貯金」を使い果たしてし、別のパターンに入ってしまったのではないか危ぶまれる。

この日本をあえて英国の場合と比較すると、やはりこの国もオリンピックほどではないが欧州サッカー選手権を開催している時期に、死者数と超過死亡が上昇している。死者数ははるかに多いが、超過死亡は日本ほどではなかった。今回の日本のオリンピック開催が、いかにこれまでの状態と異なるかを示しているといえそうである。なお、英国とスウェーデンに見られた、いつからどのようなコロナ対策をとるかのタイミングの問題については、すでに研究が発表されている。なるべく早く紹介したい。

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