新型コロナの第7波に備える(2)オミクロン株BA.5の脅威は国によって異なる?

7月12日の新規感染者は東京都だけで1万1511人に達し、1万人を上回るのは3月16日の1万220人以来のことだ。全国では7万人を超え、19人が亡くなっており、コロナ禍は振り出しに戻ったような恐怖を覚えた人も多かっただろう。オミクロン株のサブ変異体BA.5への置き換わりが進んでいるといわれ、これからの展開が見えない点が不安を掻きたてている。

実は、欧米はすでにBA.5への転換がかなり進んでいて、これからの予想については論争がある。フィナンシャルタイムズ紙7月10日付は「オミクロン株のサブ変異体が、欧米でコロナ入院を増加させている」を掲載したが、同紙のアナリストは「これまでのコロナ波よりも重症や死者は少なくなりそうだ」との、比較的楽観的な見方をしている。

それに対して同じ経済紙でもウォールストリート紙7月11日付は「オミクロン株が秋にかけてヨーロッパでのコロナ感染を加速する」を掲載し、「秋から冬にかけて感染が拡大した場合には、感染者数が現在の2倍に達するとの予想もでている」と、かなり悲観的な見方も紹介している。では、どちらが妥当なのだろうか。

根拠となるデータを、グラフ化してくれているのはフィナンシャル紙のほうで、昨年11月から今年6月までのオミクロン株による感染が、どのように展開してきたのか、BA.1からBA.5までの置き換わりを、欧米12カ国についてすべて視覚化してくれている。これを見れば、これから日本のオミクロン株BA.5の感染がどのように進んでいくかも予想できるような気がしてしまう。

たとえば、同紙はヨーロッパ集中治療協会長のマウリツィオ・チッコーニの意見として、コロナ感染によって集中治療を受ける人が、次第に少なくなっていることを指摘している。たとえば、チッコーニが担当している地域では、2020年5月に入院者の10~15%が集中治療を受けたが、第4波では8%に低下し、今回の波ではおそらく2~3%にまで減るだろうというのである。

その理由についてチッコーニは、オミクロン株のBA.4とBA.5がもともとマイルドな症状しか起こさないのか、それともコロナ感染が始まって2年の間に、多くの人がワクチンを接種したからなのかはまだ明確ではないが、事実として重症化する割合は少なくなっているという。彼自身はどう考えるかといえば、「ウイルスに初めて感染したり、また、ワクチンを初めて接種する人を見つけるのは、困難になっていることからすれば、こうした状況が重症化する患者の数を減らしていることはまちがいない」という。

この見通しは、たとえばヨーロッパのなかでも早い時期からBA.4やBA.5に置き換わった南アフリカやポルトガルが、すでに感染拡大のピークを過ぎて、次第に終息に向かっているように見えることからも言えると同紙は示唆している。つまり、12カ国のグラフを時間軸で見て行けば、ほぼ、同じような推移が予測できるというわけだ(写真はft.comより)。

いっぽう、ウォールストリート紙に登場するキングズ・カレッジ・ロンドンの疫学者ティム・スペクターは「秋には医療サービスの崩壊が起こる」と憂慮している。もちろん、ワクチンがなかった時期に戻るということはないにしても、感染者数がいまのように急速に増えるならば、もうコロナは終わったと思っている国民も医療制度も、ショックを受けて対応を誤るというわけである。(フィナンシャル紙のグラフでも分かるように)いまも急激な上昇を続けている英国のようなケースが、そのまま増加の一途をたどれば、大変な事態になることはありえる。

実は、フィナンシャルタイムズ紙も、記事の最後の部分でそのことに触れている。もし、オミクロン株の新しいサブ変異体の感染拡大のあり方が、ひとつの要素で時間軸にそって決まるのではなくて、「地域ごとに異なっている変異体の種類と使用したワクチンに特有の免疫のコンビネーションで決まるとするなら、ある国で集めたデータを、別の国でこれから何が起こるかの予想に使うというのは、かなり困難だということになる」。南アフリカではすでにBA.5の感染は終わりかけ、デンマークもピークは大したことなく過ぎたが、英国はまだまだ長期にわたって感染者が増えるかもしれないのだ。

ここで見ていただきたいもうひとつのグラフ(上図)は、同紙6月17日付の「サブ変異体が新しい波を生み出すにつれて、コロナでの入院率がヨーロッパで上昇している」に掲載された12カ国のこの時点での置き換わり状況を示している。先ほどのグラフより1月ほど早いわけだが、ポルトガルや南アフリカが、他の地域の「これから」を示しているのかどうか。12カ国のグラフを時間軸でみるか、それぞれの国の特色としてみるかで、かなり解釈の違いが出てくるだろう。

こうした、感染による免疫とワクチンによる免疫が複雑に形成されたいまの状況のなかでは、ある特定の地域で得られたデータから地域を超えた一般的な予測をするのは難しくなる。それは前回の「新型コロナの第7波に備える(1)オミクロンは「免疫刷り込み」のため感染阻止できない?」で取り上げた研究とも繋がっている。しかし、いまのところ、ワクチンの追加接種が、たとえ感染を防御できないとしても、重症化がかなり高い確率で回避できることは、ほとんど疑問がないようだ。日本にとって残る問題は、そうしたワクチン接種の態勢を、これからも維持できるかということになる。

●こちらもご覧ください

新型コロナ第7波に備える(1)オミクロンは「免疫刷り込み」のため感染阻止できない?
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