今のバブルはいつ崩壊するか(16)顕在化する債務と収縮する経済

前回からの続きで、アメリカの金融市場がどのような状態になっているかを、もう少し細かく見ておこう。ニューヨーク証券市場が大暴落を続けているのは周知のことだが、リスクの高いローンなどは、すでに売買が停止されてしまっている。

Bloomberg電子版より

たとえば、レバレッジドローンなどは、2009年以来の低水準に下落して、3月19日付のブルームバーグ電子版によれば「もはや、調達を試みようとする借り手もいなくなってしまった」。

このレバレジドローンについては前回のべたように、業績が必ずしもよくない企業が資金を調達するさいに利用する「ローン」だが、いくつもの規制を加えてリスクを低減したということになっていた。しかし、近年はその規制が緩和されて、ハイイールド債とあまり変わらなくなっていたといわれる。

レバレジドローンに注目してきたのは、このローンが2008年に始まる世界金融危機の引き金になった住宅ローン担保証券や、それからさらに組成される債務担保証券に、きわめて似た仕組みのものだったからだ。

そして、2008年のさいにも、住宅ローン債務証券だけでなく、こうした金融工学を応用したことになっていた証券が多くあり、それらがいったんバブルが崩壊すると、次々と取引停止に追い込まれて、「毒証券」(スティグリッツの言葉)であることが明らかになっていったからである。

もちろん、今回のバブル崩壊が同じような現象を伴うとは限らないが、高い確率でそうなると考えておいたほうがいい。なぜなら、初めは金融工学を厳密に応用し、規制もしっかりしていたはずの住宅ローン担保証券が、でたらめな応用と規制緩和によって文字通りの「元凶」に変貌していたことが、誰の目にも明らかになったのは、バブル崩壊が起こってからだったからだ。

financial times電子版より

いっぽう、3月12日付のフィナンシャルタイムズ電子版は「中国の債務問題は、実は不動産問題だ」という記事を掲載している。巨大に膨れ上がった中国の負債は、それを形成してきたのは不動産への投資だったのだという意味だが、いまさら何をいっているんだと思う人も多いのではないだろうか。

ともかく、同紙が提示している数値を見てみよう。IIFによれば、中国の債務はGDPの310%に達しており(これは政府債務を含む。民間だけだと210%くらいか)、新興市場(EM)の72兆5000億ドルの債務のうち、約60%が中国の債務である。

また、FTコンフィデンシャル調査によれば、中国の家計の90%は少なくとも1つの不動産を保持し、35%が2つ以上の不動産をもっている。しかも、調査に答えた人の61%の人が、中国政府が不動産投機をやめるように長年キャンペーンを展開しているにもかかわらず、これからも不動産の価格は上昇すると予想している。

こうしたユーフォリア(楽観的予測)から生まれる不動産投資は、実は、2007年ころのアメリカとそっくりだ。2018年にも中国の不動産バブル崩壊が話題になったが、このときヘッジファンドのジョージ・ソロスが「米国バブル崩壊のころのウォール街と、気持ちの悪いほど同じだ」と慨嘆したことがあったが、新型コロナによるパニック以降、どうなったのかは不明である。

なんのことはない、中国の債務の多くは、こうした長期にわたる不動産バブルによって積みあがったものであり、破綻を阻止しようとした中国政府の財政出動や金融緩和が、さらなるバブル拡大を促すということを繰り返したきたわけである。この「長期的」というところは、日本の不動産バブルとも似ているだろう。

「中国は、新興市場国たとえばアルゼンチンとかレバノンとは違う。中国にあるのは債務問題なんてもんじゃなくて、不動産問題なんだ。巨大な不動産のストックが2次的に借金の山を作り出してきたんだ」と、同紙でUSBのストラテジストが証言している。

すでに、中国におけるシャドーバンキングも社債市場も停止状態だと思われるが、これからその巨大な債務が姿をあらわす。あるいは、中国政府がその実態を必死になって隠すようになるだろう。しかし、巨大な債務は隠しても隠しきれるものではない。さらに中国政府が苦し紛れの財政・金融政策を採用すれば、こんどは中国から海外へのキャピタルフライトを引き起こすだけだ。

ここまでくれば「今のバブルはいつ崩壊するか」というシリーズ名は場違いといってよい。今回でいったん終わりにし、これからは世界的な景気後退と不況について考えるべきだろう。近日中に新シリーズ「コロナ恐慌からの脱出」(仮)を始める予定だ。もちろん、テーマと歴史を振り返るという方法は引き継ぐ。

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