新型コロナの第8波に備える(2)ゼロコロナ解除で元の木阿弥になる中国

中国のゼロコロナ政策に対して、多くの抗議行動が繰り返され、習近平は規制緩和に舵を切ったと報じられている。これは抗議行動の勝利というよりは中国政府の責任放棄といったほうがよい。これから恐らくは各地で感染拡大が始まり、それに対して中国政府は何の対策も採らないかもしれない。それは人民が望んだことではないかとする、無責任な政府への転落にすぎない。

これまでゼロコロナ政策は、最初のころは低感染かつ低死亡率を実現して、日本でも一部の専門家たちは称賛して、「ただし、これは中国だからできることだ」という説明をしていた。ロックダウンあるいは緊急事態宣言で当面の感染を抑制し、それを繰り返しながらワクチンの完成と普及を待つという戦略は、あまりにもご都合主義に見えたのかもしれない。しかし、中国においてもワクチンは必要だった。そこで自国製を接種し始めたが、その効果が劣るだけでなく、60歳以上への接種を怠るという決定的なミスを犯した。

さて、習近平は先日、「オミクロン株は死亡率が低いので何とかなる」との考えを表明しており、これから規制を緩和していってもそれほどのことはないと踏んでいるようだ。しかし、これまでのゼロコロナ政策というのは、結果として間違っていたかもしれないが、それなりにコロナ感染拡大を抑えるものではあった。第一に、大量のPCR検査によって感染者を見つける。第二に、統一的な隔離政策で感染者との接触を回避した。第三に、徹底的なロックダウンで感染が広がるのを排除した。

こうした政策を「ゼロコロナ」と呼んでいるが、中にはヨーロッパあたりの「ロックダウン」政策と混同している人がいる。しかし、先ほども述べたように先進国のロックダウンは、コロナワクチンの感染と普及を前提としたもので、中国のようにひたすら物理的にシャットアウトしてしまうという政策とは異なっている。しかし、欧米日は高い効果のあるコロナワクチンが比較的早く完成したことで、ロックダウン+ワクチンの戦略が採れるようになったわけである。また、習近平が勘違いしているのは、欧米日でオミクロン株の感染者が致死率が低いのは、それまでの複数回の感染やワクチン接種によって「免疫の壁」(これは集団免疫のことではない)が幾重にも重なっていることも大きいのだ。隔離政策で凌いできた中国の場合にはこの免疫の壁にはあまり期待できない。

英経済誌ジ・エコノミスト12月7日号は「中国がゼロコロナ・マシーンを解体してしまった」との記事で、これからの惨状を予測している。先に述べたゼロコロナ政策の3つの柱にしたがってみていくと、まず第一のPCR検査の緩和によってどうなるか。この数日間の間に北京、上海、その他の大都市で買い物や公共交通を使用するさいの非感染証明書の提示が廃止された。また、医療関係者などの特別な職種を除いて、PCR検査も奨励されなくなった。その結果、中国の通りから検査ブースが取り去られたという。

第二に、検査で陽性になった人たちの隔離措置が緩和された。いくつかの都市では、陽性を示した人や軽い感染の兆候を見せている人でも、集団隔離ではなく自宅で待機することができるし、陽性かどうかについても自分で検査することが認められた。この政策は間もなく全国に適用されるとロイターは報じているという。

第三に、ロックダウンがかなりの速度で解除されている。野村証券研究所のデータによれば、12月5日現在で約4億525万人が何らかの形でのロックダウンの対象となっており、14億の人口をもつ中国でも高い割合だった。これが先週には76万人まで引き下げられたという(ちょっと考えられないが)。このロックダウン解除は大都市が先行しているが、これも徐々に全国の都市におよぶと思われる。

こうした劇的な政策変更に伴って、これまでの政策についてのプロパガンダも劇的に変化していると同誌は指摘している。これまでコロナウイルスは、国営放送では恐るべき病気をもたらすことになっていたが、いまやその猛威は鎮まりつつあることになった。たとえば、アメリカですら100万人の死者を出した状態から抜け出し、コロナ後遺症もアメリカ社会を「ずたずたに切り裂いていた」が、中国はそんなことにはなっていないというわけだった。

こうした古いプロパガンダの代わりに、今流されているプロパガンダは、オミクロン株はこれまでのコロナウイルスほど脅威ではなく、少なくとも中国におけるデータでは、感染しても死んだり亡くなる致死率はきわめて低いというものだ。そもそも、コロナ後遺症などというのは、「まったく根拠のないもの」という専門家が国営マスコミで断言して、いまのところは素直なタイプの人民を安心させているらしい。

これほどの急激な変化は、もちろん、政府の政策に対する抗議行動の「成果」かもしれない。しかし、これほど急に緩和してしまえば、多くの反動リスクが生まれるのは当然だろう。そもそも、オミクロン株だからこそ感染拡大が急激だったわけで、そのために中国経済は低迷することになったし、中国政府がしゃかりきになってゼロコロナ政策を強化し、大都市をロックダウンさせていったのではなかったのか。

中国人民は政府のプロパガンダに随う傾向は強いかもしれないが、逆にほとんど信じていない人たちも大勢いると同誌は指摘している。たとえば、重慶市のある喫茶店のマスターは「あんまり長く重圧の中で暮らしたので、みんなまだピンと来ていないんですよね。しかし、先の分からないことが一番怖いです」と語って、高齢者の親戚についてとても心配していると付け加えたという。もちろん、この重慶の喫茶店主が本当に存在しているのかどうかは知らないが、こうしたタイプの人民も多く存在するのである。

この「分からないこと」への心配はもっともなことで、先ほども述べたように中国ではワクチンの接種がうまくいっているとはいえない。もっといえば、効果の高いワクチンを自国で生産できなかったので(さまざま試みられたことは確かだ)、どうしてもロックダウンに至るゼロコロナ政策に依存せざるを得なくなったのである。そして、このコロナ接種は(中国政府のデータより現実に目を向ければ)まだまだ足りないと思われる。

ジ・エコノミストの独自シミュレーションによれば、中国政府があまりにも急速にコロナ規制の緩和を続けると、制御不可能な感染拡大が急伸して何十万人もの死者が生じるという。しかし、これはあまりにも現在の中国の統計を元にした予想値であり、私はその数倍、あるいは10倍にすらなるのではないかと憂慮している(たとえば、フィナンシャルタイムズ紙のシミュレーションでは、これからの3カ月だけで160万人の死者を予測している)。それを避けたければ、高齢者へのワクチン接種を加速するしかないのだが、いまのところ80歳以上の人民は、わずか40%の接種率でしかない。このままでコロナ規制緩和に走れば、当然、まだ接種していない高齢者がウイルスの餌食となるだろう。

この記事の最後は新華社の解説を引用している。「政策の実行によって感染流行を阻止するガイドラインと政策の正しさ、科学性、そして効果が証明されました。いまや最も困難な時期は過ぎ去りつつあります」。同誌の最後のコメントは「もうただ結果を見るしかない」というものだが、こうした奇妙で愚かしい楽観が、中国の東海岸沖の島国政府にもあるのではないかと思うのは、果たして無駄なことだろうか。

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