新型コロナの第6波に備える(7)世界のコロナ死は公式発表の3.4倍の1870万人に達した

新型コロナによる死者数は、世界で540万人を超えている。感染者数が2億9000万人だから、致死率は約1.9%ということになるが、死者数はおそらく1870万人を下らないとする、統計学を使った推計も発表されている。

ほとんど恒例となった数値の発表が、英経済誌ジ・エコノミストからあった。同誌の研究部門による推計によると、2022年1月3日現在で、新型コロナによる世界での死者数は1870万人で、世界の公式発表を合計した540万人の3.4倍に相当する。もう少し厳密にいうと、本当の死者数は1170万人から2180万人の間にある確率は95%であり、そのなかで1870万人という数値が最もありうべき値だというわけである(上図:他の図もThe Economistより)。

この種の推計には「超過死亡」という概念が使われることは、新型コロナのパンデミックが続く中でかなりお馴染みのことになった。改めて同誌による定義をあげておくと「この数値は一定の地域で一定の期間に、実際に何人が亡くなったかという数値と、もし特別の条件(たとえば自然災害とか病気の爆発的流行)がなかったならば、何人が亡くなっていたかという数値との間のギャップである」ということになる。

ごく簡単な計算方法では、その年の死者数と何年分かの死者数の平均値とを比べるということになるが、実は、この程度の手続きでは、誤差が大きいことが分かっている。そこでジ・エコノミストは国家あるいは地域のなかで、1日あたりの超過死亡を丹念に計算するという方法をとっている。他にも誤差を生み出す原因は多くあり、いちばんありふれているのは途上国での死亡者数が正確に発表されていないことだ。

さらに、そうした統計の不正確さに加えて、政府によっては政治的に死亡者数や超過死亡に使われる数値を変えている疑いのあるところもある。また、裕福な国と貧乏な国とでは統計に対する考え方が異なり、そもそもちゃんとした統計を発表しない国すらある。同誌は正直に使用できた統計は、裕福な国と中程度豊かな国のデータだけだったと明かしている。つまり、そこから先は推測が含まれているのだ。

さらには、国民の平均年齢が若い国と高齢化している国とでは大きな違いがあり、これも全体の数値にゆがみを生み出す。豊かな国でも医療や保健に熱心な国と、あまりそうではない国とでも明らかな差が認められる。前者の場合には死者が高齢者に著しく寄るが、後者ではそれほどでもないということになる。北欧の国々などでは超過死亡が死亡者数を下回るが、アメリカなどは超過死亡のほうが多い時期のほうが目立つ。それどころか下表を見ると、インド、ロシアなどもすごいが(かなりのギャップだが)、中国はどうなっているのだろう。コロナ死でないとするならば、いったいこのギャップは何で亡くなっているのだろうか。

したがって、ここに提示されたグラフや図版は、ある意味で大雑把なものだと、ジ・エコノミストは最初からことわっている。とはいえ、見れば見るほど今回の新型コロナのパンデミックは巨大なものだったことだけは確かだろう。それをうまく切り抜けた国があるかといえば、実は、パンデミックもウイルスの変異も鎮静化したわけではないので、まだわからないというのが正しい答えなのである。

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