新型コロナの第9波に備える(1)中国の本当の感染者数と死亡者数を推測してみる

中国のコロナ感染と死者のデータは、まったく信用できない。そこでさまざまな方法が考えられているが、公表されている研究機関の職員の訃報から推測した数値が発表された。もちろん、研究機関の教授や職員がコロナ禍において、全体の状況を正確に反映しているとはいえない。しかし、ともかく中国のコロナ感染と死去の状況を、漠然と示唆していることは間違いない。

ニューヨークタイムズの2月5日付の「中国のコロナの霧のなかで、研究者の死者数が手掛かりを与えてくれる」は、どう考えても「仕方がない」からやってみたという、中国のコロナ禍状況推測の試みである。しかし、中国当局の発表が、コロナで亡くなった人が8万人で、いまはコロナ感染が急速に鎮静化していると言うだけで、ちゃんとした調査も数値も公開しないのだから仕方がない。

同記事によればウェブで検索すれば、中国のアカデミーのメンバーは、エンジニア・アカデミーが現在約900人、科学アカデミーが約800人とのことだ。そこからそれぞれの研究機関が発表している公式の訃報をひろっていって、これまでの数値と比較できるグラフにすれば、今回の「ゼロコロナ」放棄以後の死者数があぶり出されてくるというわけである。ちょっと大胆だが、何もやらないで中国経済のリバウンドばかりを報道している、物欲しげな経済マスコミよりはましだろう。

まず、2つの中国政府が援助している研究機関の例を見てみると、当然のことながらこれまでは数人だったものが23人に跳ね上がっている。こうしたグラフを積み重ねていけば、中国人民のすべてにわたって概観できるわけではないが、研究の世界に生きている人たち(おそらくは生活レベルや判断力レベルは高い)の、コロナによる死亡率がばくぜんと見えてくるわけである。

ただし、あるアカデミー会員の死去について、家族に電話でインタビューして分かったことだが、おそらく本人はコロナに感染したらしいとは分かっても、「政府がコロナ感染の調査をやめてしまっているので」、正確にコロナ死だとはいえないのである。また、残念ながら、すべての研究機関が所属している研究者の訃報を発表しているわけでもないのだ。これは推計は可能でも、総計するということはまったくできない。

次に見てみたいのが、ハルピンにある工業技術の研究機関から発表されている訃報である。これも2022年12月と2023年1月の死者数が跳ね上がっているが、先ほどの例とは異なり、昨年12月より今年1月のほうが多い。これは感染のピークが遅れてきたせいだろうとは思うが、詳しいことはやはり推測の域を出ない。

最後に北京大学の健康科学研究所の例だが、ここは2022年12月は極端に増加したが、2023年1月にはまた極端に減って例年並みになっている。なぜかについては、この記事では踏み込めていないので、勝手に推測すると、昨年12月には急速な感染に見舞われて対策が取れなかったのに対し、今年1月にはかなりしっかりした対策が可能になったということだろう。

中国の保健当局はすでにオミクロン株の感染ピークは過ぎたと述べているが、残念ながら中国全体でみれば多くの問題が残っている。香港大学のジン・ドンギャン博士によれば、ワクチンの効果がまだ低いことと、病院ベッドの数が十分でないことが、医療システムとして決定的に問題だという。「それは、もし、これからちょっとした感染の急増があっただけで、多くの人が亡くなる危険があるということです。人びとが自分たちの置かれている状況をよく把握できないと、また新しい試練がやってくることになる」。

ここにあげたようなデータから、たとえば「超過死亡」のような数値を割り出して、それを中国全国に当てはめるようなことも、やればできないことはない。つまり、例年平均より突出した部分を(他の流行性の死病がないとして)コロナで亡くなったとすれば、対象になっている2カ月のコロナ死亡者の数が推測できる。わずか2カ月とはいえ膨大な死者がいたことになる(中国の人口は約14億、1年=12カ月での死亡率は7.4%、その12分の1の約3倍に高齢者死亡者の割合を掛けたものが1カ月分の高齢者コロナ死者数……と計算すればできる。可能性としては百万人前後となる)。しかし、ニューヨークタイムズはやっていない。それは、「数値を集めて正確なデータを発表するのは中国政府だが、中国政府はその仕事をやっていない」ことは確かでも、かなり漠然とした推計だけでモノを言うのは危険だからだろう。

私の印象では、アカデミー会員の死去者というのは90歳代とか100歳代が多く、それが単に高齢者の割合ではなく、実際に全体のなかのどの程度を反映しているのかも、考えないといけないと思われる。本記事のグラフはこれまでのアカデミー会員だけのデータからの変化で見ているので、それなりの一貫性はあるが、どこに推測を誤らせる罠があるか分からない。いまのところは、こういう試みがあって、まあ、だいたい思ったとおりだという感触を得たとだけ述べておくことにする。

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