コロナ恐慌からの脱出(32)どの国の消費が先に復活するのか

アメリカの膨大な財政支出をあてこんで、さまざまな皮算用が始まっている。そのひとつが第2次世界大戦が終わった直後のような、巨大な消費のリバウンドが起こるというものだ。まったくの空想ではなく、データも提示されているのでここで紹介しておくが、さまざまな条件があるということを前もって申し上げておきたい。

英経済誌ジ・エコノミスト電子版3月9日号に掲載された「世界の消費者は現金の山の上に座っている。彼らはそれを使うのだろうか」という記事は、これから世界経済はどうなるかを知りたければ、1945年を思い出せという。1943年にアメリカの乗用車生産台数はわずか139台にまで落ちていた。それが1945年には800万台を超えた。いまや世界の消費者は巨額の貯蓄をもっているから、それを使うようになれば、あっという間に景気回復が実現するというわけである。

同誌はちょっとした計算をしてみせている。昨年の最初の9カ月間、もしコロナのパンデミックが始まらなければ、先進21カ国では3兆ドルの消費があったはずである。ところが、いまや21カ国の家計には総計で6兆ドルもの貯蓄がある。ざっといって、いま21カ国の「超過貯蓄」は3兆ドルだといえるという。

この「超過貯蓄」という概念は、コロナなどの死亡者を推計するさいの「超過死亡」のもじりのようなものだ。これまでの数年間から推計した死亡数より何人多く亡くなったかが超過死亡であるのに対し、この超過貯蓄はこれまでの数年間から推計した貯蓄額より(消費をしないで)どのくらい多く貯蓄したかが超過貯蓄だというわけである。

この超過貯蓄が世界でどれくらいになっているか、数カ国で見たものが右のグラフで、カナダとアメリカがGDP比で6%を超えているのに対し、ドイツやフランスは2%を少し超える程度である。こうした違いは、コロナ対策でどのような政策を採用したかに関係しているが、給付金のようなダイレクトな方法をとれば、消費に回らない分が超過貯蓄として積みあがるわけである。

こうした超過貯蓄がコロナ終息の過程で消費に回れば急激なリバウンドを生み出すが、あいかわらず貯め込んでしまえば大した効果はないだろう。そこで、いくつかの条件によってリバウンドが起こる場合と、起こりにくい場合を考察しているレポートを紹介している。JPモルガン・チェースのものでは、裕福な国はすぐにもリバウンドが起こって、パンデミック以前の状態に戻るという。また、ゴールドマン・サックスの場合には、アメリカのGDO比で2%が消費に向かうと予測している。

いうまでもなく、こうした予測は、実はかなり不確実なもので、コロナ終息だけでなく他の条件も細かく見ていけば、きわめて複雑な話になってしまう。ジ・エコノミスト誌は大きな条件として2つを取り上げて、かなりシンプルに分析している。第1が、「家計のなかでも現金(すぐに使える金)の全体が、どのようにばら撒かれているか」。第2が、「バイデン政権のような給付金は臨時収入と受け止められるか、それとも富と受け止められるか」である。

第1の問題は、裕福な人たちは追加の収入があってもすぐに消費することはないが、貧しい人たちは追加の収入があればすぐに消費に回してしまうので、全体の経済を活性化するのに効果があるということだ。そこで、昨年のアメリカにおける家計バランスを、貧富4段階にわけて貯蓄される割合をみたものが、左のグラフである。このグラフをみれば最も貧しい層の場合が、昨年12月時点で、前年に比べて40%も高い伸びを見せている。これは最も豊かな層の25%に比べてかなり高い。ということは、これからコロナ禍の状況がよくなれば、全体の消費が加速する可能性は高いというわけである。

第2の問題は、第1の場合よりずっと複雑だが、英国銀行のアナリストによれば、これまでのさまざまなデータを検討すると概要が分かる。アメリカと日本の場合には、政策による超過貯蓄は「臨時収入」として受け止められ消費に向かう傾向があるのに対し、ヨーロッパの場合には臨時収入と受け止める傾向は小さく、スムーズに消費に向かわないという。

これは日本経済にとっては朗報といってよいが、もちろん、ざっくりと2つの条件に絞って大雑把に考えたときであることを忘れるわけにはいかない。そしてまた、ワクチンの接種が遅れていることも気になる。コロナ禍がいま進んでいるワクチン接種によって、確実に消滅していくということが大前提であることも、常に念頭に置くべきだろう。

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