今のバブルはいつ崩壊するか(5)的中したリーマンショックの予言

wsj.comより

今回のバブル形成がアメリカ中心であるならば、その崩壊もアメリカ発になるだろうということは第4回で述べておいた。もちろん、これは絶対的なものではなく、2008年の崩壊が「リーマン・ショック」とは呼ばれていても、すでにヨーロッパの銀行がリスクの高い証券をかかえて次々と危機に陥っていたのだから、兆候だけは別の地域で見え始めるかもしれない。

しかし、その根本的な部分はアメリカにおける住宅バブルである。その大きな原因となったモーゲージ・ローンの危うい証券化もアメリカで進行したものだった。その意味で、やはりアメリカ発というべきものといってよい。

さて、すでに第4回で述べたように、これまでアメリカ発のバブル崩壊を予想した経済学者は存在しており、最も高名な人物がロバート・シラーだった。彼は「裁きの日の経済学者」と呼ばれたわけだが、もう一人「終末博士」という名を頂戴した人物がいる。ニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授である。

ルービニ(あるいはルビーニ)は国際経済学が専門であり、2006年のIMFにおける会議で、アメリカのモーゲージ・ローンが債務不履行を起こし始めているが、これは全世界の金融システムが機能不全に陥る兆候だと述べて、場内の聴衆に呆れられた。当時はまだアメリカの住宅ブームも真っ盛りで、そんな事態は考えられなかったのである。

しかし、ルービニの予測はかなり輪郭のしっかりしたもので、住宅バブルが近いうちに崩壊し、「金融システムでシステミック・リスクが発生し」、ヘッジファンドや投資銀行、さらにはファニーメイ(連邦抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅金融抵当金庫)などの政府系機関も経営危機に陥るとまで述べていた。

日本では「サブプライム・ローン問題」と呼ばれた住宅ローン証券の焦げ付きが2007年から現実となって、翌年2月にルービニが論文「金融システム融解の危険増大:金融崩壊への12ステップ」を書いたときには、もう逃れられない目前の事件となっていたが、この時点でも楽観的なポジションを取りたい人は現実を認めようとしなかった。

この論文をいま読めば、当たり前のことが書いてあるような印象を受けるかもしれないが、まだまだアメリカでは最悪の事態を回避できると思っていた人は多かった。日本ではさらに呑気で、2007年夏に私が『文藝春秋』にサブプライム・ローン問題は本格的な破綻の前触れだと書いても反響は少なく、この問題での原稿依頼はまったく来なかった。

ルービニが何を根拠にして「悪夢」や「カタストロフィー」を語っていたのか、この論文から拾ってみよう。(1)アメリカ史上で最大の住宅バブル崩壊が起こっていて、住宅価格は20%から30%も下落している。(2)すでにモーゲージ・ローンの破綻にとどまらず信用バブル崩壊が始まっているが、これは金融工学の過剰適用や証券化が原因で、深刻なクレジット・クランチ(信用収縮)を引き起こしている。(3)アメリカのGDPの70%を占める消費を支える家計の負債が、住宅価格の下落やクレジット・クランチのせいで増加している。したがって、景気後退は長引き、少なくとも6期(1年半)は続くだろう。

いまから見れば、こうした事態はすでに歴史になってしまったので、この3つの根拠が洞察に満ちたものだとは思えない人もいるかもしれない。しかし、この時期において3つの事態が、長期的で世界的な金融システムの危機につながると判断したルービニは正しく、なんとかなると思っていた(あるいは、思いたかった)経済学者は間違ったのである。

ルービニはこの論文で、以降、どのような事態が生じるかを12ステップ(といっても、必ずしも時系列ではない)に分けて予測している。

(1)いまの住宅バブル崩壊はアメリカ史上最悪であり、すぐに終わるとはとても思えない。(2)いまの時点でサブプライム・ローンによる損失は2500億ドルから3000億ドルに達したと思われる。(3)いまの景気後退はクレジット・カード、自動車ローン、学生ローンなどにおいて、急激な負債増加をもたらすと思われる。

また、(4)これから生まれる損失は不確実性が大きいが、それでもおそらく100億ドルとか150億ドルの救済パッケージなどでは間に合わないだろう。(5)商業用不動産ローンもサブプライム・ローンと同じようにメルト・ダウンすると思われる。(6)住宅、土地、商業用不動産に融資していた銀行は、その規模を問わず破産する可能性がある。

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さらに、(7)銀行のレバレッジ・ローンはすでに巨大なものに膨らんでいるので、これから深刻なリスクにさらされる。(8)深刻な景気後退が進行していくなかで、企業倒産の巨大な波が生じることになる。(9)銀行以外の金融機関が行なった信用貸付「シャドゥ・バンキング」は、じきに深刻なトラブルに見舞われるだろう。

そして、(10)アメリカおよび世界の株式市場はアメリカの景気後退に反応するから、世界的な景気後退が始まることになる。(11)クレジット・クランチの悪化のために信用市場やデリバティブ市場から流動性が失われることになる。(12)資本の損傷、信用の縮小、流動性の制約、資産の投げ売りなどが損失の悪循環を生み出し、それはまたさらなる損失と信用の縮小を加速していことになる。

なんとも陰惨な事態の連続だが、こうした事態はルービニがこの論文を発表して7カ月後に実際に起こったことだった。現実に起こっている事態を正確に把握したうえで、最悪の事態をシミュレートすることで、ルービニは「世界金融危機」と呼ばれる事態をかなり正確に「予言」することができた。

そこで気になるのは、いまのバブルをルービニがどのように把握し、そしてどのように予測しているかである。それは次回以降に詳しく書くことになるが、概要だけ述べておけば、ルービニはいまのアメリカ金融経済が危機にあることを認め、おそらく2020年には破綻の条件がそろうと語っている。

この連載での関心事である「何がバブルを崩壊させるか」という観点でいえば、すでにルービニはスティーヴン・ミームとの共著『危機の経済学』でミンスキーに拠りながら、2007年から翌年にかけての崩壊は「企業の経営破綻」や「驚くような詐欺の発覚」がきっかけになっていたと述べている。

さらに注目すべきは、これからの2020年の危機を論じるさいに、米中経済交渉、英国のEU離脱、米国とイランとの対立について、ひんぱんに言及するようになっている。これは、政治的事件などの外生ショックが崩壊のきっかけであることを認めているわけで、次回はもう少し詳しく紹介したいと思う。

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