新型コロナの第6波に備える(8)ドイツの反ワクチン運動はなぜ過激化したのか

オミクロン株が世界中を席巻しているが、その半面、この新しい変異株による症状が「軽症」との説もあり、新型コロナのパンデミックも、終わりに近づいているとの希望が生まれている。そのなかで、急激に盛り上がりを見せているのが、反ワクチンの運動である。とくに、一時、コロナ対策の優等生とされたドイツでの運動が過激化している。

すでに反ワクチンのデモは繰り返されていたが、昨年(2021年)8月には、反ワクチン派とみられる看護師がワクチンの代わりに食塩水を接種していたことが発覚。また9月には、東部ザクセン州でワクチン接種会場に火炎瓶のようなものが、投げ込まれる事件もあったが、このときは発火装置に故障があったおかげで事なきを得ている。

さらに、反ワクチン運動は昨年暮れにかけて激しさを増し、東部ザクセン州ドレスデンではワクチン接種反対派が、通信アプリ「テレグラム」を通じてグループを結成し、同州のコロナ対策積極派のクレッチマー州首相の暗殺を計画していた。連邦政府の首相となったオラフ・ショルツは、就任後初の演説で「ごく少数派の過激派による意見の押し付けはゆるさない」と演説したほどだった。

ここで紹介するのは、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙1月7日付に掲載された「“デモをしても効果がない、いまは血が流れる必要がある”」とのタイトルのインタビュー記事だ。取材を受けているのは、前出の通信アプリ「テレグラム」など、ネット上に流れる反ワクチン運動のプロパガンダや情報交換を分析している、「陰謀イデオロギー研究」の専門家ヨーゼフ・ホルンビュルガーである(写真faz.netより)。

インタビューの冒頭近くに、クレッチマー州首相の暗殺計画があったことについて「驚きましたか」と聞かれて、あっさりと「残念ながら、驚きませんでした」と答えている。「いまの不満の高まりは単なるひとつのケースなのです。われわれ(研究者たち)は、暴力はオンラインでもオフラインでも顕著になりつつあると言い続けてきました」。

「ある人物が、デジタルのサイトで殺人幻想を表明するときには、その人物がキーボードの前に座って何かを書いているだけでなく、たぶん、すでに路上にそれをもち出していることを意味するのです。このときには事態は切迫していますが、しかし、それは最初から一連のシーンの一部だったということです。デジタル世界とアナログ世界は互いに切り離せるものではないのです」(写真faz.netより)

では、前出の「テレグラム」のような通信アプリでは、発信と受信という行為がどのような性質をもつのだろうか。同アプリで16万人の「購読者」を持つ極右活動家オリヴァー・ヤニッヒについて聞かれ、ホルンビュルガーは次のように答えている。「ヤニッヒはエキセントリックな集会に呼ばれて演説し、また、ビデオを通じて意見を表明しています。では、彼が言ったことが、これは一線を超えているとか、許せない話だとかの非難を受けたかといえば、そうではない。まったく逆で、テレグラムを視聴した人たちは彼を支持した。このような人物が力を持つようになれば、実際に何らかの結果が生じるだろうという反応だったのです」

それでは、反ワクチン運動を展開している人たちは、右派あるいは極右に多いのだろうか。この点についてホルンビュルガーは「新型コロナ政策への反対運動は、実際、きわめて様々な集団からなっている」と答えてそのまま肯定していない。そのうえで、「ワクチンを拒否する人たちすべてが、イデオロギー的な陰謀論的世界観に取りつかれているわけではないのですが、しかし、かなりの部分が重なっています」と付け加えている(写真faz.netより)。

「たとえば、ワクチン接種をすると不妊症になるという、誤った情報が拡散してしまうと、それはワクチンに対する反対論を加速するだけでなく、それまで存在した陰謀論を信じる人たちの集団をも、ワクチン接種から遠ざける結果となります。陰謀論を信じている人は、実は、それほど増えないのですが、反ワクチンの運動からみると、彼らをまきこんで生じる二次的な数値が大きいのです」

次のような、一見、矛盾しているような、ホルンビュルガーの指摘はたいへん興味深いと思われる。「新型コロナ政策に反対する人たちのなかには、しばしば、そうした政策そのものの撤廃を目指していない人たちもいるのです。彼らの世界観のなかでは、いまの世界を作り上げて陰謀を生みだしている政治は、なおも続いているのです。陰謀論を信じている人たちは、自分たちはそれに抵抗しているのだと思っている。そして、もし、世界を作り上げているイデオロギー的な世界観が、これからも続くとすれば、完全な変化がこの世界に必要だということになります」(図版faz.netより)

では、そうした誤った情報や陰謀論を信じる人たちを、これからどうすればいいのか。ホルンビュルガーは、もちろん、規制するとか叩き潰すとかすれば、簡単になくなるとは考えていない。彼はデジタル世界の探索を続けているなかで、「われわれは犯罪捜査をしているわけではないが、何か被害を受ける人が出るような事態を発見すれば、それを当局に知らせるということは行っている」という。しかし、「それよりも、この数年の間に感じたのは、私たちの探索にもとづいた警告が、十分に真剣に受け取ってもらえていないことです」。

それではホルンビュルガーは、いまのドイツ政府のコロナ政策をどう思っているのか。「もし、ワクチンの義務化が施行されれば、おそらく現在より激しい暴動があるかもしれない。私はそれが予想できます。しかし、私はワクチン義務化に反対しているわけではないのです。私は医者でないから、それが必要か否かはいうことはできない。しかし、もし、暴力への傾向が高まるというので必要な措置をとらなければ、それは脅迫に脆弱になることであり、結局、暴力を認めてしまうことになってしまうでしょう」

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