コロナ恐慌からの脱出(26)ワクチン完成で始まる証券市場の乱高下

11月17日の東証は急騰したので、いよいよ日本経済もコロナ禍のトンネルを抜けたかと思った人もいるかもしれない。しかし、この急騰は前日のニューヨーク株式市場の急騰の影響を受けており、そして、ニューヨーク市場において急騰したのが航空機大手ボーイング、石油大手シェブロン、アミューズメントのウォルト・ディズニーだと知れば、むしろ、来るべきものが来たのではないかと憂慮したほうがよいのかもしれない。

すでに「コロナ恐慌からの脱出(21)コロナ・ワクチン完成がバブル崩壊の引き金だ」で書いたように、ワクチンの完成というコロナ禍からの脱出の予兆は、これまでのコロナ経済およびコロナ政策の終わりの始まりである。となれば、急速に投資先が変わっていくからお金の流れも大きく変わってしまう。それでも株価の高低が銘柄間の移動で平均はほぼ維持されるのならいい。オーバーシュートしてしまって全体の下落になってしまう危険は少なくないだろう。

このシリーズで何度も取り上げてきたエール大学のロバート・シラーを中心に、世界の株式市場5つについて、コロナ禍の影響を分析した論文「CAPEとコロナ・パンデミック効果」が10月19日に発表されている。時期的に9月末までのデータを使っているが、いまの世界の株式市場の不可避というべき変化について示唆するところが大きい。とはいっても、すでにシラーがメディアで発言してきたことの延長線上にあるわけだから、それがデータ的に跡付けられただけのことだ。

今回は大雑把に紹介しておくが、詳しく知りたい人はアメリカのメディアでも紹介されているので(たとえば、Institutional Investor 10月20日付)、読んでいただきたい。さて、まず概要からいえば、今回のコロナ禍の最中の世界的株価の上昇は、ひとつはコロナ対応のための低金利とマネーの供給増であり、もうひとつは、テレワーク推奨によって生まれた「これからIT関連企業が繁栄する」というナラティブ(もっともらしい話)から生まれてきたものである。

まず、シラーが開発してきた株価指標CAPE(シラーPER:青色)と10年国債の実質利回り(黄色)、さらにはこの2つ差の数値グラフ(灰色)を見れば、たとえばアメリカにおける金利低下と株価高騰、債券から証券への傾斜が如実に見て取れるわけである。こんなことは、プロの投資家や証券関係者ならば、毎日いやというほど見てきた構図だろう(上の2つの図版)。

もうひとつのIT関連への過剰期待は、産業における分野別の株価変動をグラフにしたものから明らかになっている(上と下の図版)。いったん、コロナ禍が拡大するなかで世界の株価は下落するが、そこから回復させていったのがIT関連であったことは明らかである。ただし、ここで注意しなくてはならないのは、IT銘柄での恩恵を十分に受けたのはアメリカだけで、イギリス、ヨーロッパ、日本はそれほどでもなかったという現実である。

にもかかわらず、なぜ世界の5つの証券市場において急速にリカバリーが進んだのだろうか。シラーたちは、やはり金利の徹底した低さをあげている。「エクセスCAPEイールド」という指標を考案している。〈エクセスCAPEイールド=(1/CAPE)-10年もの国債実質利回り〉。コロナ禍が進んだ期間、この数値を追いかけていっても、まだワクチンが出来ていなかったにもかかわらず、「エクセスCAPEイールドは、ほぼすべての期間、ほぼすべての市場において高かった。これは国債の利回りに対して株式がはるかに魅力的だったことを意味している」。

そして、いま直面しているのが、「セクター・ダイナミック」と呼ばれる現象である。つまり、これまで投資先とされていたIT関連の分野は、コロナ禍を前提としていた急騰だったゆえに、ワクチンが次々と完成に近づいたとの情報が流れるにつれて、これまでコロナ禍の犠牲となっていた分野の株価が、将来性から考えた場合の価値が「安価」「買い得」であるとの評価を受けることになる。株価市場の構造は大きく変化せざるをえないだろう。

11月16日のアメリカで見られた航空産業、石油産業、アミューズメント産業の株式への強い引力は、まだ長期に続くものとはいえないかもしれない。バイデン政権が成立すれば、それなりのコロナ対策を行い(2.2兆ドル規模といわれる)、FRBが金利をゼロに維持し続ければ、トランプ政権下での条件が維持されるからである。しかし、輸送と保存に問題はあるもののファイザー社がワクチンを製造し始め、輸送と保存の問題を解決したらしいモデルナのワクチンが普及すれば、状況は大きく変わっていくことになる。

まずは、以前、述べていたことの繰り返しになるが、今回はシラーたちのグラフを多用した論文の紹介ということで、ここまでにしておくことにする。こうした「ダイナミック」となった金融市場が、どれくらいの速度で変わっていくのか。どれほどの規模なのか。なるだけ早く詳細な紹介をしたいと考えている。

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