中国の不動産バブル崩壊!(9)「習近平やめろ!」はゼロコロナとバブル崩壊への怒りの爆発だった
中国の上海では「習近平やめろ!」との連呼もあった。ほぼ同時期の25日から27日にかけて、15地域で27の抗議行動が見られ、半年の間に822の抗議行動が起こっている。今年だけで688のストライキが生じているとのデータもある。その多くは苛烈なゼロコロナ政策に向けられたものだが、では、中国政府は、ゼロコロナ政策を中止することができるのだろうか。
英経済誌ジ・エコノミスト電子版11月28日号が掲載している中国での「不満」や「抗議行動」に関するデーターはきわめて興味深い。「中国での抗議行動はどれほど共通点があるのか」というタイトルだが、実は、その一部は同月16日号でも掲載された。今回の上海の抗議デモを盛り込んで、改訂版を再掲載している。「先日の混乱は、これまでの他の不満のデモンストレーションに続いて起こったものだ」というのが結論だ。
この記事によれば、アメリカのシンクタンク、フリードム・ハウスのケヴィン・スレーテンは、11月25日から27日にかけて、中国の15の地域で27の抗議行動が起こっていると指摘している。また、彼と同僚が作成した「中国抗議行動モニター」によれば、5月18日から11月22日にかけて中国全土で822の抗議行動が生じており、けっして上海や北京のデモが孤立して生じたわけではないことが分かる。
さらに、香港にあるNGO「中国労働ニュース」によれば、労働者のストが2022年の今までだけで688件生じており、これもまた中国内での「不満」や「怒り」の表明だと指摘されている。こうした抗議の声の表明は、現象としては、ゼロコロナ政策が厳格化されることで水面下から顔を出したが、問題そのものは一定の時間をかけて醸し出されたと同誌は強調する。特に不動産バブルの崩壊で資産が危機に陥ったケースなどは典型的で、93の都市で244件の抗議行動があったという。このなかで多いのは、住宅を購入したのにデベロッパーが破綻するか経営危機におちいり、ローンだけを取って住宅を渡してくれないというケースだ。
では、中国政府は、不満の噴出のきっかけとなったゼロコロナ政策を、やめる気があるのだろうか。同誌11月28日号は「中国経済はもうゼロコロナ政策には耐えられない」を掲載して、いくつかの観点から分析している。まず、身も蓋もない結論からいえば「そんなことをすれば、ますます混乱がひどくなるかもしれない」というもので、これはリード(惹句)として掲げられているのだが、本文の細かい部分も読んでおいて損はない。
まず、いまの時点でゼロコロナ政策の失敗で、どれほどの経済の落ち込みが生じているかを見てみよう。11月14日に始まる週における航空路線の利用率は前年度に比べて45%もの下落を示した。中国の3大航空会社の損失は2022年の9カ月だけで7400億元に達している。また、地下鉄の大手10社の前年度比で利用が32%も低下。貸しオフィスの収益が64%失われ、映画館で開業しているのは11月27日現在で42%にすぎない。若い労働者の失業率は19.9%に達し、11月25日までの1週間の道路の交通量は昨年の年間平均より33%も低くなった。
こうした数値で気をつけねばならないのは、都市のデータよりも地方のほうが悪いことも、大いにありうるということだという。大都市はそれなりに注目度が高いので、行政もごまかすことができにくい。それに対して地方はゼロコロナ政策というタテマエに合わせて、うまくいってないのにそれを隠す傾向があると同誌はいう。したがって、地方の数値や推計のもとになっているデータの信頼度が低いだけでなく、たとえば事実上ロックダウンをしているのに、公式にはロックダウンだと発表しないケースがあるのだという。
もちろん、北京政府も赤信号がついている経済を何とか活性化しようと、金融政策による刺激策を発表したり、ゼロコロナ政策の見直しを思わせるような緩和項目を提示したりする。しかし、こうした政策の変更は、少なくともこれまでは半端なものが多く、いまの苦境を打開できる政策変更にはなっていない(「中国のバブル崩壊!〈8〉政府の救済策36項目は本当に効くのか?」を参照のこと)。
典型的なのは先に発表されたゼロコロナ政策の20項目変更だが、その後、コロナ感染が激しくなると、ほとんど顧みられなくなってしまった。そしていまは「来年の5月に重要な政治会議が開かれるので、それまでは根本的な変更はありえない」という見方が広がっているという。中国共産党大会ほどではないが、またしても「重要な会議」が政治的にリスクのある変更をしない口実になっているのだ。同記事の最後の段落を読んでみよう。
「たとえ、中国政府がゼロコロナ政策を直ちに行ったとしても、2024年まではポジティブな効果は感じることができないだろうと、コンサルタント会社のアナリストが予測している。その間は同じような混乱と不安定が続くというわけだ。経済成長率は低いままで、地方政府はどうやったら(独自の)ゼロコロナ政策を続けられるかに集中するから、抗議行動はこれからも頻繁に起こることになるだろう」
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