新型コロナの第6波に備える(9)オミクロン株の専用ワクチンが必要だ

オミクロン株の感染が世界に広がるなかで、2回のワクチン接種だけでは十分ではないことが明らかになったが、さらに、いまのワクチンでは3回目もあまり効かないのではないかとの不安が広がっている。では、なぜオミクロン株はこれまでのワクチンが充分に効かないのか、その研究がいくつか進められている。

英経済誌ジ・エコノミスト1月7日号に掲載された「コロナワクチンはオミクロン株にはアップデートが必要」との記事は、1月12日にも同誌電子版に再掲載された。まず、結論から書いてしまうと、オミクロン株はこれまでの新型コロナウイルスの中ではかなり独特の性質をもっているため、2回では十分ではなく、また3回でも重症化や死亡を防ぐという意味で効果があるが、感染を防ぐにはオミクロン株専用のワクチンが必要だというものだ。

同誌が紹介しているのは、アムステルダム大学とオランダ公共衛生研究所の研究者たちによるオミクロン株ウイルス研究で、ざっくりいってしまうと「オミクロン株は他の新型コロナウイルスのグループからは離れた性格をもつ」という結論を導きだしている(右図を参照)。分析手法や図版作製技法については省略するが、最初の新型コロナウイルス(これをアンセスター=先祖と呼んでいる)からの違いを見ると、予想以上に大きかったというわけである。

アムステルダム大学のコリン・ラッセル博士によれば、「他の新型コロナウイルス変異株とオミクロン株の共通性が少ないといっても、まったくないということではありません。むしろ、いまのワクチンによる第3回目の接種でも、それなりの有効性を与えてくれるのは何故かということが問題になるわけです」。

この研究に携わった研究者たちは、オミクロン株に感染するかワクチンを打っている人が多くなればなるほど、それまでより何らかの防御を持つ人が多くなることは予想されるという。また、他の研究でも人間のT細胞にある免疫システムの一部は、ウイルスがオミクロン株に変異しても、それほど機能が落ちるとは思われないという。

「たぶん、それが、他の変異株の感染やワクチン接種によって免疫を持つようになった人が、重症化や死亡に至ることが少ない理由のひとつだと思われる。もうひとつの理由は、オミクロン株そのものが、元来致死的な毒性をもたないという可能性もある」と同誌は述べている(写真:The Economistより)。

とはいえ、感染の拡大速度はあまりにも大きい。前出のラッセル博士は次のように提案している。「インフルエンザについてはWHOが中心となって、年に2度、アップデートの必要性を専門家に諮問している。新型コロナのワクチンについても同様のことが必要です。最大の効果を望むなら、いまのワクチンはすぐにもアップデートされるべきです」。

オミクロン株が他の新型コロナウイルスの変異株と、その発生の過程からしてかけ離れたものであることは、すでに同誌2021年12月4日号の「オミクロン株は不吉だ。それがどれほど悪くなりうるか?」のなかで、新型コロナウイルスの「進化」における枝分かれについての研究を紹介している。同記事よれば、オミクロン株という「支族」は「先祖」からの枝分かれのかなり初期に、すでにほかの変異株とは別の道を歩んでいたという(図を参照。オミクロン株はいちばん上)。

また、前出のオランダのグループが研究を発表した同じ日に、科学雑誌の『セル(Cell)』に「新型コロナウイルスにおける抗原の分岐をマッピングする」という論文が発表されている。これも同じようにオミクロン株の独自の性質を指摘するもので、結論は「ワクチンの効果を確かなものにするには、ワクチンのアップデートが好ましい」だった。もちろん、ワクチン・メーカーはすでに動いている。ファイザーは今年の3月までに、専用ワクチンを供給すると発表している。

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