新型コロナの第8波に備える(4)中国の感染爆発で明らかになったこと

中国ではついに習近平主席がコロナ対策について発言した。ところが、それが理解不可能に近い。毛沢東の言葉を引用しながら、人命尊重だといったという。毛沢東という人は自分の権力維持のため、数百万人(数千万人という説も)の同胞を死に追いやったのではなかったのか。ともかく、ほかのブログでも書いたように、すでに中国では約2億5000万人が感染し、150万人の死者が予想されている。

こうした中国のコロナの感染爆発は予想されていたとはいえ、これまでの議論に強い光を当ててくれていて、分かったことも多い。何と言っても明らかになったのは、習近平を中心とするゼロコロナ政策はまったく失敗だったということだ。このゼロコロナという言葉で、いまも欧米のロックダウンや日本の緊急事態宣言を思い浮かべる人がいるが、これはまったく間違っている。中国のゼロコロナ政策というのは、ワクチンよりも物理的に感染を閉じ込めることを目指すもので、感染個人が施設に閉じ込められるのはもちろん、地域の感染者をすべて離れたところに建てた収容所に入れ、街ひとつを丸ごと完封するような政策だったのだ。

そのいっぽう、中国は出来のわるい国産ワクチンを接種していったが、これはあまり真剣に取り組んでいなかった。ゼロコロナ政策は中国が誇る正しい政策であり、それがあれば大丈夫だといっておけば、政治的にもめなかったからだろう。さて、いま展開している中国の混乱は、世界や日本にとって参考になるのだろうか。もちろん、大いに参考になる。ウォールストリート紙12月24日号などは「中国での感染爆発はオミクロン株の真実をわれわれに語ってくれるだろう」という記事を掲載したほどである。

たとえば、オミクロン株は本当に症状が軽いのかという疑問があったが、これは欧米日の場合には、すでに感染や接種で免疫が幾重にもできているので分かりにくい。その点、中国の場合には免疫の「壁」(これを集団免疫だと誤解しているが、まったく間違いだ。コロナについては集団免疫は成立しないことは、世界の専門家の共通認識である)がきわめて薄い。そこで防御の政策をとっぱらって感染拡大したわけだから、オミクロン株のありのままの性質が見えてくるというわけだ。

このオミクロン株の性質については、これまでも病理学的にだいたいのところはつかめている。オミクロン株が感染するさいには肺の奥まで入っていく前に、気道の上部で病巣を作ってしまう。このことがオミクロン株は重症化リスクは低いが感染力は強い理由とされてきた。とはいえ、これはあくまでハムスターなどを使った実験と、人間で観察しうるかぎりの、欧米での症例からいわれてきたことだった。それでも大体のところでいえば、オミクロン株はデルタ株よりは重症化しないが、それ以前の変異株とは同じくらいというのが共通した見方となっていた。

とはいうものの、それではオミクロン株が重症化しないので、死者数も少ないと考えてよかったのだろうか。そうではない。オミクロン株の感染力が強いために、たとえ感染や接種による免疫の幾重にもわたる壁があっても、感染者の絶対数が圧倒的に多ければ、やはり死者数は多かったのである。

これは例えば、自国はコロナ対策を世界中の国よりもうまくやったと、いまも多くの国民が信じているスウェーデンのデータで見て見れば分かる。たしかに、去年から今年にかけてのゲキレツなオミクロン株の感染爆発のさいには、この国の人たちには感染や接種による免疫があったのに、かなりの死者数を出した。その後、きわめて少ない感染者で推移して、最近はゼロに近い数値しか出てきていなかった。

ところが、死者数をみればけっこう増えていて、このところ昨年の死者数を上回る危険性があるといわれている。これはスウェーデンがPCR検査を急速にやらなくなったからで、無症状の感染者はまったく把捉できていなかったが、死者数にはあいかわらず大きな影響を及ぼしていたというわけである。嗤ったのは、スウェーデン・シンパと思しき人間が、向こうではもうマスクをしていないし、感染数もほとんどゼロだったことを根拠に、日本は検査を増やしたから感染数が増えたように見える、などと発言していたことだ。話は逆で、日本は検査数を増やしていなかったが、スウェーデンは極端に検査数を減らしたので、感染数は減ったように見えたが、実際の感染者はそれほど減らず、死者数はいま急進中である。

さて、冒頭に述べたように、いまの時点で中国での感染爆発から分かったことを、箇条書きにしておこう。第一に、中国の衛生当局および習近平はまったく愚かな政策を採用してしまい、さらにいまも愚かなスローガンで切り抜けようとしている。第二に、こんな危険なスーパースプレッダー地域が隣国があるのに、日本という国はただちに行うべき対中国感染防止策をとっていない。中国からの渡航者は少なくとも一時的には遮断すべきだろう。

第三に、コロナは放置していても風邪だから、大丈夫だといっていた人たちが、いかにデタラメだったかが目の前で展開している。いま、同じことを中国政府が公共放送でプロパガンダしているのだ。第四に、中国で起こっていることに、日本のマスコミは鈍感すぎるということが明らかになった。少なくとも欧米に比べて2日遅れの報道はいただけない。第五に、免疫の初歩的知識もないのに、評論家ぶっていた人間たちの虚言や詐話が明らかになっている。思いつくのはこんなところだが、それぞれについて細目を書くのが、もはやかったるいので、いったんここらでやめておく。

【追記 2023年1月2日】中国からの渡航者に対して、12月30日にようやく水際対策を強化した。なんとも遅すぎる。12月26日、イタリアのミラノに着いた中国からの航空便2便の乗客半分が陽性だった。水際対策を強化したのは、すでに韓国、イタリア、アメリカ、インド、台湾、さらにイギリス、フランス、スペイン、イスラエルも加わった。いっぽう、中国当局は入国の制限を取り払い、出国の制限も廃止した。何から何まで自分勝手な国だと呆れるしかない。日本では岸田政権のこの措置を、何故かせせら笑ったTVコメンテーターもいたが、中国人渡航者の多い国は当然そうするだろう。(最初の投稿は12月27日でした)

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