新型コロナの第6波に備える(2)オミクロン株への対策はどうすべきか

南アフリカで見つかった新変異株はWHOによって「オミクロン」と命名された。同時に「警戒すべき変異株」として対策が必要とされたわけである。もちろん、いまのところオミクロン株の性質はあまりよく分かっていない。オミクロン株が広がっていると想定される地域からの渡航を禁止する国が増えるいっぽう、他方では過剰反応だと論じる人たちもいる。いまのような状態のとき、どのような対応を採るのがよいのだろうか。

まず、WHOの見解から見てみよう。WHOコロナ対策担当のマリア・ヴァン・ケルクホーヴは、フィナンシャル・タイムズ紙に答えて「まだ全体の感染数が分かっているわけではありませんが、南アフリカ全体で感染者は増えています」と述べている(同紙11月26日付)。彼女によればオミクロンが「警戒」すべきなのは、他の変異株と比べて「きわめて拡散的」つまり感染力が強いからなのだという。

英国の保健相サジッド・ジャヴィドも同国議会で「いままでのところ、この変異株はデルタ株よりも感染しやすく、現在のワクチンの効果も(この変異株には)有効性が低いと思われる」と答弁している。ヨーロッパ委員会のウルウラ・バン・デア・ライエンなどは、「この変異株は数カ月の間に世界中に感染が広がるかもしれない」と警告を発している。

すでに、こうした警告を受ける以前に、英国では南アフリカ、ボツワニア、ナミビア、ジンバブエ、レソト、エスワティニからの渡航を禁止しており、同じような動きがイスラエルやアメリカに広がっている。南アフリカの外相はこうした渡航禁止はあまりに性急な反応だと11月26日に英国を非難した。

「たしかに南アフリカは、自国民を守るためにすべての国が何らかの処置をとることを否定するものではない。しかし、英国が南アメリカ国民の入国を禁止してしまったのは、あまりに性急すぎるように思える」

世界のメディアでも、たとえば、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙11月26日付は次のように疑問をはさんでいる。「いまのところ、新しい変異株がデルタ株やアルファ株よりも危険かどうか、ほとんど明らかになっていない。それなのに、イスラエルや英国は新変異株の感染が疑われる国からの入国を一時的にせよ制限してしまった」。

日本のインターネットでは、新変異株が「オミクロン」と命名されたとのニュースのコメントに、日本は水際作戦で国内には入れるなと主張するものが投稿されると同時に、名前がついただけでまだ感染が広がっているわけではないのに恐れる必要はないと書き込む人もいて、その理由はあげないまま意見の対立だけが際立っている。

私はおおざっぱにいって、まず、新しい現象が起こったさいには、警戒するのが自然な対応であり、さまざまな情報が得られるにつれて、その警戒の在り方を変えていくというのが妥当だと思う。したがって、いまの段階で「怖くない」と主張するのは、かつての「ただの風邪にすぎない」という言説と同じく、うかつな発言か単なる強がりでしかないだろう。

まず、いま分かっていることは何だろうか。いまのところ感染者は分かっている数でいえば100人ほどで、感染者の状況からするとデルタ株より感染力があり、オミクロン株には「免疫を回避する」性質があるということだ。もう少し専門的な情報としては、オミクロン株の遺伝子には「ジャンプ」といってよいほど多くの変異が見られ、スパイク(例のトゲ)のタンパク質を調べただけでも30もの変異が見られた。また、免疫不全症の人の身体で変異したのではないかとの説があることも、知っておいてよいかもしれない(「南アフリカで発見された新変異株とは何者か」)。

英経済誌ジ・エコノミスト電子版11月26日付は「新しい変異株を阻止するため諸国はテンテコマイ:どのようにオミクロン株は脅威なのか」との記事のなかで、オミクロン株が脅威とされる性格を3つに絞っている。第1に、デルタ株より感染力が強いらしいこと、第2に、したがって数カ月内にはオミクロン株がデルタ株に取って代わる可能性があること、第3に、いまのワクチンではオミクロン株を抑えられないかもしれないので、ワクチンの改良が必要だと思われること。

まず、第1の問題はいま以上に感染経路を断ってしのぐしかないだろう。マスクの使用は欠かせない。第2に関しては、たとえばアルファ株については、世界的な拡散までいかず、いくつかの地域にとどまっている。デルタ株はそうではなかった。オミクロン株がどうなるかについては、油断のない監視が必要だろう。そして、第3については、すでにワクチンを供給している製薬会社が改良に取り組んでいるとの情報がある。これは待つしかない。

このように見れば、いまの渡航禁止も南アフリカなどの国々は気の毒だが、「一時的措置」として認めざるをえない。日本のようなマスク大国の場合はまだ大丈夫だとは思われるが、マスクの着用やソーシャルディスタンスはしばらく続けざるをえない。そして、ワクチンの改良を待つことになるが、その間に、オミクロン株の性質がもう少し分かるようになるだろう。

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